“忘れられないなら、俺のことでも考えてなよ”──えっ?
※この作品は「♀牡羊座×あなたシリーズ」の一編です。
※ この作品はエブリスタにも掲載中です
星座ごとに異なる恋模様を描く短編集。
【今回の相手】天秤座の先輩社員
「単純な牡羊座 × 駆け引き上手な天秤座」
予測不能なオフィスラブ、はじまります。
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「でも? めげませんよ!」
午後3時過ぎ、社内のカフェスペース。
泉はおにぎりを一口かじって、元気よく言い放った。
「そもそも恋愛って、なんなんですかね!?」
大きめの声に、周囲がチラッとこちらを見る。
けれど泉は、気にしない。──いや、ちょっとは気にするけど、
それより言いたいことを飲み込む方が苦手なのだ。
入社3年目の泉は牡羊座。
思ったことはすぐ言葉に、行動も即断即決。
その真っ直ぐさは、社内でもちょっとした有名人だ。
そんな彼女の前に座るのは、天秤座の先輩社員──響。
泉の手元のバナナ豆乳とおにぎりを見て、小さくため息をついた。
「……無理してるだろ」
その一言に、泉の手がぴたりと止まる。
返す言葉を探しながら、ゆっくりと響の顔を見た。
さっきまであんなに強気だったくせに、泉の目の奥がふっと揺れる。
「……はい。ちょっと、自分で言っておきながら、きつかったです」
ほんの数ヶ月前のこと。
大学時代、密かに想っていた同期と同窓会で再会した。
話が盛り上がって、何度か食事に行って、バレンタインにチョコも渡した。
「彼女が欲しい」と言っていたから、勇気を出して告白した。
──なのに、返ってきたのは拍子抜けするような言葉。
「ごめん。全然そんなふうに思えない」
あまりにもあっけなくて、もう苦笑いしか浮かばなかった。
……なんの罰ゲーム?と思ったくらい。
そんなことを思い出しながら、泉はおにぎりを見つめる。
響は眉をひそめたまま、彼女のスカートの裾に目をやった。
「……米粒、ついてる」
「うわっ、本当!? バナナ豆乳とおにぎりで、せめて身体だけでも満たそうと……」
「空回ってるな」
泉はむっとして響を見上げた。
「じゃあ、どうすればよかったんですか? 振られたその日に、しおらしく落ち込んでた方が“女らしい”って言うんですか?」
ちょっと怒ったような声で口を尖らせて言う。
でもそれもたぶん、どこか苦しさの裏返し。
響は少しだけ目を細めると──
予想もしていなかった一言を投げた。
「……じゃあ、腹いせに俺と付き合うか?」