15話 狭間田一道、がんばる
「作戦?」
ポットは眉――のような電子――をキリッと立てて言った。相当自信があるようで、その言葉は凛としている。
「はイ! 絶対に上手く行きまス!」
「じゃ、じゃあお願い! なんでもいいから!」
すると、ポットは電話をどこからともなく取り出し、目にも止まらぬ速さで電話番号を入力した。
「もしもし、キョージュ? 今すぐ動力源をワタクシに送ってくださイ! 緊急事態でス!」
そう言った次の瞬間、手元に丸いビー玉のようなものが現れた。この状況でテレポートを使って大丈夫なのかと思ったら、ポットの電話が真っ二つにズレた。
「あっ、ワタクシの仕事道具ガ!」
「そりゃそうなるよ、転移電波の事故が起きてんだから!」
授業でやったおかげでこの原因がすぐに分かる。
「それより、何それ」
「これはガードロボットの動力源でス! この球体から彼らへエネルギーを供給していまス!」
それを聞いて、すぐに解決方法が思いついた。
「そんなん、壊せば終わりじゃん!」
「それは無理なんでス。安全面から考えて耐久性やテレポート対策を万全にしているのデ……」
「え、じゃ、じゃあどうするの」
ポットが腕の中でもぞもぞと動き、俺の耳元まで画面を近づけた。光が目に当たってチカチカする。
「カズミチ様、先ほど「アウスに入れたものは無効化される」とおっしゃってましたよネ」
「…………あ」
『俺、地球ユーザーだからアウスの機能とかがちょっとわかるんだよね。だからさ、アウスに入れた物はなんでも完全に無効化されるってことも知ってるんだ』
そういえば、言った。完全な嘘だが。
「それを利用すれば、これを無効化してガードロボットを停止させることができるかト!」
(まずい。やらかした)
まさか、嘘をついたツケがこんな形で自分に返ってくるとは思わなかった。ポットはまっすぐに俺を見ている。
「なるほど、それは良い案だ」
ガードロボの攻撃を避けて、牢記がその場から引く。実は嘘なんだよね、とはとても言えない状況だ。
「ではカズミチ様、お願いしまス!」
「……え?」
ポットが俺に動力源を渡す。何だ、これで俺にどうしろと言うのだ。
「アウスまでこれを届けてくださイ!」
「な、なんで俺!? ポットじゃ駄目なの!?」
「ワタクシは足が遅いのデ……」
このバグり散らかした会社を身一つで行けと?
確かに嘘をついた責任は取るべきだが、それでも落下して死にかねないのに。
「ろ、牢記、牢記は?」
「私はコイツを引きつけなくてはならない。その隙に行ってくれ」
「え、あ、ちょっと待っ」
なぜか、牢記は俺を別に持ち上げた。銀の筒とビー玉を落としそうになって、慌ててそれらを握りしめる。
まさか、と思った時には遅かった。
「行ってこい」
「は? え、うわっ!?」
頭が回った。物理的に。
ぐるっと視点が回って、地面に衝突する。それほど痛くはない。
「場所は知っているだろう! 早く!」
「え、あ、嘘、もう……!」
物を全て持っていることを確認して、俺は足を動かした。でも、絶対に解決しない。玉を抱えたまま帰ることになるのは明白だった。
なんであんなことを言ってしまったんだ。後先考えず、嘘ばかりたくさん重ねて。明らかに自分のせいだが、もうどうにでもなってしまえとでも言いたかった。
「は、うおっ!?」
また床が抜けた。ホログラムのようになって、実際にそこに床が存在しているのか分からなくて、怖い。
ここから下の階に落ちたら絶対に死ぬ。そのくらいの距離だ。
それでも、走る。
嘘をついたのは誰だ?
TTコープに行きたがったのは誰だ?
地球に帰りたいと願ったのは誰だ?
答えはもちろん、狭間田一道である。
「なんで、なんでおれっ」
ホテル"ケージ"に留まることを選んだのも俺。
牢記から逃げて、巨大魚に飛び乗ったのも俺。
本が読みたくなって電車に乗ったのも俺。
考え直してみれば、言い逃れできないほど、全ての出来事が俺のせいだ。
ホログラムに包まれる会社が、俺に責任を取れと告げてくる。当然だ。俺がいなければこんなことにはならなかった。
どうして俺が、が、俺のせいで、に変わっていく。
頭の中がぐちゃぐちゃになって、俺が今までしてきたことが全部混ざる。俺ってテレポート使えたんだっけ。地球から来たってのが嘘なんだっけ。
もう、とにかくポットからのお願いを果たさないとと必死になっていた。そして、この状況を解決しないと。
「地球ユーザー!?」
「おい、早く保護しろ! 死ぬぞ!」
浮遊できるロボットたちが俺に向かってくる。転移は使えないから、素直にこちらに飛んできた。
「ごめんなさい! ごめんなさい!」
彼らに捕まってしまったら、ますます無責任な奴になる。ポットと牢記に託されて、なのにできませんでした、なんて顔をするわけにはいかない。仕事をしているロボットたちにも迷惑がかかる。
もうほとんど床を見ていなかった。がむしゃらに走って、ひたすらアウスの元へ、記憶を頼りに足を動かす。後ろからガードロボットが拳を打ちつける音が響いている。
牢記よ頑張ってくれと心の中で祈る。いや、そんな余裕はない。そんな距離を走っていないはずなのに息が切れる。鉄の筒とビー玉がだんだん生ぬるくなっていく。
「ちょ、待ちなさい地球ユーザー!」
「危険でス! ああ、床が抜けてしまいますかラ!」
肺が苦しい。どうしてこんなに痛むのか。
とにかく走って、走って、走った先――突き当たりの禍々しい装置のところまでやってきた。アウスの周りだけはホログラムに侵食されていない。
手が、足ががくがく震える。責任が重くのしかかってきた。
「あ、あうあうっ、あうす、アウス」
「――はい。なんでしょう。」
無機質な声がやけにゆっくりに聞こえた。
「あ、これ、このビー玉、じゃなくて、ガードロボットの動力源?を取り込めない、かな」
「――すみません。理解できません。」
終わった。というか、分かりきっていた。
中途半端に腕を伸ばしてビー玉を持つ俺。なんて滑稽なんだ。心の中で、俺のことを鼻で笑う。
「あ、やば。どうしよ――」
「――高密度転移電波装置を確認。回収します。」
「……は?」
カパっと、アウスのてっぺんが開く。
そこから長く伸縮性のありそうなロボットアームが伸びてきて、俺の手元まで飛んできた。
「うわっ!?」
「――高密度転移電波装置を回収しました。」
「あ……」
テレ社長が見ていないところで勝手に入れてしまった。まずい。まずいことしか起こらない。
「――これより、自己修復を開始します。」
「え――」
甲高い音が鳴る。レーザー銃のチャージ音みたいな。それがどんどん高くなって、そして――
どん。
確認できたことは、アウスの中身が光り出したこと。それ以上のことは、謎の衝撃を喰らって判別することができなかった。
思考が吹き飛ばされる。爆発ってこんな感じなのかな、と呆然と考えていた。
「うわわっ!?」
「地球ユー……」
カラカラと音を立てて、ロボットたちが重なって吹き飛ばされる。ホログラムが宙に浮いて、真っ直ぐどこかに伸びていって――
俺は、多分気絶した。




