八話
[吉川誠也の脱落を確認した。吉川はそこで待機、以降の参戦を禁ずる ]
「よし、じゃあ天舞音のところに戻って助太刀しようか。ぐひひっ、あいつにも地面を舐めさせてやる。」
「朱里、貴女笑い方が変なものになっているわよ。」
誠也を倒したことにより、一息ついた2人は談笑しながら天舞音と朗が戦っている場所へ『移』で移ろうとする。
「[移す]!」
2人が消え取り残された誠也は
「いてて‥‥‥はぁ身体中がいてぇぜ。まぁでも、あいつら気付いてねぇな。そろそろか‥‥‥ハッ、あいつらの呆けた顔が目に浮かぶぜ。俺もタダじゃ転ばねぇんだよ。」
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朗と天舞音が戦闘している部屋と同じ階に移った二人は、朗対策を講じていた
「悔しいけど私の刀はあいつには届かない。剣士としての腕は誇張すれば天舞音並みだ」
「そんな相手にどうやって立ち向かうのよ‥‥‥」
「それに初戦であいつの能力が”未来視”だということが判明している。もし、天舞音の剣を防ぐために言霊を使っているなら奇襲が意味をなさない。」
「それで?どうやって天舞音達の戦いに介入するのかしら?っていうか介入したら天舞音が怒りそうなのだけど・・・・・・」
「そうなんだよ〜。さてさてどうしたものかな・・・・・・雪果ちょっと止まってくれないか?」
「どうかした?」
「何か黒いものがついていたんだ。・・・・・・よし、とった。なんだこれは?アリ?」
「アリですって?」
”アリ”と聞いて一つの可能性が浮かび上がる雪果
「朱里!今すぐそれを捨てなさい!」
「え?」
しかしその警告は少しだけ遅かった
”パン“
極、極々小さく軽い衝撃とともにアリが破裂し、
体液を周辺に撒き散らす
目の前まで摘み上げていた朱里はそれをモロに浴びた
「くそッ。なんなんだこれは!目に入ったじゃないか。気持ち悪・・・・・・あぁぁ!」
目を押さえながら朱里が悲鳴を上げる
同時にアリは朱里が摘み上げていた個体だけではなかったらしく、2人の体中で爆ぜる
合計1000回もの破裂音が鳴り止んだあとアリの体液はそこら中に掛かっていた。もちろんボールにも。いくらアリが小さいと言っても数が多ければ体液の量も増える。ボールにも大量の体液が付着していた。そんなボールは次の瞬間・・・・・・時間差はあったが2人についていた3つとも破裂した。
「はっ、東南アジア原産“ジバクアリ”の威力思い知ったかねぇ。」
倒れ伏した誠也が呟く
「自身に危険が迫ると腹部を破裂させて自決、腹部に溜め込んだ毒を撒き散らし、敵を道連れにする。15種ほどしか見つかってない新種だ。あいつらも流石に予想つかねぇだろうなぁ。難点はレア種で使い道があるから召喚限度数が少なくなること、自爆するから必然的に召喚可能キャパが24時間少なくなるため使い所を見極めざるを得ない点だがそれを補ってあまりあるな。ギ酸は少量だが非常に強い酸性、目になんか入れたら最悪失明だぜ。」
「目が‥‥‥開けられない‥‥‥一体何が起こったんだ?」
「アリが破裂して体液がそこら中になって‥‥‥」
「なって?」
「ボールが全部割れたわ」
「は?何を言ってるんだ?」
「私たちの負けって言ったのよ。」
朱里のインクボールが全損したことを確認した。2人を脱落とし、以降の参加を禁じる。2人はその場で待機すること]
五十嵐先生のアナウンスが入る
「何故! 私たちが負ける要素はなかっただろう?!待てよ‥‥‥アリと言ったか雪果」
「‥‥‥えぇ」
「ならこれを仕組んだのは吉川しかいないだろ!
倒れてから言霊を使用したんだから反則だ!私たちの勝ちだろ?五十嵐先生!」
[・・・・・・吉川誠也は脱落してから言霊を使用していない。これは確かなものだ]
「何?!」
驚愕する朱里
「そんな訳があるか!私たちは確かに吉川にやられたんだ!」
「落ち着きなさい朱里!」
ヒートアップする朱里に対し、雪果が制止をかける。
「五十嵐先生は“脱落してから”使っていないと言ったのであって“使ってない”とは言ってない。そうなんですよね先生」
[・・・・・・その通りだ。]
「!? つまり・・・・・・」
「そう、彼は倒れる前に言霊を発動、対象のアリを召喚していたのよ」
「・・・・・・けど、それはルール違反じゃないのか?言霊を使ったんじゃないのか?」
「繰り返すけど彼は倒れてから“使ってない”わ。ただ“放置していた”だけ。先生は別に言霊を解除しろとは言ってないもの。召喚したアリに“対象のインクボールを破れ”と命令してあとは成り行きに任せた。操獣者のメリット、召喚対象に意識があることを利用して。・・・・・・本当にしてやられたわね。理解できた?朱里」
「・・・・・・ちくしょうぉぉぉ‼︎」
朱里の悔しさが滲んだ咆哮をあげる。それはこの階にいたものだけではなく、この棟にいたものすべてに聞こえていた。
ちょうどその頃、誠也は
「おぉおぉ若有すげぇ怒ってるな。作戦は成功したと見て間違いなさそうだ。これは後が怖そうだぜ。・・・・・・まぁなんにせよこれで1vs1、あとは頼んだぜアキラ。」
こうして朗と天舞音が戦っている場面へと移る
2人の攻防を目で追えるものはクラスメイトにもいなかったほど、その剣戟は速かった
「(手数は上、スピードとパワーは拮抗、狙いの正確さ、刀の扱いは向こうに二回りくらい負けてるな。さて、いったいどうしたものか)」
「山庭君いいわぁ、ウチとこんなに長くできる人久しぶりやわ。もっともっと楽しませてぇな」
「正直言って結構これキツいんだが。本気だぞ?ていうかお前の道場の1位と2位の差激しすぎだろ!」
「あれでも朱里は全国区やで?弱いわけやないよ。むしろ独学でそこまで行った君に聞きたいわ。君、何者?」
「ただのしがないそこらへんの高校生だが?」
「冗談キツいわ。君みたいな高校生沢山おるわけないやろ?」
「それより、やっぱり独学ってのは分かるんだな。」
「そりゃもう、歴然やないの。君の動きに型はない。けどことを為すのに必要最小限の力しか使ってない。言い換えれば隙がないんやな。一番効率的な動きをしてるもんやからすぐやで」
「そう褒められちゃ照れるな。(戦闘が始まっておよそ10分経過した。ここまでの戦闘でまだボールが割られてないのは自分で褒めたいぐらいだが・・・・・・相手はまだ余力を残してるな。このままだと先に体力が尽きるのはこちらだ。どうにかして有利な状況を作り出したいがどうしたものか・・・・・・アレを出すにはまだ早いだろうしなぁ。やっぱり強いやつと戦うのは楽しいな。自分をさらに強くする手掛かりになる)」
「攻撃もやらしいとこばっか狙ってるなぁ。君絶対性格悪いで?」
「人のこと言えるのか?急所狙ったりフェイクいれたり、十分やらしいぞ?」
「あら、いけずやわぁ。ウチみたいな可愛い子捕まえて腹黒って言うん?」
「さぁどうだかな」
笑みを深め合う両者
自然、剣戟も激しさを増してくる
と、そこへ誠也が脱落したことを示す放送が流れてきた
「流石に2対1は吉川君にはキツかったようやなぁ」
「かもしれないな。だがあいつを舐めてたら痛い目にあうかもしれないぞ?」
「どう言う意味?」
「そのままの意味だ。アイツは油断ならないからな。何か隠していてもおかしくない」
ちょうど朱里と雪果が脱落したことを知らせる放送も流れる
「ほらな、相打ちに持ち込んだだろ?」
「いくら山庭君が朱里のボールを4個割ってたって言うても操獣者相手に遅れをとるような2人ちゃうよ?」
「アイツは唯の操獣者じゃない。呼吸と歩き方を見るに、おそらく古武術の一種を嗜んでいるな。お前らの反応を見るに今まで見せたことなかったみたいだが。ただ数には対処できなかったのか、単にそこまで強くなかったのか、どっちか分からないがおそらく相対した瞬間から勝てないことを察したんだと思う」
「なんでそう思うん?」
「2人を倒して相打ちに持ち込んだのに時間差があったからだ。」
「時間差が生じたって言うことは蟻を使った?」
「そうだ。あくまでも推測に過ぎないが、あいつは戦闘を演技に本命を隠して叩きつけたんだと思うぞ。今まで見せてなかった武術を使って自分に抗う気があることを示す。そのまま奮戦して互角ぐらいに戦う。本気で戦ったが力尽きて負ける。相手が油断したところをアリで追い討ちかけるっていうシナリオじゃないか?おそらく戦うのは死力を尽くしただろうが」
「二人が勝って安心したとこでアリにボールを割らせたっていうこと?」
「別に先生は言霊を継続していることを禁止していないからな」
「なるほどなぁ。一番想像が容易な結末やなぁ。」
「まぁ想像に過ぎないがな」
「じゃあ残るのはウチらだけっていうことやな?」
「そうなるな」
「五十嵐ちゃん、この勝負ついたら全体の勝負の結果になることでええ?このあと金属球探すの面倒くさいし」
[はぁ、まぁいいだろう。しかしどうにかならないのか、お前のその物臭な性格。]
「ええやん、ええやん堪忍してなぁ。山庭君もええやろ?もしウチに勝てればクラスみんなに強さをアピールできるんやで?」
「興味ない。っていうかさらに厄介なことになりそうだからお断りしたい」
「釣れないこと言わんといてぇな。これでウチも本気出せそうやしな」
「今までのは肩慣らしか?」
「まぁ結構本気は出したけどなぁ。全力ではなかったいうことや」
「‥‥‥はぁ、剣士の極致見せてくれ」
「なら行くで。伊賀流剣術 一ノ型 “光陰” 」
こうして決勝戦は最終フェーズへと差し掛かっていく
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