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BLUE EYE―碧き眼―  作者: 斬谷恭平
第一章【蒼の章】
13/39

1-13 狐のお面

 梓の眼が強く紫色に光る。

『重力四倍!』

 梓は駆けだしながら両手に持っていた紫色の球体を地面に叩きつける。

 すると周囲の地面に複数の紫色の円が描かれる。梓に向かって駆けていた二人の狐のお面を被る人物はそれを回避するために横に避ける。正体不明の現象に危険を感じたのだろう。

 横にそれた二人は梓を挟むようにナイフを構えながら立つ。どうやら様子を窺っているようだ。

「どうやら判断能力は完璧のようですね。その円状の上に立てば自分の体重がたちまち四倍になってまともに歩けなくなりますよ。」

 敵二人を交互に見ながら話す。成る程、複数の丸い円に触れれば自分の体重が四倍になるのか。しかも散らばっているので所々隙間があいている。もし梓に接近したければその限られたルートしか通れない。梓からすれば敵がどこから攻めてくるのか直ぐにわかるといことだ。

「甘い」

「な」

 二人が呟く。

「近寄れないなら」

「投げるまで」

 そう言うとお互いナイフを高々と投げる。ナイフは地面の円に引き寄せられるように空中でいきなり落下を始める。しかし、垂直に落下することはなくその先は梓の方を向いているようだ。

「ヤバい!」

 梓は慌てて両手を合わせて広げ、結界を作って飛んできたナイフを弾き飛ばす。

 大きな音をたてて弾き飛ばされたナイフは二人に向かって飛んでいく。二人は身体を回転させ交わしてから柄の部分を掴み再び構える。

「やりますね。ナイフを投げた時の加減を調節して重力を使って私に向かって投げてきたわけですか。」

 二人の敵はナイフを構えたまま反応をしない。

「これでは何も進展しませんね。では私が!」

 梓は手を合わせて大きく広げる。次の瞬間両手には大きな紫色の球体が出現する。同時に地面にあった紫色の円は消える。それと同時に二人の敵も動き出す接近する。梓は動かずにその二人のナイフを片手で受け止める。

 すると右手から攻めてきた方は大きく薙ぎ払いのけりを仕掛ける。

 左手側の敵は足払いを仕掛ける。

 それらを梓は球体を破裂させ敵を吹き飛ばすことにより回避する。吹き飛ばされた敵は空中を回転しながら地面に着地する。

『反重力四倍!』

 梓がそう叫ぶと、身体が浮き滑るように高速で移動し右手側にいた敵に接近する。両手には再び球体が出現していた。それを眼前に構えて相手の顔に押し付けようとする。敵はそれを後ろに下がりながら転がるようにして、間一髪回避する。

 避けられてしまった梓は、それを辛うじて残っていた壁に叩きつける。するとその壁が崩れながら梓の両手に吸い込まれていく。これにより周囲二メートル四方だろうか、壁が消えてしまった。

「よく避けましたね。でもまだまだ行きますよ!」

 梓は何故か緊張感のかけらもなく、寧ろさっきから段々と気分が上がっているようだ。初の任務による実践が楽しいのだろうか・・・。

 梓は再び攻撃を加えようとした敵に向かい先程の球体を構えて突っ込む。敵もその威力を知ったのか早めに回避行動をとり、間合いを開けようとする。

「一人じゃ」

「ない」

 抑揚のない声が聞えたかと思うと梓から攻撃を受けていないもう一人が、動きを妨害するように真横からナイフを投げつける。移動する梓に向かって追尾しながら飛んでくる。

「そんな投げ方じゃ私に当たりませんよ!」

 飛んできたナイフを球体で薙ぎ払って弾く。弾かれたナイフは、今攻撃しようとしていた目の前の敵へ向かって飛んでいく。

 それを敵は回避しながら柄の方を上手くつかみ、立ち上がりと共に再び梓の攻撃を回避する。

 再び避けられてしまった梓。しかし前のめりに壁に突っ込むことはない。大きな音、床を削り抉るような音を立てながら軌道を変えて攻撃を続ける。

 一方、先程から避けていたばかりの敵は今度は回避しない。二本になったナイフを身体の前でクロスさせる。

 その様子に梓も眉を顰める。

「この」

「神器は」

「二つで」

「一つ」

 両手にクロスさせていたナイフを大きく横に広げる。

「発動」

「神器」

『牢獄―始まりの章―』

『牢獄―始まりの章―』

 最後の言葉だけ二人で声を合わせる。するとナイフが怪しく光、刃の長さが一メートルまで長くなる。それはもうナイフではなく剣だ。片方は黒く光、片方は白く光る。しかもあのナイフは神器だったようだ。だとすれば何かしら特殊な効果があるのかもしれない。

 敵はその二本を構える。

「剣撃」

『序』

 大きく広げていた剣を、目の前でクロスさせるように振り上げる。その二つの剣が交差した瞬間黒い斬撃が淡い光を放ちながら梓に向かって飛ぶ。

 梓は移動を止めてそれを両手の球体で受け止め吸収しようとする。しかし、中々吸い込まれない。

「これ何!こんなの初めてだよぉ!」

 そう叫びながら何とか吸収しようと両手を構え続ける。

「わき腹が」

「空いてる」

 武器を持っていないもう一人が脇から駆けて行き、梓を蹴り飛ばす。

 脇から蹴られた梓は教室五つ分の端の壁まで吹き飛ばされる。

「ぐあ……。」

 肺から全ての空気が出ていく。壁に少しだけ身体めり込んでいる。何本か骨も折れてしまったようだ。

「まだまだ!」

 めり込んでいた壁から飛び降りて地面に立つ。両手を構えて再び球体を構える。

 敵二人もそれぞれ構える。

「剣撃」

『序』

 再び斬撃が梓に向かって襲い掛かる。梓はそれを受け止めることなく回避する。

 避けられた斬撃は梓のめり込んでいた壁に衝突。そこにあったはずの壁、全てを粉砕してから吸い込む。校舎は縦長なのだが、その短い縦方向の壁すべてが一瞬にして消えた。

「そうでしたか。どうも吸い込めないと思ったらその神器も重力系なのですね。」

 梓の声に反応することなく敵は再び剣を構え直す。

「これは参りましたね。下手したら巨大なブラックホールが発生してしまって町丸ごと消えちゃうじゃないですか。」

「え、そうなのか!?」

 町一つ消えるって、それはいくらなんでも駄目だ。そんなことになったらどれだけの人が命を失うんだ。この町は東京の中でも一番大きな町なのだ。

「梓!その最悪な事態だけは何が何でも回避するんだ!」

「わかってます!しかし、私の武器は基本的にこの能力しかないんです。」

 確かに、梓は紫の眼重力使いなのだ。それしか武器として使える能力は持っていない。しかも今は物理的なもの、ナイフなどは持っていないようだ。手ぶらで二人、しかも一人は神器を持っている。そのような状態で戦うのは厳しい。

「でもやるしかないです。最悪の事態は避けつつ戦えば良い事!」

 両手を構えて球体を再び出す。

『反重力十倍!』

 梓の身体浮いたかともうと、先ほどよりも高速に移動を開始する。

 次の矛先は武器を持たないもう一人に絞ったようだ。

 瞬間的に距離を詰めて、両手にもつ球体を叩きこむようにぶつける。しかし、その攻撃を身体を日低くされ回避されてしまう。

 避けた敵はそのまま横に回転しながら転がり、梓の腰に蹴りを入れる。

 再びもの凄い速さで真横の壁に向かって吹き飛んでいく。

「剣撃」

『序』

 吹き飛んでいく中、剣を構えていたもう一人が梓のぶつかるであろう位置に斬撃を飛ばす。

『反重力五十倍!』

 吹き飛ばされる中、梓は両手の平を後ろに伸ばす。すると球体ではなく平面な円が出現する。梓は壁にぶつかることなく空中で静止して地面に降り立つ。

 一方飛んでいた斬撃は梓を消すことなく、校舎横方向の壁を粉砕し全て飲み込み消し去る。

 段々と校舎四階が柵のない屋上になりつつある・・・。

 地面に降り立った梓にむかって武器を持たないもう一人が駆けだす。

 今度は梓は球体を出現させず徒手空拳で迎えうつ。

 接近した敵は構えていた手を梓の顎に向かって突き出す。梓はそれを一歩下がることによって回避する。回避した梓は、そのまま左足を心臓目がけて蹴りあげる。

 しかし、その攻撃は相手の右手に塞がれる。しかも足を握られてしまい動くことができない。

「どんだけの握力があるんですか!?」

 驚きの表情を浮かべる梓に目もくれず、その掴んだ足ごと梓を空中へ投げる。

 空中へ高く投げだされた梓は身体を捻りながら態勢を立て直す。

「剣撃」

『序』

 梓の着地地点を狙うようにして斬撃を放つ。

『反重力三十倍!』

 態勢を立て直した梓は手のひらを地面に向けて広げ、平面な円を出現させ空中で静止する。

 斬撃は教室一個分の地面大きな音をたてながら消し去る。

「困りましたね。あの神器、かなり邪魔です・・・。」

 肩で息をしながら呟く。

 この二人、武器を持たない一人は梓を振り回しもう一人はとどめを刺す砲台のように一つの地点に構えている。このフォーメーションを崩さないと勝ち目はないかもしれない。

何とか打開策を―

 空中を移動して俺の直ぐそばに降りる。

「翔也さん、このままでは勝てるかどうかわからないので急いで逃げて下さい。」

「馬鹿かお前、お前を置いて逃げられるわけないだろ!」

 こっちは前々から見ているだけしかできないのだ。逃げるなんて言う真似はできない。

「でもこれは私の任務なので、任務優先とさせていただきす。」

 そういうと俺の鳩尾目がけて蹴りあげ俺を階段の踊り場に吹き飛ばす。

 鳩尾を蹴られてしまいむせて動くことができない。

『重力壁二倍』

 踊り場と教室部分の間に大きな薄い壁が作られる。

「梓、お前…」

 梓は俺の声を耳に傾ける事もしない。

「ではそろそろお終いにしましょうか!」

 パンッと音を立てて手を合わせる。

『重力十倍!』

 両手に球体を作り出しそれを地面に叩きつける。

 その瞬間全ての地面に紫色の円が浮かび上がる。敵二人は慌てて、隙間に移動する。

『反重力二十倍!』

 立てつづけに能力を使用する。体力が少ないにも関わらずだ。

 高速移動を始める梓。最初の目標は武器を持たない方だ。

「さっきはよくもやってくれましたね!」

 そう言いながら動けない敵の顔面に向かって蹴りを放つ。腕で防ごうとするがその腕は仮面を打ち砕き重力の円の中に無理矢理引き込まれ立ち上がれなくなる。声を出すこともできないようだ。重力によって肺が押しつぶされそうになっているのだ。呼吸するだけで精一杯だろう。

 梓はそのまま態勢を立て直すことなく、もう一人神器を持つ方ね移動する。

「これで、あなたは剣撃が使えなくなるはず!」

 敵は剣撃を発動させることなく梓の攻撃である球体を受け止める。

 そうやらあの二人は、揃っていないと神器の能力を発動することは出来ないようだ。

「黙れ」

 敵はそう呟くと梓をはじき返す。同時に両方の剣を地面に叩きつけ、三階に移動する。

 梓はその穴へ入ろうとするが同時に後ろ側で地面の砕かれる音がする。動きを封じていたもう一人の地面が崩れたのだ。その結果、その範囲の重力が解除され敵は穴の中へ落ちていく。

 その穴から剣をナイフに変え片手にはもう一人を抱えながら敵が出てくる。

「次こそは」

「…………」

 そう呟くと重力の隙間を縫うように壁の端まで移動し、外に飛び降りて消えていった。

「はー…」

 大きなため息をつくと梓は倒れこむ。同時に発動させていあ全ての能力が解除される。

「大丈夫か梓!」

 倒れこんでしまった梓に急いで駆け付ける。酷く疲労しているようだ。

「初めて、こんなに沢山、使いました。」

 息も切れ切れにそう呟く。そのまま眠ってしまった。

「お疲れ。」

 眠っている梓には聞こえないかもしれないが、そう言わずにはいられなかった。

 いつまで俺は他人に迷惑をかけなければならないのだろうか。自分の身位自分で守れなくてはどうするのだろうか。自分が何もできないことが悔しい。

 そこへ黄色いパーカーを着た女性、仁居神錺(にいいがみかざり)さんが現れた。

「仁居神さん!」

 思わず驚きの声を上げてしまう。

「仁居神ではなく錺とでもお呼び下さい。私の家族は、武神家に何名かいますのでゴチャゴチャニなったいますよ。」

 ほほ笑みながら話す。そして梓の方へ視線を移す。

「どうやら梓は、任務を一様は果たせたみたいですね。護衛対象を放っておいて寝ているのは頂けませんが。」

 どうやら錺さんはとても穏やかな人のようだ。梓の努力をしっかりと評価している。

「翔也さんもお怪我がないようで安心です。ではこのまま一旦帰宅します。どうやら異変に気が付いた何人かがそろそろ此処に来るころみたいですし。」

 確かに階段側から何人かの足音が聞こえてくる。

「では行きますよ!」

 俺の肩に手を置く。錺さんの眼が橙色に光る。その瞬間身体をとてつもない浮遊感が襲う。

 その感覚も一瞬で今度は何故か空中にいた。

「何だこれ!?」

 しかし落下することも無く、またあの浮遊感が訪れたかと思うと今度はビルの屋上に。

 そんな移動を数回続けた後朱鳥の家の門の前に到着した。

「どうでしたか、人生初のテレポートは?」

「はい…とても気持ち悪くなりました…。」

 俺はあまり絶叫マシーンなどが得意ではない。よってこの浮遊感はとても厳しかった。テレポートというのは便利だなと思っていたが、どうやら俺には全くもって向いてないようだ。ちょっと夢が壊れた気がする。

「それはちょっと残念です。」

 残念そうな表情を浮かべる。しかし、表情を変えてほほ笑えむ。

「きっとこれから使用しているうちに慣れると思いますので安心して下さい。」

 どうやら俺は、慣れるくらいこれからこの移動手段を使う事になるようだ・・・。

 その後、梓を弎塑稀さんに預ける。弎塑稀さん曰く、今日中には体力が戻って任務に復帰することは出来るようだ。そして梓が抜けている間は錺さんが俺の護衛担当という事になった。

 そして今、一つの部屋に年上のお姉さんとおれが一対一で相対していた。今は昼食の時間、錺さんが昼食を持ってきてくれた食事を食べている。

 因みに先程から食事が上手く喉を通らない。

 実は、錺さん良く見ると大人びていてかなり綺麗なのだ。今まで修羅場だったために全く目に入っていなかった。服装は黄色いパーカーが目立つだけで後は質素なのだ。なのにも関わらずこれだけ綺麗なのだ。

 俺はこれでもまだ高校二年生である。緊張しないわけがない。

 そんな俺の心境を知ってか知らずか、錺さんは俺に話しかけてくる。

「どうしましたか?さっきから喉を食事が通っていないようですが。疲れているんですか?」

「いえ、大丈夫です…。」

「何かあったら私に言って下さいね。何でも致しますので。」

 思わず心臓が高なる。

 錺さん俺の緊張をほぐそうとするのは良いのだけれど、それをすることによって俺は益々緊張するのだが。全くの逆効果である。

「んーお食事が気に召さなかったでしょうか?」

「いえ、とても美味しいです。何か使われている食品とか俺が普段口に出来ないようなばかりのものですし。」

 何とか受け答えすることによってこちらの心境を悟られないようにする。女性と相対しただけで緊張していると知られたら恥ずかしすぎる。

「そうですね。ここで使っている食材はどれも良いものばかりです。しかも、値段では選ばずに質でこだわっているそうですよ。」

「そ、そうなんですか。」

 ぎこちない中やっとのこと食事を終える。ごちそうさまをした後、錺さんは食事を片づけに行く。

「はーっ。」

 しばしの間緊張の鎖から解放される。あの人の前だと終始余分な緊張をしてしまってまともに目を合わせられない。今日一日このような状況が続くかと思うと気がめいる。取り敢えず今はしばしの休息の時間だ。畳に倒れこんで寝っ転がる。

俺の日常ってこれからこんななのかな・・・―

 精神と身体両方が滅入ってしまいそうだ。

 暫くして扉が空く音がしたかと思うと錺さんがお茶を持って戻ってきた。慌てて起き上がる。

「緑茶で良かったでしょうか?」

「はい、大丈夫です。」

 机の上に二つの湯飲みと和菓子が置かれる。

「どうぞ召し上がって下さい。」

「あ、ありがとうございます。」

 再び相対することとなってしまった。

梓、早く戻ってきてくれ―

 そう頭で願った。

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