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リセナイア 9

私の妻が可愛い。

何をしていても可愛い。

私はなぜ、こんなにも愛らしい妻の魅力に、今まで気付かなかったのだろう。

愚か過ぎて、昔の自分を殺してやりたい。


適当な理由を作って、何とか彼女を引き留めたが、このまま囲っておく方法はないだろうか。優秀な彼女は、目を離すとあっという間に何処かへ行ってしまうから。


私は、遅く来た初恋に、胸を焦がした。

恋とは、どこまで人を貪欲にするものなのか。

愛しい人を欲することが、どうしてこんなにも甘く苦しいのか。

私は、彼女に恋をして初めてこの感情を知った。


今の私がまだ子供であったなら、この恋心を持て余していただろう。だが、私は酸いも甘いも経験した大貴族の当主だ。

欲しいものを確実に手に入れる方法なら心得ている。


私は、美しい妻の顔を思い浮かべながら、彼女を閉じ込める真綿の檻をどうやって組み立てていくか考えた。







領地の邸で、愛しい妻と過ごす毎日は、穏やかでいて刺激的で、とても幸せだった。

セリナ殿はとにかく頭が良く、気が利いた。一を聞けば十を理解し、不十分な所を改善してしまうのだ。私より彼女の方が、侯爵に向いているのでは、と思ってしまう程に。

本人は、なるべく目立たないようにしているようだが、その美しい容姿と誰にでも優しい性格から、どんどん味方を増やしていった。

頭の固い家臣達でさえも、既に彼女を侯爵夫人と認めていた。

残念ながら、セリナ殿自身は気付いていないようだが。


そんな中、侍女長の娘が、セリナ殿に暴言を吐いた。

何を勘違いしたのか、自分が侯爵夫人になるつもりでいたらしい。馬鹿馬鹿しい。

私は、思い上がったその愚かな娘を即解雇した。

そして、咄嗟に腕の中に庇ったセリナ殿の背を優しく撫でる。こんな時でも気丈にしている彼女を慰めるために。残念ながら、凄く嫌がられてしまったが。

でも、よく見ると彼女の小さな耳が赤くなっていることに気付いた。



これは、私に触れられることを本気で嫌がっているわけではないのではないか?

私の過剰な愛情表現を受け入れてくれたのだろうか。


最近の私は、事ある毎にセリナ殿へ手を伸ばしていた。

初めは手や肩に軽く触れ、それが慣れてきたら、大胆に腰や背中を抱き寄せた。時に気障な言葉まで使って。


それで分かった。

セリナ殿は、押しに弱いと。

優しい彼女らしい弱点だった。

だから、私は、ここを攻めていけば良い。




次の段階に進みたかった私は、お互いの名前で呼び合うことを提案した。

最初は難色を示していたセリナ殿も、私が少し強引に迫る内に、蚊の鳴くような声で、「リセ」と呼んでくれた。

この時聞こえた何の変哲もないただの愛称が、私の中に媚薬のような高揚感を生み出した。

そして、それとは逆に、私の口から敬称を外した彼女の名前が出る度に、穏やかな心地になった。



セリナ、セリナ、セリナ…。

私の愛しいセリナ。


私は、何度も何度も彼女の名前を呼んだ。自分の頭に、体に、染み込ませたくて。

すると、彼女は、恥ずかしそうに顔を赤らめて、俯いてしまった。

反応がいちいち可愛くて困る。


私は、この可愛い妻と名実共に夫婦になりたい。今の仮初の関係では足りない。

そのためには、セリナの心を繋ぎ止る必要がある。

私は、忙しい時間を縫って彼女に愛を囁いた。少しでも私を見て欲しい一心で。





もどかしくも、蕩けるような甘やかな時間が過ぎていく中、とうとう皇帝陛下の来訪日がやってきた。セリナを引き留めるために利用したタイムリミットが。



皇帝陛下を前にすると、どうにも息が詰まる。

権力に興味のない私にとって、国の頂点たる皇帝陛下もその腰巾着達も、煩わしく面倒な存在だった。

しかし、今回は、その存在を大いに利用させてもらう。


外堀を埋めて、セリナの心を確実に手に入れるために。





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