リセナイア 14
やっと、やっとセリナに会える。
きっと彼女は、私のことを怒っているだろう。
あの新聞を見たのなら、私が王女と浮気したと思っているかもしれない。
『土下座』しよう。
東洋の国には、最上級の謝罪方法に土下座というものがある。一度見せてもらったが、あれは中々のものだった。
相手に急所である首裏を晒し、且つ、地面に這いつくばって謝罪するのだから。
私も、セリナに土下座して、誠心誠意謝罪しよう。彼女が許してくれるまで何度でも。
王女の断罪の後、すぐにその場を飛び出した私は、長距離移動にそぐわない煌びやかな格好のまま、イオリア領に向けて馬を飛ばした。
休憩なしで馬を飛ばすと、然程時間も掛からずにイオリア領へ入ることが出来た。そして、セリナがいる研究所が、すぐに見えてきた。
私は、逸る気持ちを抑え、服に付いた埃を払ってから、研究所に近付いた。すると、門から護衛騎士が飛び出してきた。
「どうした!?何かあったのか!?」
「侯爵様!?どうしてこちらに!?」
「そんな事はどうでもいい!セリナはどこだ!?」
「それが…、セリナ様が施設内のどこにも見当たらないのです。侍女も一人行方不明でして」
「なんだと!?」
セリナが行方不明!?
影を付けていたのになぜだ?
私は、使用人として紛れ込ませていた諜報部員を呼び出した。すると、その二人は、意識を失い部屋で倒れていた。
命に別状はないものの、深く眠っていて起きる気配はない。二人からは、使われたであろう薬の独特な香りが漂っていた。
その香りには心当たりがあった。
「クソッ!ライリーか!アイツは、何故こんなことを…」
元側近のライリーは、シグネル侯爵家の諜報部に誰が所属しているか知っていた。しかも、この睡眠薬の開発者は、ライリーなのだ。
「すぐにでも探し出さねば…」
未だに、ライリーがセリナを恨んでいるのなら、彼女が危ない。早くセリナを助け出さなければ。
「リセナイア様、落ち着いて下さい。セリナ様の居場所に心当たりがあります」
「本当か!?」
服を着崩し、呼吸を乱したリールが、廊下に立っていた。
シグネル領を出る際、後ろに数名の部下が付いてきていたが、私は、それを途中で振り切っていたのだ。それが丁度今、追いついたようだ。
一人でも多く人手が欲しから助かった。
「数日前から、ディライラ王女の商会の者が怪しい行動を取っていました。見張らせていた部下によると、シグネル港に停泊中のフレイアの護衛船に、ガラの悪い傭兵が出入りしていたそうです。恐らく、セリナ様はそこに囚われていると思います」
「クソッ、あの馬鹿王女は次から次へと!国に返すなんて生温い。事故に見せかけて海に沈めてやろうか」
船に乗せたのなら、セリナをつれ去るつもりだろう。
今は、王女の起こした騒動のせいで、港に停泊しているフレイアの船は、全て出航出来ないようにしている。しかし、それに強制力はない。強行突破される可能性がある。
だから、とにかく時間がない。
「リール!足の速い馬の用意を!それと、鷹を飛ばして、港へ連絡を入れろ!絶対にセリナをフレイア王国に渡すな!」
「はい!」
真剣な表情で了承したリールが、廊下を駆けていく。私もそれを追うために足を踏み出した。
すると、私の足下に温かな気配を感じた。
「にゃーん」
「どうした、ネル、ミル、アル。お前達もセリナが心配か?大丈夫だ。必ず私が連れ帰る。またみんなで暮らせるようにするからな。約束だ」
私は、三匹の頭を順番に撫でた。
そして、準備が出来た馬に跨り、来た道を更に速いスピードで駆け戻った。




