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まずは展開から

 


 スパーン―――違う、俺のじゃない。箱の中で展開しているのは、放ってもない想像の塊。誰かの勝手な想像の塊。何もない。言葉通りの光景。レポーターの必死の状況説明もたった一言で片付けられてしまう。

『地面だけ残して後は何もない』

 札幌市が―――消えてなくなった―――

 何が?さっ・ぽろ・し?

 甘ったるい珈琲の後味に変わり、砂漠の様な渇きが急激に口の中に広がる。かてて加えて胃の中にある胃酸が珈琲とトーストを引き連れて外界に飛び出してくる。嘘だ、この箱の中で起こってることは、嘘―――北海道、よりにもよって、なんで札幌市が―――とっさに携帯を開き実家の電話番号を押そうとするも、まるで数字の順番を何処かに置いてきてしまったかの様に上手く押せない。

 くそ、頼むから。繋がれ。


 ―――中学一年の時、ニューヨークの世界貿易センタービルが崩壊していく映像を見て、不謹慎にも何故かわくわくしていた。

 二機目の飛行機がビルに衝突していく瞬間も、片方のビルが中央から紙屑みたいに崩れ落ちていく瞬間も、人間が紙吹雪と共に上から落ちてくる瞬間も、全てが別世界で起きた面白いフィクションだった。

 崩壊するビルを見ながら「神よ」と驚嘆していたアメリカ人。崩壊するビルを見ながら「すげぇ」と口を洩らした俺。その違いは―――


『―――本テロの首謀者は』

『―――おかけになった電話番号は現在電波の―――』

『―――篠崎司、二十歳で、現在の―――』

『―――届かない状況にあるか―――』

「なんで―――」

 弾けた。なにかが。バーン。ドカーンでもいい。耳のずっと奥の方で百本の散弾銃が一斉に噴き出したような、痛くて、鋭くて、意識を遠くの世界においてけぼりにするような音。なぜ、どうゆうことだ。判らない。分からない。解らない。何もかも。理解するべきは?どこから?まず、なにから?

 ―――今日は、いつもと変わらず友達に出席お願いして、適当にいろいろ考えて、暇潰して、テレビ付けて、そしたら―――そしたら―――

『札幌市では現在国際サミットが行われており、各国首脳の安否は絶望的―――篠崎司を全世界第一級テロリストとし、捕縛若しくは射殺した者には懸賞金が―――』

 みたいなことをテレビのスピーカーが言っている、気がする。信じがたい事態がふりかかると、どうやら人間の脳は呆気なくストップするらしい。ナウロウディング。それは長年連れ添ったこの脳味噌も例外ではなかった。パニック映画とかで恐怖のあまり身動きできずあっさり死ぬ、みたいな描写があるけど多分それだ。なんだ、俺はそれか。スルリと手から携帯が溢れ落ちる。カシャン。無音でもいい。

 有り得ない世界に行きたかった。巨大隕石の襲来、謎のウイルス、未来からの暗殺者。自分ではどうする?とか、自分ならどの人物?とか。笑える。何を格好の良い役割を妄想していた。現実にそれが起こればそれは夢ではない。目が覚めて自分が蝶になっていたらそれが現実だ。もしも自分なら、は通用しない。

「くそ」

 床で仰向けになっている携帯を取り、両親の携帯に掛けてみる。だが、繋がらない。どうしてこんなことに。原因はなんだ。誰が。何が。なんで俺だ。目的はなんだ。一体こいつ―――誰だ。どこの局も同じ様に消えた札幌市を映し、俺をテロの首謀者扱いにしている。やめろ。それ以上俺の顔を放送するな。『札幌市を惨劇の舞台に変えた男!』?ふざけんな、俺はなにもしてねぇ。俺は、一般的な大学生の標準しか行動できない『ただの男』だ。

 おい脳味噌、考えろ。こんな時こそお前の出番だろ?俺は、どうしたらいい。どうしたら―――

『ピーン、ポーン』

 緩やかなチャイムが鳴る。

 その瞬間、全ての感覚機能が脳味噌に集中した。

 不謹慎にも、何故、俺は、わくわくしているのだろう。

 ―――隣か?いや、違う。この部屋だ。心臓の高鳴りが直接耳に聞こえてくる。バクリ、バクリ。テレビで言っていた、懸賞金。捕縛もしくは―――射殺?射殺ってなんだ。この国で?いや、各国首脳がこのテロで殺されてるんだ。もはや、日本の法律なんて単なるお飾りに成下がってるのかもしれない。法律なんて、非常識事態時には機能しなくなるものだろ?しかし、いくらなんでも早くないか?テレビで放送されて数十分。隣人は俺の顔を知らない。俺も知らない。大学の友達も近くにはすんでない。警察には―――顔が割れてるって事はそれ以前に身元も所在も―――待て、そもそも合理的に考えて俺が北海道にテロ行為を及ぼすには無理がある。距離的に―――は解決できるのか。首謀者、ということは別にこ

こにいながらでも可能だから―――

 推測と憶測の連鎖反応が脳内を駆け巡る。俺は固まって死ぬやつなんかじゃない。一度インストールすれば意外と頭は回るのだ。カッパエビセン。そう、頭が回るってことはこれは夢ではなく現実。結局、あとは受け入れるか、受け入れないか、なんだろ?くそったれ。だったら俺は―――

『いないみたいだ。一応部屋は押さえておく。けやぶるぞ』

 英語が聞こえた。外で。大体、意味は分かる。一般的な大学生の標準くらいには理解できる。その標準がどの位かは知らんが。がたいの良い黒人男性を想像した。ちなみに手には拳銃を握っている。想像内で。

 この時―――篠崎司二十歳の脳内に逃亡の二文字がよぎった。普段聞かない文化言語があらゆる想像をよびおこしたこともある。しかし、一番は『このまま、捕まったらつまらない』というふざけた理由。この辺り、一般的な大学生標準よりも少し右斜め上を駆け抜けていた。

 その標準がどの位かは知らんが。





思うところは多々ございます。

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