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「こんな事を頼める立場にないことは分かっているが、私は貴女ともう一度、向き合いたい。もちろん、私の罪を許して欲しいとは言わない。ただ、私が、貴女に愛を捧げることは許して欲しい。私の全てで、貴女に尽くしたいんだ」


「は?あ、愛!?私に尽くす!?」


二度目の意外過ぎる発言に、私の思考は、また真っ白に染まった。するとその隙に、リセナイア様は、私の両手に自分の手を重ねて、更に追い討ちを掛けるような言葉を発した。



「私のことは、貴女の奴隷だと思ってくれて構わない」


「ど、奴隷!?イヤイヤイヤイヤ!侯爵様を奴隷扱いするなんて無理です!絶対に、お断りします!というか、侯爵様、どうしちゃったんですか!?さっきから、色々と変ですよ!初めて会った時の、魔王様みたいな態度は、どこにいったんですか?もしかして、昼間から酔ってます!?それとも、頭を強く打ちましたか!?」


リセナイア様の発言にビックリしすぎて、私の言葉遣いがおかしくなる。そんな私に、彼は、憂いを帯びた表情を向けた。それが、やけに色っぽくて、心臓に悪い。

私は咄嗟に口を閉じて、リセナイア様から視線を逸らした。すると彼は、重ねていた私の手を、少しだけ強く握りしめる。まるで自分を見て、とでも言うかのように。



「半年前、私は、皇帝陛下から命じられていたある密輸組織の壊滅に成功した。しかし、その帰り道で、残党から報復を受けてしまったんだ。幸い、こちら側に死者は出なかったものの、多数の怪我人を出す事態になった。私も、避けきれなかった毒矢のせいで酷い体調不良を起こしていた。そんな時、貴女に会った」


突然、私と会ったという過去を語られても、思い当たるものがない。私は、動揺する頭を捻りながら、何ともなしにリセナイア様の従者を見た。その赤毛に、私の記憶が引っ掛かる。



「…もしかして、ボロボロのフードを被っていました?」


「ああ、あの時の私達は、急遽手に入れたボロ布を纏っていた。身分を隠す必要があったからな。だから、貴女に名乗ることすら出来なかった。私達を助けてくれたのに、申し訳なかった」



そこで、やっと私の記憶が繋がった。


半年前、傷薬を完成させた私は、その効能実験をどうするか迷っていた。さすがの私でも、試験段階の薬を、いきなり人では試せない。だから、重罪人でも紹介してもらおうかと、伝手を頼った所だった。

その移動中、不審な集団に出会した。


何もない街道で、休憩を取っていたその集団は、ボロを纏っていても、すぐに貴族だとわかった。だって、彼らの革靴はピカピカで、ズボンにはしっかりとアイロンが掛かっていたから。

その時、私は思ったのだ。この怪しい集団になら、傷薬を試してもいいのではないかと。丁度良い怪我人に目を付けた私は、慈悲深い淑女の仮面を被って、彼らの傷を治療することにした。





「えっと…、あの時、腕に怪我をしていた方が、侯爵様だったのですか?」


「そうだ。貴女は、正体不明の薄汚れた私達を、快く治療してくれた。食料まで配って。私には、地上に舞い降りた女神に見えたよ」


「あ、あの日の、私は…、お忍びでしたので、変装をしていました。それでよく、私だと分かりましたね」


「ああ、そうだな…。恩人が、自分の妻だったと知ったあの時の絶望は、今でも忘れられない。慈愛の女神が嫁いで来てくれた奇跡に、なぜ私は、もっと早く気付けなかったのだとね」


「そ、そうですか…」


慈愛の女神と言われても、全然嬉しくない。背中がむず痒い。


そんな私に向かって、リセナイア様は、熱に浮かされたように、一言一言を熱心に語った。その想いが、リセナイア様に握られた手から伝わって来て、私の体に熱を灯す。


これは、どうすればいいのだろう。

私一人では、切り抜けられる気がしない。



リセナイア様から距離を取ろうと、もがいているのだけれど、彼は、私の手を離してくれる気はないようだ。今は、悪戯に私の手の甲を摩っている。


私は、こんな不毛な話は、さっさと終わらせたいのに。

だって、あんな嫌な思いをした侯爵家とは、今後も関わりたくはないから。



私の心に冷えた風が吹いたその時、どこからともなく、「ニャーン」と可愛い声が聞こえた。


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