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2-11

「ギャーーーーーーー!」

私の叫び声が、寝室を越えて邸の中にこだまする。


目覚めてすぐに、こんな大声を出したのは、生まれて初めてだ。

でも、心地良い熱に囲われている安心感の中で目を開けたら、超絶美形の寝顔が目の前にあったのだもの。叫ばない方がおかしい。



すると、叫び声を聞いた使用人達が、慌てた様子で部屋に入ってきた。そして、私とリセが、同じベッドで寝ているこの状況を、唖然とした目で見つめる。

そんな彼らに、私は必死で取り繕おうとした。けれど、それは、全て無駄に終わる。


だって、リセが、起きるどころか、更に強く私の体を抱き込んできたから。その上、甘えるように、私の胸元に顔を埋めたのだ。

これでは、使用人達が、私の言い訳を信じてくれるわけがない。


向けられる使用人達のホクホク顔が、恥ずかし過ぎて、私は顔を上げることが出来なくなった。




それにしても、リセは、なぜ私に抱き付いているのだろう。私達の間には、猫達がいたはずなのに。

そして、どうして私は、あのままここで寝てしまったのだろうか。


この時ばかりは、どこでも寝られる自分の特技が恨めしかった。





「さあ、セリナ様、今日は気合いを入れて夜会の準備をしませんと!」


甘い祝福ムードの中、それに反して冷静な私専属の侍女達が、少し下手な演技でみんなの意識を変えようとする。

その気遣いに感謝しながら、私も気持ちを切り替えることにした。もう、これは忘れるしかないのだから。


私は、侍女達の手を借りて、ベッドから起き上がった。

すると、目を開けたリセが、再び、私の腰に腕を巻き付けてきた。



「まだ早い。もう少しこのまま…。せめて、朝食は共にとろう」


「ちょ、ちょっと…、放して下さい!私、そろそろ準備しないと…」


夜会のための支度は、とにかく時間がかかる。私も侍女達もこれから大忙しなのだ。

それなのに、リセは私を放そうとはしない。イラついた私は、そんな彼の頭を叩いた。



「誰かさんのせいで、慣れないベッドで寝たから、目が腫れちゃったんですよ。こんな顔で夜会になんて出たら笑われてしまいます!」


私は、どこでもすぐに寝られる反面、枕が変わると顔が浮腫む。だから、外泊する時などは、注意しているのだ。

それなのに、大事な夜会の前でやってしまった。



「確かに、目元が少し赤いな。だが、それがまた艶やかで唆られる…」


「なっ、なっ、何を…」


リセは、ガウンの合わせ目から覗く胸筋を惜しげもなく晒して、私に迫る。そんな姿は、誰が見たって、顔が浮腫んでる私より美しく色っぽい。

きっと今のリセは、寝ぼけていて、私の顔がまともに見えていないのだろう。なんて迷惑な。


私は、リセを呆れた目で見つめた。



その時、私の体勢がグルリと変わる。

驚いて瞑った目をすぐさま開けると、リセの顔が私の真上にあった。

なぜか私は今、ベッドの上で、リセに膝枕をされていた。



「私の我儘が原因で、そうなってしまったのだから、私が治そう。ほら、目を瞑ってくれ」


リセはそう言うと、私の目に温かいタオルを被せた。

程良い熱が目の奥に伝わり、じんわりと疲れが解れていく。それに抵抗出来ずにいると、私の頭に、10本の指が触れた。そして、その太い指が、ゆっくりと頭皮を指圧する。

痛くはないギリギリの力加減で、気持ちの良い場所を刺激されると、私の口から声が漏れた。



「んっ…、ふぅ…、あっ」


その声が妙にいやらしく聞こえて、私は両手で口を塞ぐ。すると、その手をやんわりと退かされた。



「可愛いから、そのまま」


「や、だ…、駄目…」


タオルがずれ落ち、そこから見えたリセの顔は真っ赤で、目が潤んでいる。

なぜ、マッサージをしている彼の方が、そうなっているのか分からない。でも、これは絶対に危険だと思った。



「あ、りがとう、ございます。もう、大丈夫…」


「いや、もう少しやった方がいい。気持ち良かっただろう?」


危機感を感じ、離れようとした私に、リセは食い気味に顔を寄せる。ちょっと圧が強くて鬱陶しい。


流石にこれ以上は、嫌だと思った私が、リセの膝から起き上がったその時、足元で寝ていたアルがモゾモゾと動き出した。

そして、リセに近寄り、空いた彼の膝に乗る。抱っこをせがむように甘えながら。


そんな可愛いアルの姿を見た瞬間、私の理性が切れる。



「狡い!!!」


私は、今日一番の大声で、リセへの文句を叫んだ。










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