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BLUE EYE―碧き眼―  作者: 斬谷恭平
第一章【蒼の章】
14/39

1-14 武神家分家一神威家

 大人びた綺麗な女性、仁居神錺(にいがみかざり)さんとのお茶の時間。

 因みに俺先程からずっと面喰って緊張してしまっているので動きがぎこちなくなっている。そんな挙動不審な様子を悟られないように何か質問することが無いかと頭を絞って考える。

「あの、錺さん何でさっきはテレポートを使って移動しなかったんですか。使ったほうが早く移動できて便利だと思うのですが。」

 和菓子を美味しそうに口に含みながら俺の質問を聞く。それを飲み込んだ後に口を開く。

「理由は二つあります。」

 指を二本上げる。

「一つ目に能力はあまり使わないようにしているんです。急ぎの任務の時に使えなかったら意味がないですからね。そして二つ目は、この屋敷では武神以外の者は一部を除いて能力を使用することができません。私はその一部に入っていないので能力の使用は屋敷内に置いて制限されています。」

 では梓がこの部屋で能力を使用できたという事は、神成家は使用が許されている一部という事なのだろうか。

「神成家も使用が許可されているんですか?」

「いえ、違いますよ。今回梓ちゃんが許されたのは特例です。翔也さんの護衛の任務につくにあたり赭攣さまが特別に許可したんです。何せ任務の内容が内容ですしね。」

 成る程。特例だったのか。護衛が任務なら確かに能力の制限は解除していなければ難しいだろうな。

「んじゃその一部ってどこなんですか?」

「分家一の神威家です。神威家は役割と能力の性質上許可されています。」

 役割と能力?特殊な立ち位置なのだろうか。

「因みに、その詳細については私も知りません。武神家の治安に関わるという事なので口外はされていません。」

「流石分家の中で一番強いだけあるんですね。」

 神威家は十ある分家の中でも一番最強であり特殊なようだ。

「そういえば錺さんも分家二で強い方なんですよね?」

 緑茶を軽く口に含んでから答える。

「はい、確かに私たち仁居神家は強い方です。が、その強さというのも力というわけではなく能力の性質上の強さです。私たちは移動という性質に置いて一番強いというだけで戦闘とういう面においては神威家が分家の中でも最強なんです。」

 分家の中の強さというのは戦闘の事を指しているようではないようだ。しかし、神威家はその中でも戦闘において優れており様々な性質の最強よりも上に置かれているのだ。しかしそれを分家としている本家、武神家は一体どれだけなのだろうか。

「その神威家の人たちはどれくらい此処にいるんですか?」

 そんな簡単な質問にちょっと考え込む錺さん。

「どうなんでしょう。話に聞く限りではいるようなのですが私は会ったことがないんです。会う機会がないだけなのかもしれないですけど。もしかしたら翔也さんは会う機会があるのかもしれないですね。立場上は翔也さんは我々武神家本家分家が総力を持って守護すると決まりましたから。」

「え、そうなんですか!?」

 今の自分の立ち位置が把握できない。俺に一体何が起きているんだ。というより俺って…何なんだ?永劫という能力はそんなに守られなきゃならない程貴重なのだろうか。

「取り敢えず翔也さん。あなたは今あの式神家から総力をもって狙われています。あまり外出しないことをお勧めします。」

「え、でも消滅したはずだからそんなに居ないのでは。」

 武神家と式神家の戦闘の際に、式神家は一族諸共自爆。しかし一族全てではなく式神厭人のような生き残りもいた事が先日判明した。だが一族のほとんどは失われている。だから直接手を下せるのは式神厭人だけなはず。

 そしてそいつも、この前弍昃さんに深手を負わされたのだから暫くは動けないはず。

「何もあなたを狙っているのは式神家だけではありません。」

「それは一体どういう事なんですか?」

 式神家以外の何かしらからも俺は狙われているのだろうか。

「式神家も分家を所有しています。そしてあなたはその分家からも狙われています。」

「分家、ですか。」

「因みに式神家の自爆には分家も巻き込まれていたようです。ただその本家程被害は無かったようです。」

 想像以上に敵の数は多いようだ。どれだけの分家がいるのだろうか。武神家は十なのだろうから式神家もそれくらいなのだろうか。

「式神の分家はどれ位いるんですか?」

「それはわかっていません。」

「わかってないんですか?」

 分家の数すらわかっていないとは。武上家はかつてそんな敵と戦っていたのか。

「その理由としては名前がすべて“しきがみ”なんです。故に区別を付けるのが難しいのです。」

 全ての分家の名前が同じ。成る程、武神家は名前がそれぞれ異なっているのに対して式神家の分家は名前の読み方が全て同じようだ。となると調査の仕方も難しくなるのだろう。

 そう言えば今日の表れたあの狐のお面を被った二人。あれらは式神家の分家と判断して良いのだろうか。

「そうですね。あの二人は分家として判断しても構わないかもしれません。何よりも神器を所有していましたし。」

「それはどういう意味ですか?」

「式神家、特に本家なのですが神眼所持者が現れる割合が異常に少なかったのです。しかも少々特殊でしてね。故に式神家では神器が沢山作られたのです。そして本家が消滅した今それらは分家に渡っているのでしょう。」

 和菓子を口に含みながら話を続ける。

「最も、神眼の素質を持たないものが神器を扱うというのは至難の業です。故に神眼に関する研究は式神家の中でとても盛んだったようです。一様我々武神家でも研究は行われ神器も作られていましたがその質はそこまで高くありません。ただ我々能力の質には自信があります。」

 目を橙色に輝かせながら微笑む。その仕草に思わず背筋が凍る。

「と、ところで。」

「はい?」

 首を傾げておどけている。

「何でそんな軽装なんですか?」

 錺さんの服装は黄色いパーカーに、中は質素な鼠色のズボンとTシャツだけだ。因みにTシャツは身体にピッタリくっついておりそれはもう…。

「単純な理由ですよ。テレポートする時に余計な物がついていると難しいんですよ。本当は裸でいたいのだけれど。」

「は、裸ですか!?」

 思わず驚いてしまう。錺さん…それはダメです、色々と…。

「ま、そんな事をしてしまったら捕まってしまうよね。だから最低限の服しか身につけていないんです。でもこれでも私は女性です。だからこの黄色いパーカーはお洒落のようなものです。」

 少しだけ微笑む。

 確かに錺さんは元々が綺麗だからもうそれだけで十分なお洒落にはなっていた。

 この様な感じで錺さんとのお茶の時間は終った。因み高級だったであろう和菓子の味は勿論覚えてはいない。

「では、ちょっと食器を下げて行きますね。」

 錺さんはそう行って部屋を出て行った。


 ******


 かつて式神家と武神家は血を血で洗う争いを行っていた。

 そんな泥沼の中生まれたのが式神厭人である。そして物心つく前に、否生まれて直ぐに一族は殆ど消滅してしまった。

「只今」

「戻りました」

 廃屋の壊れた扉から狐のお面に水色の浴衣を着た二人が帰ってきた。

 しかし、その外見はボロボロだった。お面にはひびが入っており浴衣も汚れていた。

「いやーおかえり。」

 一方の厭人も現在大怪我を負っており体中の半分が包帯で巻かれている状態だ。そして床に敷かれた布の上で寝ていた。

「どうやら捕らえ損ねたようだね。」

 寝ている布の上から顔だけを上げてその二人の様子を見る。

「全く、分家一と二が二人がかりで掛かっても武上家分家六に敵わないとはね。式神家も落ちたもんだよ。」

 やれやれといった表情でその二人を見つめる。

識神井言井(しきがみいこい)織神易絲易(しきがみいとい)両名休んで回復した後に直ぐ生上翔也を捕らえに行け。俺も回復し次第向かう。」

「はい。」

「はい。」

 二人、井言井と易糸易は一礼した後に別室に移動した。

 参ったものだ。あの夜に自分があいつを覚醒を待たずに捕らえてればここまで大事にはならなかったはずなのだが。少し遊ぼうと思ったらこのような目になってしまった。反省しなければ。

「と言いつつも反省はしていないのでしょう?」

 艶めかしい声で扉の陰から姿を現す。

色神妖偽(しきがみようぎ)か。お前のような女が俺になんの用だ。」

 女、色神妖偽は少しずつ歩み寄ってくる。

「厭人さまのような方が余興を楽しまないはずがありませんものね。」

「ふん、お前に俺の何がわかる。」

 女はそんな反応も気にせずに怪しく微笑む。

「私は武神家をとても恨んでいます。厭人さまも同じではなくて?」

 厭人はそんな言葉に反応せずにただ視線を壊れたドアの方に移す。

「私はあの戦いで大切な人を失いました。」

 それでも女は言葉を続ける。

「復讐か。」

「はい。」

 厭人の問に短く答える。

「復讐何ぞ下らないぞ。俺は復讐などという低俗な動機によって動きはしない。」

「では厭人さまは何をもって武神家に攻撃を仕掛けるのですか?」

 ほんの少しだけ間を空ける。

「簡単だよ。」

 酷く歪んだ口で笑いながらその問に答える。

「翔也を捕らえて永劫を手に入れるためさ。」

 短く簡潔に目的を伝える。

 女は解答が納得いかないのか軽蔑の眼を厭人に向ける。意味がわからないというような感じだ。

 そんな視線に気付いたのか厭人は言葉を続ける。

「というより、お前は分家七であるとしても相当の力を持つ神眼能力者だろう。今のお前なら俺を倒すことなど障子に穴を開けるより簡単なはずだ。なのに何故俺を主として未だに仕え続ける。」

 そんな問に当たり前かのように答える。

「そんなのは分家として当たり前です。貴方様のために命を捧げる事は本望です。そのように血で刻まれています。」

「呪いのようなものだな。」

 ニヤニヤと歪んだ口で笑いながら呟く。そもそも式神家は本家としての力もなければ能力も所有していないのだ。それにも関わらずかつての先祖の交わした血の契約によってこんな末代まで子孫は縛られ続けられなければならないのだ。何と言う皮肉なのだろうか。

 自ら自爆して滅びようとする本家に使えなければならないのだ。

「なぁ、お前のその大切な人っていうのは俺の親たちの自爆に巻き込まれたとかじゃないのか?」

「いえ、武神家分家一神威の家の者に殺されました。眼の前で。」

「ほーう。」

 厭人は興味ありげにその話について耳を傾ける。身体を起こして女の方を見つめる。

「確か神威家の姿を見た物は誰も生き残れないという話を聞いたことがあったのだが。例外もあるんだねぇ。」

 神威家の者の姿を見たが最後。決して生き残ることは出来ない。

 そんな宣伝文句のような強さが武神家分家一神威家の特徴だったのだ。それにも関わらずその姿を見たという人間が目の前に妖艶な姿をしながら立っている。

「因みにその神威の奴はどんな姿だったんだ?」

 答えるのに暫く間を開ける女。

「その姿は私はよく覚えていないのです。まだ幼いという事もあってね。ただ名前だけは覚えています。」

「へーえ。どんな名前なんだ?」

 神威家の者が名前を名乗るなど益々興味深いことだ。隠匿であることも売りであるのに自らそいつは名前を名乗ったのだ。そんな変わり者の名前を知っておいて損はないだろう。

「そいつの名前は…」


 ******


 式神厭人の狙いは俺だ。だからこそ武神家に攻撃を仕掛けてくる。昨日の朱鳥の件と今日の梓の件も含めてだ。

 では俺がいなくなれば攻撃を止めるのだろうか。

 しかしそんなことは無いだろう。

 復讐だ。

 復讐をもってして武神家を攻撃するかもしれない。ならば俺は居ても居なくても一緒なのだろうか。

 否、式神の奴は復讐心などないかもしれない。

 あいつは朱鳥に止めを刺さずにあの山から立ち去って行ったのだ。だとすればそんな復讐心はない。

 とすれば目的は俺だけなのだろう。

 ならば俺がいなくなれば、俺が俺の能力を覚醒させずに死ねばこの戦いは終わるのだろうか。

 ………………………

「何考えているんですか?」

 不意にそんな声をかけられる。

 どうやら片づけから錺さんが帰ってきたようだ。

「何か年相応ではない表情でしたよ?」

「そ、そんなことはないですよ。」

 表情を明るくして誤魔化そうとする。

「そんなので私の眼をごまかす気ですか?私にはあなたの考えていることが丸わかりですよ。翔也さんよりも私は年上で様々な状況を潜りぬけてきました。」

 穏やかな声で話し続ける。

「なので、あなたの今置かれている状況とあなたの性格を鑑みれば心中を察します。」

 口調は穏やかだが俺の眼を心まで射抜くように見据える。

「死ぬなんてことは考えないでください。」

 諭すように話す。

「あなたを大切に思っている人がいることを忘れずに。」

 そういうと立ち上がる。

「さて、その大切なに思っている方が回復したようですよ。最も、あなたが一番に大切に思っている人はまだのようでそれは残念ですが…。」

 朱鳥は弎塑稀さんから言われているように回復まで時間を要すると言われていた。昨日の今日で回復するわけは無いだろう。

 それよりも梓が回復したのだ。これは喜ばしいことである。

「もうそろそろ来る頃ですよ。」

「そうですか。短い間でしたがありがとうございました。」

 一礼を述べてお礼をする。

「これは任務ですよ。お礼など要りません。」

 一言だけ述べると錺さんは部屋から出て行った。

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