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エレベーター

作者: 雉白書屋

 おれぇはこのエレベーターってやつが嫌いでねぇ。

 ほら、落ちる瞬間、フワッていうか、ゾワッていうか、変な感覚になるだろう。あれがいけないね。それにね落ちるっていうのはさ、堕ちるともいうね。堕落だよ堕落。あ、ははははっ! 堕落って堕ちる落ちるだね! どんだけ落ちるんだよ! あはあはあはははっ! 

 あん? おい、うるせぇって顔しやがったなそこのお前! 手が届かねえと思って舐めてっとぶち殺すぞ! けっ……あーで、何の話だっけ? ああ、そうだ。どんだけ落ちるんだよって話だ。

 おっと、着いたね。おい、どけよ! 降りるんだよ! おら、どけや!




 やー、狭い狭いですねぇ。いや、広いんですけどね。このエレベーターは。人がこうも多いとね、はい。えへへへ。汗がね、えへへ、臭いでしょ、自分でもたまに思うんですよ。あ、臭いって言えば知ってます? カメムシ。あいつ、ふふへへへ、自分の臭いで死んじゃうんですって! 密閉空間での話ですけどうぷぷぷぷぷ、馬鹿ですねぇ、ゲホッゴホ! ひー、タバコの臭い、苦手なんですよねぇ。しかもあそこ、あの人のあれって安物でしょ? うげ、睨まれちまいました。えへへへへ、今の見ました? あの目。ありゃヤクチューですよ。あれもタバコかどうか……おっとまた睨まれちまった。うるさいって? そりゃへぇへぇ、そりゃすみませんね。おっと、臭い臭い。すみませんねぇ、屁ぇ屁ぇ。えへへへへ。着いたみたいだ、どうもどうも、えへへへへ、もう一発、ブッとえへへへへ。




 ……吸う? いらねえって? そうか……。

 マジィな……拾いもんは駄目だな……。

 ……おたく、どこまで? ああ、そりゃあ遠いな。

 ……そこ、何回か乗り換えなきゃ駄目だろう? ああだよな。

 ……じゃあな。




 ふー、いやぁ暑い、暑い! 暑いですねぇ! 人が多いとね! ふー、これヒンヤリするなぁ……あ、興味ありますこれ? これね、ほら、ちょっと触ってみて! 冷たいでしょ? ね? ね? ああ、あまり触っちゃ駄目ですよ! それでね、ああ、最初は冷たくないんですけどね、徐々に徐々に冷えていくんですよこれぇ。もう、なんなら冷たすぎて大変だってははははは!

 でね、これね、わた、わたくし、もう一個持っているんですよ。良かったらね、これ、え? 買わない? あ、そうですか。ん? あ、ダメダメダメ! もう触らせませんよ! 買わないんでしょ! それとも買いますぅ? いや、インチキじゃないですよホント。冷たかったでしょ? あ、ダメですダメです、お渡しするのはね、買ってから。あ、他にもあるんですよ。タバコとかお酒とかも、どうです? いらない? そっすか。あ、わたくし、ここなんでね、どーもー降りまーす!




 ぷはっー! 生き返るねぇ。いや生き返らないけどね。言ってみただけさ。じゃないと、せっかく買ったのによ、こんなまずい酒をよ。

 へーあ、いー、あちい、あちい。地下っていうと涼しいイメージがあるのによ。どうしてこんなに暑いのかねぇ。人か、人だよな。あーあ、消えてくれねえかなぁ、全員なぁ、俺が指さしたらよ、へへへ消えるんだ。おら! はい、消えたー! そこのお前消えたー! お前も! お前も! お前も! お前もお前もお前もお前も消えた! ははっ! 消えた消えた! ああ消えた! ひひはははは! お、着いたね。すみません降りまーす。




 きゃっ、ちょっとぉもう今誰か触ったぁ。もうやーねーホント。やんなっちゃうわもーおー。もー、もーって、あたし、牛さんみたいよね、うふふふふふ。まあ、おっぱいも大きいしお尻だってね、あらスケベ、そんなに見てぇん。うふふふ触りたいの? お高いわよ? でもこうして隣になった縁で少しサービスでうおい! 今触りやがったの誰だ! てめえかおい! その手だよそこの手! あ、逃げんなよクソがよ! てめらぁ全員手を見せやがれ! おら、さっさとあげろや! 無視すんな! わかったよ、ちょっと触らせてやってもいいからあげろや。……全員、汚なくて見分けつかねえよ! 馬鹿が! まったくクソ共がよぉ。

 あら? 降りるの? 乗り換え? そう大変ね。揉んでく? 安く、チッ無視すんなや! お高く留まってんじゃねーぞ! ボケゴミがよぉ!




 ……なぁ、あんたさ。ああ、俺はね、さっきアンタと一緒のエレベーターにいた者だけどさ。

 なんか、騒いでいるのがいたね。揉まれたとかなんとか。

 ……アンタさ、やった? 痴漢とか。ん、してない? ふーん、そう。

 アンタ、どこまで行くの? ふーん、言わないんだ。ふーん。いや、別に。え? 女の顔? 見てないけど? どの辺にいたかもわからないよ。だってあそこもここもすごい密度だからね。え、男だった? そう言えば声が野太かった気がするなぁ。まあ、関係ないけどね。本当に痴漢してないの? ふーん……。

 うわっ、また足踏まれたよぉ……今の、アンタ? 違う? アンタじゃないの? 腹いせにさ。ほら、その目。怪しいなぁ。本当に違う? ふーん、あ、俺ここで降りるから。良かったね。




 もしもし? わしだが、うん? ああ! おお! がはははは! ああ、買え! 全部買うのだ! ああ、そうだ。買えるだけ買え! うむ! がはははははは! 間違いなく上がるぞ! おお! ワシの言う事を聞いていれば問題ない! ああ、そうだ、で、あそこの株は売れ! おお、それでいい。うむ。あとな、新しい車だ! 妻が飽きたというんでな! 会社の金でそうだ! 上手い事やっておけ! おお! 時計と宝石もな! 時計はワシのだ!




 ……国とは箱。そう思いませんか?

 島とは箱。町とは箱。村、会社、学校、基地。あるいは人の脳内も箱。閉鎖空間には独自の価値観、秩序が生まれませんか?

 ある企業のエレベーターではね、上司が部下の女社員の尻を揉み、またある企業ではエレベーターで不正の相談をする。

 ええ、乗り合わせた者は見て見ぬふりですよ。大企業、権力があればあるほどにね。

 先程、あなたの隣にいた男。ありゃあまさに権力に取り憑かれてましたね。

 あなた、気づいたでしょ? 彼、電話なんて持ってなかったこと。哀れだねぇ。病んでるんですよ世の中。どこもかしこも救いがない。

 都市部に人口が集中して地方は過疎化。でも国の人口自体は減ってるってもんで。ええ、移民だ難民だで増やしたかと思えば

はははは、そいつらも仕事を求めて都会へ来るんですからね。んで増えちゃうんですよ。困ったもんですよ。おかげでほら、もうパンパンですよ。工事工事であはは、蟻の巣にしたってもっと悠々と、入り組んじゃいないでしょうに。

 まったく。ああ、嫌だ嫌だ。ねえ、嫌でしょ? 救われたいでしょ? そこなんですよね。わたしゃね、とある宗教にね、入ってましてね、ええ。ん? 降りるんですかい? そりゃ残念。お気をつけて。またどこかで、ね……。




 ああ、そこのアンタ。そこ、足が出てるよ。それじゃ閉まらないだろ。そうだ、そう。はぁ……。おたく、どこまで? ああ、そこね。前に行ったことあるよ。と、早いよな。もう次に着いた。この辺りは、刻み刻みなんだよな。密なんだよ密、ははははっ。

 あ、おい、ほらまた足が出た。たくよぉ、早く骨にならねかなぁ。臭えしよ。一度全員、降りて片付ければいいんだけどよ、そうも行かねえよな。ドアはすぐ閉まっちまうし、そもそも譲るとかそういう考えがないしな。むしろ、邪魔してやろうって奴ばかりだ。

 おっと、ははは、ラッキーだ。ドアに挟まれて千切れたな。 ん? あー、ははははは! 地獄とは上手いこと言うもんだねぇ! そうだな、この呻き声もそうだ、地獄の穴みてぇだ。

 どこだ? あの辺りじゃないか? 倒れた奴が踏まれて、ああもう立ち上がれねえな。

 ああくせえ、くせえ。小便と糞と死体の臭いだ。それに比べりゃ、タバコも汗もどうだっていいな。

 しかし、ははは。地獄ね。アンタ、よく考えたね。エレベーターに乗っている間に、思いついたのかい?

 そうだねぇ、この行く先、堕ちた世界はもっと酷いだろうねぇ。

 ああ、降りるのかい? いってらっしゃい……。

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