表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

56/56

エピローグ

暖かな朝の日差しが差し込む部屋で、私は、気持ち良さそうに寝ているリセの顔を眺めていた。ふと思い立って、その頬に触れてみたけれど、起きる気配はない。

いつもなら、もうとっくに起きている時間なのに珍しい。

悪戯心が疼いた私は、少しだけ力を入れて、リセの頬を突っ突いた。



リセとシグネル領で暮らし始めて1年が経った。けれど、未だ、この美しい人の寝顔には慣れない。いつか見慣れる日が来るのだろうか。




さて、そろそろ私は起きたいのだけど…。


そう思っても、リセの腕にガッチリ囲われていてベッドから抜け出せそうにない。まるで檻の中。



ネーレの子が生まれたあの日から、リセは宣言した通り、私を優しい檻に閉じ込めている。中の人が、閉じ込められているとは気付けない完璧な檻、柵のない鳥籠に。


リセが作り上げたその中で、私は、平穏な日々を送っていた。優秀な彼は、私が望むことを先回りして用意してしまうから、私は何もする必要がなくなってしまうのだ。

だから、今の所、ここから出ていく理由がない。もちろん、先の事は分からないから、脱出の準備は常にしておくけど。




「ニャーン」


「あら、おはよう、キャル」


リセの隣で丸まって寝ていたキャルが起きてきた。ネル達は、早朝に遊びに行ってしまったから、今この部屋にいるのは、キャルとララ、ネーレだけ。

キャルの起床と共に、ララとネーレも起き出した。どうやら、みんなお腹が空いたらしい。


私は、リセの腕を力一杯引っ張って、そこから脱出した。今は、この子達のご飯の方が先だ。

それに、あのリセは、起きている気がするから放っておいていいと思う。





猫達にご飯を食べさせた後、私は朝の日課である散歩を楽しんだ。私の少し先を、ネーレが優雅に尻尾を揺らして歩いている。

すると、ネーレの子の双子の片割れルイが、草花の間から飛び出してきた。ビショビショに濡れた状態で。



「やだ、ルイったら…、また水遊びしたの?朝はまだ寒いでしょうに…」


私は、肩に掛けていたケープでルイを包んで抱き上げる。ネーレより一回り小さいルイなら、持ち上げられるようになったのだ。

これも、密かに続けていた護身術のお陰。



ルイを抱いて邸へ戻る道を歩いていると、前から人が走ってきた。



「セリナ!」


「あら、やっと起きたのね。おはようございます、リセ」


「おはようじゃないだろう!?一人で何をしているんだ!?」


「ただの散歩よ?いつもの日課です。それに、一人じゃないわ。ネーレが付いてきてくれたもの」


取り乱しているリセに首を傾げていると、突然、腕の中のルイを奪われた。

せっかく大人しくしていたのに急に掴まれて、ルイが怒っている。しかも、ルイの苦手なリール副官に預けられたものだから、唸り声まで上げ始めてしまった。これは、不貞腐れて何処かに隠れてしまうパターンだ。探すの大変なのに…。



「ルイを物扱いしないで!怒っちゃったじゃない!」


「セリナ、頼むから、大人しくしてくれ。貴女の体は、今一番労わらなければならない時期だろう。心配なんだ」


「もう!妊婦は病人じゃないんですよ!」


「確かに、貴女は病人ではないが、大切に扱わなければならない宝だ。ほら、ちゃんと掴まって」


私の抗議も虚しく、問答無用でリセに抱き上げられた。


私の妊娠が分かったのは、半年前。それから、リセの過保護が更に増して、最近の私は自分の足で歩けていない。完全に運動不足だ。


でも、何だかんだ言っても、ここが落ち着くのは、私がリセを愛しているからだろうか。

私は、膨れてきたお腹にそっと手を当てた。



「あっ、動いた…」


「何!?痛むのか!?すぐに主治医を呼ぶからな!」


「えっ…、ちょっと、リセ!?多分、これ、胎動…」


慌てたリセに、大急ぎで部屋まで運ばれ、その日は、一日中部屋から出してもらえなかった。





それから私は、可愛い女の子を生んだ。

娘は、過保護な父と、侯爵家の使用人、そして猫達に愛されてすくすく成長している。


今日も、猫達と一緒にお昼寝中だ。


そんな幸せな光景を眺めていると、後ろから逞しい腕に抱き込まれる。



「おかえりなさい、リセ。もう仕事は終わったの?」


「ああ。今日は早く終わったんだ。だから、久しぶりに二人でのんびりしよう」


「フフ」


私の了承を得る前に、リセは私を抱き上げた。



「リセ、何度も言いますけど、私、自分で歩けます」


「これは、私の趣味みたいなものだから、我慢してくれ」


「もう…」


私達は、笑い合いながら、愛しい我が子達が眠る部屋を後にした。



その後も立て続けに、私は、四人の子供を生んだ。

同時に、ネルとミルにもお嫁さんとお婿さんが出来て、それぞれの間に、子猫が生まれている。



シグネル侯爵家には、いつも賑やかな声が響いていた。









評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ