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2-6

やっと静かになった部屋で、私は一人、ソファに寝そべってゴロゴロしていた。残念なことに猫達は、リセナイア様が集まっていた使用人達を解散させた時に、そこに紛れて外へ出て行ってしまった。私の大切な癒しの時間だったのに。


私は、その恨みを顔を埋めたクッションに吐き出した。

すると、私の後頭部を誰かが撫で始める。その誰かの正体は、すぐに分かった。



「侯爵様、彼女達のことはもういいのですか?古くから支えてくれた使用人だったのでしょう?」


私は、顔を伏せたまま、先程出て行ったはずのリセナイア様に話しかけた。

元侍女長親子の処分を見届けに行ったはずなのに、ここにいていいのかと。



「なんだ…、もう言葉遣いを元に戻してしまったのか?私の事は、『コレ』でいいのに」


「あ、あれは…、言葉の綾というか…。ちょっと怒っちゃっただけです!」


「ククッ。…ああ、そうだな。怒っている貴女も愛らしかった」



また始まった。

そう思った私は、仏頂面になった顔を上げてソファに座り直した。



「もう!揶揄わないで下さい!それで?彼女達を追い出してしまって、本当に良かったのですか?私は別に、そこまでの罰を求めていませんよ?」


「貴女は優しいな。しかし、私は夫として、貴女を侮辱する者を許すことはない。だから、今後、貴女がケイニー達と会うことはないから安心してほしい」


私を見つめてはっきりと宣言したリセナイア様に揺るぎは見られない。

彼は、シグネル侯爵として、夫として、私を尊重してくれたのだ。


これは喜んでいいのだろうか。

まだ素直に喜べないけれど、胸の奥が熱い。

私は、不可思議で擽ったい熱をギュッと両腕で抱きしめた。



「ありがとう、ございます、侯爵様」


「いや…、私はもっと早く貴女を守らなけばいけなかった」


「うーん、そうかもしれませんが…。でも、嬉しかったです。だから、感謝の気持ちは受け取って下さいな」


「ああ、そういう事なら、ぜひ受け取ろう」


ん?


素直な気持ちでお礼を述べたら、何故かリセナイア様が、私に向かって両腕を広げた。まるで私を腕の中に誘うかのように。



「…行きませんよ」


「…それは、残念だ。初めて、セリナ殿から私の腕の中に飛び込んできてくれるかと期待したのだが」


「もう!そんなことするわけないでしょ!」


今のリセナイア様は危険だ。

油断も隙もあったものじゃないと、私は緩んだ気持ちを引き締め直した。

そんな私の警戒を他所に、リセナイア様は心底楽しそうに笑っていた。








それから数日、もうすぐ皇帝陛下がこちらへ来るという頃、いつもより早い朝食をリセナイア様と取っていると、彼から外出の誘いを受けた。なんでも、陛下へ献上する品が出来たから、私にも確認してほしいのだそうだ。


それを了承した私は、準備のためにすぐに部屋に戻った。

すると、自室には既に、動きやすそうな若草色のワンピースが用意されていた。

こんな服持っていただろうか。私は、そんなことを考えながら支度を終えて、エントランスへ急いだ。




「お待たせいたしました、侯爵様」


私の声で振り返ったリセナイア様の服装に、私の目が留まった。同時に、私の足も止まる。

だって、リセナイア様の服は、どう見ても私とお揃いだったから。


「やられた」と思った時には既に遅く、私の腰には、リセナイア様の腕が添えられてしまっていた。しかも、使用人達まで、こちらを微笑ましそうに見ている。

これでは、逃げられない。



「素敵だ…。新緑の色が、貴女の髪色によく合っている。貴女はどんな色でも似合ってしまうな」


「えっと…、ありがとう、ございます」


言いたかった文句を噛み締め、私は渋々お礼の言葉を口にした。

でも、リセナイア様が甘過ぎて、砂を吐き出してしまいそう。




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