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2-21

そこからは、毎日が大忙しだった。


まずは、私の部屋のお引越し。

新入りを含めた四匹の猫達は、思いの外、私が使っていた部屋を気に入ってくれていたため、私はそこをそっくりそのまま彼らに明け渡したのだ。

だから、私の部屋は、その隣に移した。

そこは、少し狭いけれど、荷物は最小限しかないから、今のところ不便はない。



そして、獣医師すらいないイオリア領に、初となる動物病院を作った。まだ簡易的ではあるけれど、大抵の治療は施せるだけの設備は整えた。出産は、命懸けだから、どんなことがあっても対応出来るように。



着々と出産の準備が整う中、新入り猫は、徐々に私達に慣れていった。最初の頃は、体に触れると怖がって小さく縮こまっていたのに、今では、ゴロゴロと喉を鳴らして、自ら体を擦り付けてくるようになった。


お風呂に入って艶々になった毛並みや、肉付きが良くなった体は、触り心地が最高だ。しかも、大きいから撫で甲斐がある。


ちなみに、短期間でこの子の体調をここまで改善出来たのは、私が研究していたサプリメントが大いに役に立ったからだった。


この猫、体が大きい割にとても偏食だったのだ。

まず肉を食べてくれない。魚しか食べない。でも、なぜかパンは食べたがる。

ずっと、町で食べ物を得ていたから、その影響なのだろう。

痩せ細っていたから、まともに食べられなかったのかもしれない。



本当に、猫用サプリメントの研究をしておいて良かった。

もう少し手が空いたら、サプリメントの種類を増やしていこうと、私は心に誓った。







「みんな聞いて!やっと決まったわ!この子の名前は、ネーレーイスよ!」


やっと決まった新入り猫の名前を、私はみんなの前で発表した。


ネーレーイスは、海の神が生んだ妖精の名前だ。まさに、海のような深い青の瞳を持つこの子にピッタリの名前だと思う。



「これからよろしくね、ネーレ」


優しく名前を呼ぶと、この名前を気に入ってくれたのか、ネーレは、私の足に擦り寄った。



はぁ、可愛い。

ギュって抱き締めたい。

抱っこしたい。


私のその願望は、日に日に強くなっていく。



キャル達親子は、みんな気が強くて、抱っこなんて中々させてくれない。それに比べてネーレは、とても穏やかな性格をしていて、人に触れられることを好んでいた。隣に座ると膝に頭を乗せて甘えてくれるし。


でも、ネーレは大きくて、私の弱々しい腕では抱き上げられなかった。



「鍛えようかしら…。そうよ!女性だって強さを求めてもいいのよ!私、強い女性を目指すわ!」

体の大きなネーレを抱っこ出来る屈強な女性になるために!



「先ずは、そうね…、キャネマル商会専属の護衛の中から、講師向けの人物をこちらに派遣してもらおうかしら。私の先生を決めなくちゃいけないものね!」


「セ、セリナ様?急に、どうしたのですか…?」


私の突然の決意表明に、侍女達が、ポカンと口を開けている。そして、見る見るうちに、その瞳を潤ませ始めた。



「セリナ様が、そこまでする必要はありません!」


「そうです!私達が命に替えてもセリナ様をお守りします!ですからどうか、そこまで自分を追い込まないで下さい!」


縋り付くように必死で止めにかかってきた侍女達に、私は首を傾げた。彼女達が何を言っているのかよく分からなくて。



「みんな、落ち着いて!一体どうしたの?」


「ご安心下さい、セリナ様。たとえ、シグネル侯爵や、フレイヤの王女が来たとしても、必ず私達がお守りします」


「その通りです!セリナ様に代わって私達が強くなりますわ!」


「ええ!侯爵家の騎士も負かしてやります!」


私を守ろうと意気込む侍女達に、私は今更ながらネーレを抱っこしたいから鍛えたいなんて、言い出せなくなってしまった。




そうやってバタバタと過ごしていると、ネーレのお腹はドンドン大きくなっていった。

もう少しで、ネーレの子供達と会えると思うと、楽しみで仕方ない。その一方で、出産に対して心配事も尽きなかった。


だから、私は、一度諦めた鎮痛薬の開発に、再度取り組んだ。ネーレとお腹の子のために。


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