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2-16

大海を越えた先にある東洋の大陸。

我が国とは異なる文化圏を持つその地には、独自に発展した高い技術と学術があった。その中で、近年特に注目されているのが、東洋大陸でしか育たない植物や生物を用いた東洋医学と呼ばれる医術だ。

なんでも、日々口にする食物から体の免疫力を高めて、病気になりにくい丈夫な体を作るという考えを元にした医学なのだとか。

そこから生まれた様々な種類のサプリメントが、今、我が国の貴族の間で流行の兆しを見せている。


そんな高度な文化を持つ大陸にある大国、青真国と貿易が始まるという情報は、商会を持つ私の下にも届いていた。私も密かに楽しみにしていたのだ。


だから、その一端に触れられる機会を得られて、私は、とても浮かれていた。気付くと私の目は、青真国の船を求めて海へ向いてしまうほどに。


そんな私を、リセがどんな心情で見ていたかは、最後まで分からなかった。







それから程なくして、青真国の大型船が、大量の品を乗せてシグネル港へとやってきた。隣国フレイヤ王国の護衛艦と共に。


今後、青真国との貿易は、フレイヤ王国と協力して行うことになる。

我が国が、青真国の船にシグネル港を開放し、フレイヤ王国が、海路の警備を担うのだ。

そして、シグネル港で受け取った貿易品は、関所のあるイオリア領を通ってフレイヤ王国へ渡っていく。


そう。私が報奨で受け取ったイオリア領で。




それを知った時、自分がイオリア領のことをすっかり忘れていたことに気が付いた。

最近は、ずっとバタバタしていて、他のことを考えている時間がなかったのだ。精神的にも、リセのことで余裕がなかったし。


とはいえ、自分の領地に顔を出さない領主なんて非常に印象が悪い。現在のイオリア領は、皇帝陛下が派遣してくれた財務官によって管理されている状態だから余計に。



出来るだけ早急に、様子を見に行かなければいけない。


そう頭に刻んだ時、皇帝陛下から私宛に一通の許可証が届いた。

そこには、青真国から届いた全ての薬品の研究を、皇帝陛下の御名で許可する旨が書かれてあった。

しかも、専用の研究施設まで用意したと。


正直、あの口約束で、ここまでしてもらえるとは思っていなかった。けれど、これは私にとって渡りに船だった。

既に、薬草からサプリメントまで多種多様な青真国製の薬品が運び込まれているというその施設は、奇しくも、イオリア領に建てられていたから。


私は、心待ちにしていた薬の研究をしながら、イオリア領の領主としての仕事が出来るのだ。これで、私の対面も保たれる。

それに、今少し、リセから離れて自分を落ち着かせる時間を作れる。



そう思うと、私の心に俄然やる気が湧いて来た。



早くイオリアの研究施設に行きたいと思った私は、すぐさまリセに直談判に行った。絶対に反対されると思ったから、その対策も考えた上で。


けれど、思いの外、リセはあっさりと私のイオリア行きを許してくれた。

あんなに私と離れたくないと言っていたのは何だったのだろうかと、拍子抜けしてしまうほど簡単に。

もしかしたら、リセは私の研究を応援してくれているのかもしれない。彼は猫派だから。



私は、さっさと必要最低限の荷物だけまとめて、シグネル家の本邸を後にした。そして、意気揚々とイオリア領へ向かった。










それからの私は、研究にどっぷりと浸かった。それこそ、寝食を忘れて。


以前から考えていた動物用の経口麻酔薬が、青真国から入って来た薬草のお陰で、完成しそうなのだ。

今現在、動物の治療に使われている麻酔薬や鎮痛薬は、人間用のものを代用しているため、合わない子も少なくない。最悪、眠りから醒めず死んでしまう子もいる。

だから、なるべく早くこの薬を作りたかった。その目標達成まであと少し。


それに、可愛い我が家の猫達のために、普段の食事だけでは補いきれない補完食の研究もしたいと考えていた。上手くいけば、健康寿命を延ばして、且つ、最高に美しい毛並みを生み出せそうだ。




そんな研究漬けの毎日は、充実しているけれど、ふとした瞬間に寂しさを感じた。

猫達とこんなに離れていることがなかったからだろうか。あの温もりが恋しい。


私は、寂しさを埋めるように、更に研究にのめり込んでいった。



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