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BLUE EYE―碧き眼―  作者: 斬谷恭平
第一章【蒼の章】
11/39

1-11 紫の眼

 肩を叩かれて眼がさめる。身体を起こすと傍に梓が座っていた。

 何か言いたげそうな表情だ。

「あの。夕食の時間ですので起きてく、ください。」

「ん、わかった。」

 しかしこの子、未だに緊張しているのだろうか。口が上手く回っていない。これはこれで護衛として心配だ。でも、赭攣さんのお墨付きだから大丈夫か。

「そういば夕食はどこで食べるの?」

「私がお持ちしました。下げる時も私がやるので大丈夫です!」

 机の上にいつの間にか夕飯が置かれていた。どうやら皆で集まって食べるという事はないようだ。

「ここ最近は皆さん忙しいんです。なのでそれぞれが空き時間に夕食を食べている感じです。」

 確かに俺以外の人は皆、式神のせいで大忙しなのだろう。昼寝したせいか罪悪感をひしひしと感じる・・・。俺だけがこんなに暇を持て余していて良いのだろうか。

「そ、そうだ。夕食を取りながら色々お話しましょう。私はまだ翔也さんの事についてわからなですし、翔也さんも私について殆ど知らないみたいですし。」

「そっか、それじゃ食べながらお互い自己紹介しようか。」

 二人で机に座り食事を食べ始める。

「えーとんじゃ俺からいくかな。俺は生上翔也。神眼は何か蒼の眼らしい。系統はえーっと、永劫だったけな。覚醒はまだしていない。」

「ええええええええ!」

 そう言いながら梓は机から後ろに向かってひっくり返る。

「あ、蒼き眼で永劫!?な、何で私なんかがそんな方の護衛を!?」

 目を回しながらあたふたしている。そんなに驚くことなのだろうか・・・。

「いやもう、それはもう国宝級ですよ!というより世界遺産級ですよ!蒼き目というだけで国宝なのに永劫何て言ったらもう世界遺産です!」

 この眼ってそんなに希少だったのか。

「まさか生きているうちに所持者の人と会える事ができるだなんて、ビックリです!」

 さっきから急に興奮しっぱなしだ。どうやら感情が素直に出る子のようだ。

「で、では次は私ですね。」

 一旦箸を置く梓。

「えーと、私は武神家分家七の神成梓(かんなり あずさ)です。神眼は紫の眼で能力は重力使いです。」

「分家七?」

「はい、武神家は十の分家を抱えていてその七番目が神成家なんです。」

 十ってこれまた多い数だな。それだけの分家を束ねているのか。

「因みに数字の割り当ては強さの順番になっています。私の家は比較的弱い方なんです。」

「待って、重力使いって結構強そうな気がするんだけど・・・。」

 名前からして重力を扱うのだろう。だとしたらかなり強い気がするのだが。

「重力使いという名前の通り、確かに私たちは重力を操作することができます。例えば敵の地面の重力を五十倍にして潰しちゃったりできます。」

 随分度と残酷な技を使う事が出来るようだ。

「そんなことが出来るのに何で七番目なんだ?」

「実はこの力、制御がとても難しんです。強すぎると見方を巻き込んだり、はたまた自分をも巻き込んでしまうのです。結果、訓練中に自滅していしまう人が何人もいるんです。」

 すこし悲しそうに項垂れる。身近な人が訓練中に亡くなったことがあるのだろうか。

「そんな感じで訓練に生き残った人が武神家に仕える事を許されるんです。」

「じゃ君はその訓練の中生き残った一人なんだ。すごいじゃん。」

「は、はい。でも私これが初任務だったりするんです・・・。」

 あれ、ちょっと待った。初任務と言う事は重力に巻き込まれて俺も潰れるなんて事故が起きるのだろうか。いくら怪我の治りが早いと言っても重力に押し潰されたら堪ったものではない。

「心配しないでください。極力潰さないように頑張ります!」

「いや待て、極力じゃなくて絶対に潰さないでくれよ!」

 思わずこちらの声も大きくなる。益々心配になってきた。プレスされる経験などいらない。しかも呪が刻まれた心臓も巻き込まれて潰されて、呪が解けてしまうような気がするのだが。ただ呪が解けずにプレスされた後、徐々に治るのもそれはそれで生き地獄。どっちになっても恐ろしい。

 俺達は本来組み合わさってしまってはいけないペアではないのだろうか。

「精一杯頑張るのでよろしくお願いします!」

 両手でガッツポーズをしながら円満な笑顔だ。

 こちらの心配を余所にやる気満々、もとい殺る気満々のようだ。

「ところで、さっきは寝る直前だから突っ込まなかったんだけど。」

「何のことですか?」

 何の事だかわからず首を傾げる。

「何で君襖から出てきたの?」

「あれ、そんなことありましたっけー?」

 とぼけるような表情で視線を横に流す。

「いやいや、俺の仮眠を邪魔したじゃんか。」

「んー覚えていたんですか。実は私の寝床がこの上なんです。」

「あれこの上に部屋何てあったっけ?」

「いえ、この屋根の板挟んで一枚上です。」

「って屋根裏で寝る気なのかよ!」

 あそこは人が寝る場所じゃないような気がするのだが。

「うー弍昃さんに言わないように釘を刺されていたのにー・・・。」

「え、どういうこと?」

 弍昃さんの指図とうはどういうことなのだろうか。

「実は弍昃さん私の師匠なんです。それで今回この任務につくにあたって、翔也さんに気付かれずに何日間あそこで寝られるかを指示されたんです。」

 弍昃さんが師匠だったのか。何と気の毒な。

「弍昃さんは素晴らしい師匠ですよ。特に笑顔は一番です!」

 笑顔を浮かべる。この子の笑顔ならずっと見ていても良いかもしれない。

「もしかして笑顔の練習とか言って指突っ込まれたりするのか?」

「はい。それはもう毎日、四六時中!」

 良かった。弍昃さんが俺の護衛担当にならなくて本当に良かった・・・。あんな練習を毎日もやっていられない。

「弍昃さんは強いですよー。“霧隠れ”っていう技が使えるんですよ。それで暗殺から白兵戦まで何でもできちゃうんです。私もあの技使えるようになりたいな。」

 そう言いながら表情を緩める。かなり憧れているようだ。

 その後黙々と二人して夕食を食べる。

「ごちそうさま!」

「ごちそうさま。」

 言い終わった後直ぐに梓は食器をまとめ始める。

「では翔也さんはそのままで。私はこれを片づけちゃいますね。」

 梓は食器を持ち上げ部屋から出て行った。

そう言えば朱鳥は大丈夫なのだろうか。ちょっと様子を見に行ってみよう。―

 梓も帰ってくるのに時間はかかるだろう。しかしこの屋敷は無駄に広いのでまだ道を覚えていなかったりする。ま、探索ついでに回るのも良いだろう。迷子になっても誰かいるだろうし。

 立ち上がり部屋を出て薄暗い廊下を何となく歩いて行く。相変わらず明かりは申し訳程度にしかない。更に今は日が沈んで夜になっているのでまるでお化け屋敷のようだ。

 暫く長い廊下を何となく歩いて行く。すると向こう側から誰かが歩いてきた。

「あら、翔也くんこんな所で何しているの?」

 白衣をきた弎塑稀さんだった。これは運が良い。

「あ、どうも弎塑稀さん。実は朱鳥の様子が心配だったので様子を見に来たんです。」

「成る程ね。でも今は面会謝絶中だから無理かな。」

「そんなに悪いんですか?」

 命に別条はないとは言え精神的なダメージは大きいようだ。

「明後日くらいには会えるようになると思うからそれまで待っててくれる?」

「はい、わかりました。朱鳥をよろしくお願いします。」

「何言っているの、これは私の仕事よ。勿論全力で治療させて貰っているよ。私に任せなさい。そして、翔也くんは自分自身のことについて良く考えておきなさい。赭攣さまから聞いたよ。まさか永劫だったとわねー。運が良いのか悪いのか。じゃ、私はこれで。」

 そう言って俺とすれ違い廊下の向こう側へと消えていった。

そうだな少し考えてみよう。―

 これからの自分の事について考えるため部屋にいったん戻る。どうやら梓はまだ帰ってきてはいないようだ。

永劫の力か。―

 永劫、死ぬことのできない力。とても魅力的だし、悪い所がないように思える。

 ただ、自分だけが生き残り他の人が死んで行くのを見送らなければいけない。時間を共有できる人たちがいなくなっていくのだ。

 いなくなればまた新しい人間関係を作れば良いが、それは代わりにはならないだろう。代わりになる人間なんていない。人間一人一人の存在する力はとても大きいし多種多様だ。

やはり、この呪は解かない方が良いのかもしれない。―

 これが今の俺の結論だ。考える時間は五分にも満たなかったが俺にとっては十分だ。

 扉が開く音がする。梓が帰ってきたようだ。

「ただいま戻りましたー。あれ、何でそんな難しい顔をしているんですか?」

「いやなんでもない、気にしないで。」

「何かそういうこと言われると余計に気になります!」

 ぐいっとこちらに顔を寄せて、俺の表情を読み取ろうとする。

「本当に大丈夫だって。」

 手で視線を遮って押し返す。

「ところでさ、君の能力について一様見ておきたいんだけど見せてもらえるかな?」

「良いですよー。では、何か手ごろなものはないかな。」

 そう言って部屋中の探索を始める。暫くして小さな花瓶を持ってきた。

いや、花瓶って大丈夫なのか?高そうな気がするが・・・。―

 そんな俺の心配を余所に花瓶を両手で掲げる。

「では、まずこの花瓶を浮かせてみますね。」

 花瓶を手のひらにのせる。

「行きますよー!」

 すると梓の眼が紫色に変色する。眼が怪しい光を放つ。それと同時に花瓶が浮きはじめる。

 それを両手で操り、回したり、身体の周りを旋回させたりして飛ばす。

「おー結構便利そうだな。中々上手いじゃんか。」

 思わず拍手をしてしまった。

「でも制御が難しんです。強すぎると花瓶が割れちゃうので。」

 と言いつつも気前よく花瓶を飛ばし続ける。中々手慣れているようだ。

 ただ、調子に乗れば乗るほど勿論手が滑るという事が起きやすくなるわけだが。

ピシッ―

 何かにひびが入る音がした。勿論その音源は飛んでいる花瓶意外にない。梓もその音に気が付き身体を硬直させる。

「お前、まさか・・・。」

 梓の顔から血の気が引いて行く。そして慌てて花瓶を降ろして背中の後ろに隠す。

「い、いえいえいえいえいえいえ!問題ないです。では花瓶はこ、これ位にして。」

 そう言って慌てながら花瓶を元あった場所に戻す。

あの花瓶いくらしたのだろうか・・・。―

「で、では気を取り直してもう一つだけ見せます!」

 気を取り直して俺の前に達両手を横に広げる。すると梓を中心に紫色の膜が半球円状に張られる。大きさは人が二人ほど入れるくらいの大きさだ。

「これは重力の結界です。何か物が飛んできても直ぐに跳ね返します。試しのそこの枕を投げてみて下さい。」

 さっき寝る時に使っていた枕を取りに行く。よくよく考えたらこれをさっきの花瓶の代わりに使えば良かったと思うのだが、敢えて言わないでおこう。

「では私に向かって投げて下さい!」

「それじゃ行くぞ。」

 枕を右手で持ち上げ、腕を大きく後ろに下げて力を溜める。

 そして全力で枕を重力の決壊に向けて投げつけた。

ビシッ!―

 大きな音と共に枕が破裂してしまった。どうやらあの結界は跳ね返すというより、ぶつかって来たものを破壊してしまうようだ。

 無残な枕は中に入っていた羽毛と共に散って行った・・・。

「お前、これはやり過ぎじゃないか・・・。」

 勿論梓の顔は先ほどよりも更に血の気の引いた青ざめた表情になっていた。周囲の決壊を解除して項垂れる。

「どうしよう・・・、師匠に怒られる・・・。」

 膝を抱え込んで沈み込んでしまう。

「弍昃さんなら説明すればきっとわかってくれるよ。俺も一緒に謝るからさ。」

 一様それなりのフォローをしてみる。

「翔也さんは私と一緒に罰を受けてくれるんですね!何とお優しい!!」

 いきなり両手を掴まれて振り回される。本当に感情が素直に表面へ出過ぎだ。どれだけ感情の起伏が激しんだこの子は!

「待て、謝るとは言ったが罰を受けるつもりは毛頭ないんだが。」

「そんなー。」

 そう言って再び項垂れる。そこへ部屋の扉からノックの音が響いた。

 枕の断末魔の音に誰かが気付いたのだろう。

「失礼します。」

 抑揚のないトーンの声と共に部屋の扉が開く。

「この声はまさか・・・。」

 どうやら一番来てほしくない人が音を聞いてしまったようだ。

 部屋に入ってきたのは、弌人さんだった。部屋に入るなり周りの惨状にため息をつく。

「あなた達は一体何をやっているんですか?」

 射抜くような目線に俺と梓は思わず姿勢を正す。

「ここは崇敬なる武神家なのですよ。しかも、そこの家のものを破壊するなど言語道断。特に神成梓。分家ともあろう者が本家の物品を破壊するなど一体どういう神経をしているのですか。」

「すいません・・・。」

 顔を伏せてしょんぼりと肩を落とす。

「別に梓だけが悪いわけじゃないです。やってみてくれと言ったのは俺なので。」

 ため息をついて呆れる弌人さん。

「全く君達は・・・。今回は翔也君の顔に免じて見過ごしましょう。翔也君は赭攣さまの大切なお客様なのでね。しかし、次やったら覚悟しておいて下さい。いくら翔也君でも許しません。その枕のようになりたくなければ、何もしないでください。私の堪忍袋の緒はそこまで太くないのでね。」

 額に血管を浮かべながら睨みつける。

「はい、気を付けます。」

 頭を下げて謝る。梓も揃えて頭を下げる。

「では、せめて片づけは自分たちで行って下さい。代わりの枕は後で梓、お前が取りに来なさい。」

 そう言って踵を返して部屋から出て行った。

 扉が閉まった音とともに力が抜けて二人してため息が出る。

「相変わらず弌人さんは怖いな。」

「あの人って人なんでしょうか。鬼にしか見えないんですけど・・・。」

 床にへたり込んでしまう梓。

「あの人はやっぱり怖いな。俺なんかかなり嫌われているみたいだし。あんまり揉め事は起こさない方が良いな。」

「触らぬ神に祟りなしですよ。では、私が片づけるので翔也さんはそのまま待っていて下さい。」

「良いよ。俺も手伝うよ。」

「いいえ、翔也さんは今私のご主人さまです。(あるじ)を働かせるなんて言語道断です。ジッとしていて下さい。」

 そう言って梓は散らばった羽毛を集め始める。一方俺は、仕方ないので畳に座ってしばし時間を待つ。

 その後新しい枕が部屋に来て取り敢えずは一段落した。

「さて、もうすぐで十二時になりますね。ではそろそろ寝ましょうか。私は屋根裏に戻りますね。」

 布団の入っていた襖を開けて屋根裏に登ろうと足をかける。

「いやわざわざ屋根裏に行かなくても良いんじゃないか?俺に見つかったんだしさ。」

「確かにそうですね。」

 しばし考え込む梓。顎に手を当てて悩んでいるようだ。

「うーん、でもどこに寝れば良いんでしょうか?」

「此処で良いんじゃないか?」

 何故か再び顔を赤らめる梓。また変な誤解をしているのだろうか。

「で、でででも私男の人とその、寝たことないんです・・・。」

 ちょっと待て、何かそのセリフはとても危ない発言でしかないような気がするのだが。

「これでも私はまだ十五歳なんです・・・。何でその経験というものは・・・。」

「いや、だから寝るっていうのは同じ布団って意味じゃないから。」

「え、そうなんですか!?」

 口をポカーンと開ける。そして更に顔を赤くしていく。

「え、じ、じゃ私勝手に変な妄想を・・・。」

「いや、だから落ちついて。取り敢えずお前も布団しいて寝ろ。」

「は、ひゃい!」

 屋根裏から布団を引きずり降ろして、ぎこちない動きで布団を敷いて行く。そして頭の中まで潜り込んでしまう。

さて、俺も寝るかな。―

 新しくて少し固い枕に寝心地の悪さを感じながら俺は本日二度目の眠りに落ちて行った。

 こうして武神家での一日目が終了した。


 ******

 

 一方、ここは真夜中の鏡楼高校の屋上。まだ寒い風が屋上を吹き抜けていく。

 そこに式神厭人と卩弍昃が相対していた。

 厭人は半ズボンに上は身体に張り付くようなシャツを着ている。一方の弍式は黒いスーツを着て髪型は綺麗に整えられたオールバックだ。その長い髪を風になびかせている。

「フフッ、やっと見つけましたよ。」

 相変わらずニコニコと笑みを浮かべながら厭人を見る。

「はん、今まで二度も俺を取り逃がしておいて捕らえられるとでも思ってんのか?」

 厭人は酷く歪んだ口に笑みを浮かべながら余裕の表情だ。

「三度目の正直です。しかも今回は殺しても良いという指令が出ています。まさかあなたがあの忌まわしき式神家の生き残りだったとはね。私も本気で活かせていただきますよ。」

 そう言うといつの間にか弍昃は剣を掴んでいた。刃はとても長く一メートル半はあるだろう。その刃は黒く光っていた。

「へー、武神家の護衛ともあろう人が西洋の剣を使うとはね。これは以外。」

「この剣に名前はありません、無名なんですよ。名がついてしまうとその名に縛られてしまうのでね、フフッ。」

「それは面白い考え方だな。んじゃ俺の小刀―牢刀―とどちらが強いか試してみるか?」

 そう言って黒い手袋をはめて小刀を取り出す。

「そのようなおもちゃで私に勝てるとでも考えているのですか。今はもうあの神器を失っているのでしょう?命乞いをすれば命だけは助けてあげますよ。」

 弍昃は無名の剣を左手に持ち構え、姿勢は正したままだ。

「あんなのは飾りだ。これ一つで俺は十分だよ。」

 厭人は顔の前に逆手で小刀―牢刀―を構える。足は左足を前に右足を後ろに、姿勢を低くする。

「最も、飾りだからこそ使わなきゃ花がないよな!」

 そう言うと左手を大きく右に引く。すると弍昃の周囲に青白く光るいくつものワイヤーが襲いかかる。

「フフッ、やはりストックはありましたか。しかしこれは私には効果がありませんよ。」

 姿を消す。霧隠れの技だ。ワイヤーは虚しく空を切る。

 一方の弍昃は厭人の五歩前に現れる。その様子に驚くことも無く厭人は後方へ高速で移動して距離を開ける。

「あなたのその動き、ワイヤーを使っているのですか。成る程、色々な使い方があるのですね、フフッ。ならばこの邪魔な糸を細切れにするまでですね!」

 弍式は剣を大きく振る。すると周囲を剣撃が襲い幾つかのワイヤーを切断していく。

「あんた神眼を持っていないのに、中々やるじゃんか。でもそんなんじゃ全てを切ることなんてできないよ。ここは既に俺のフィールドだ!」

 満足そうな酷く歪んだ笑みを浮かべる。

「今度はあんたを細切れにしてやるよ。」

「フフッ、甘いですね。」

 弍式の未だに余裕な表情に厭人は警戒心をさらに強める。

「私はね、逆境的な状況こそ打破するのを得意とするのですよ。ここはあなたたのフィールドであると共に私のフィールでもあるのですよ、フフッ。」

 構えを変えて、剣の柄を顔の横まで持っていき剣先を斜め下に下げる。弍昃独特の構えだ。

「それじゃ、誰が此処のフィールドを制するかやってみようじゃないか。」

「フフッ、望むところ。そしてあなたを今度こそ捕らえましょう。」

 弍昃の言葉が終るとともに戦闘が始まった。

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