七話
遅れて申し訳ありません。
場所を移し、さらに時間を少し遡って再び誠也の場面
誠也がよろめき、チャンスとばかりに雪果が踏み込む。部屋に響いたインクボールが割れた音の発生源は雪果の左脇腹につけられていたものだった
「くっ、体術だけじゃなく短刀術も身につけていたとはね。能ある鷹は爪を隠すとはあなたのことみたい」
「いや、別に隠してたわけじゃねぇって。機会がなかっただけだ。それに今当てれたのは俺が隙を見せたから。2度目はねぇさ」
「それでも私の風船を割ったのは事実。賞賛に値するわ」
「それはお褒めに預かり恐悦至極。しかしまぁ面倒なことをしてくれたな、吉見」
「めんどうなことって?」
「全員を転移させて孤立させたってことだ」
「あぁ、文句があるなら天舞音に言って。私はそこまでやりたかったわけじゃないもの」
「そうか。それで聞きたいんだがどうして人を既に移すことができたのを黙っていたんだ?いつからできた?」
「それこそ別に隠していたわけじゃないわ。かと言ってあなたみたいに使う経緯がなかったからってわけでもないけど」
「って言うと?」
「これが出来るようになったのは最近っていうことよ。本当に最近ね。確か・・・・・・2週間前だったかしら?」
「それは最近だな。確かに。」
「本当ならこんなにも凄い能力は、敵には隠しておきたいのだけど・・・・・・先生方にアピールするならこの授業は絶好の機会じゃない。」
言霊高等専門学校、略して言霊高専では全国共通でその道の専門家が教鞭を執る。建築科では大工や設計士が、工学科ではエンジニアが、農業科では農家が、そして軍事科では軍事関係者がそれぞれとる。生徒が保有する言霊は一人一人違うため、一つの授業、一つのクラスごとに一人ずつ教師がつく(一般科目を除く)。そして、高専での学校生活はそのまま就職活動に直結する。それぞれの教師たちは、国から講義料が支払われるが一般高校の教員がもらえる給料よりは少ない。その代わりに自身が教えているところ以外からでも自由に生徒に対してスカウトができるのだ。スカウトされた生徒は学生時点で就職することができ、貢献度に応じて報酬も受け取ることができる。言霊高専が人気な理由の一つでもある。
したがって授業の間は先生やその後ろの企業、学校に対するアピールができるため、出し惜しみをする生徒は少ない。
「まぁそりゃそうだ。普通実力を隠す生徒は少ねぇだろうな。いるとすれば・・・・・・実力を隠してもスカウトが来るような奴か・・・・・・」
「そう言ったところに就職しようと思ってない人でしょうね」
「どちらも極少数の人間だけだな」
「えぇ。それで?聞きたいことは終わりかしら?終わりなら再開するわよ?」
「あぁ、こい!」
「あ、そうそう。貴方勝ちたいなら早々に勝負つけなきゃ勝ち目ないわよ?」
「なぜだ?」
「なぜって朱里がこちらに来る手筈だもの」
「なに?!あいつは朗とやってるんじゃ・・・・・・」
「山庭くんとやるのは天舞音よ。」
「でも伊賀は大塚と・・・・・・」
[大塚結衣の脱落を確認した。大塚はその場で待機、以降の行動を禁ずる。]
「なんだと!」
「天舞音が結衣ちゃんに負けるわけないじゃない。まぁ何にせよ手遅れね。いずれここに朱里がやってくるわ。貴方の負けよ、吉川くん」
「いいや、まだ分からないぜ。先にお前を倒せばいいんだろ?やってやるよ。」
「えぇ楽しませて頂戴!」
二人の勝負が再開する。ただし先ほどとは違い勝負が激しくなっているが。お互いの実力が拮抗し、互いのインクボールを2個ずつ減らし合った頃、遂にその時がきた。
新手がやってくる気配と共に
パァン
誠也のボールが1つ破られる。返す刀でもう1つも割ろうとしたその意図は、しかしギリギリのところで誠也が避ける。
「チッもう少しだったのだがな。まぁまだまだ楽しめそうで何よりだ。」
「冗談じゃねぇ。ただでさえ吉見の相手で手ェいっぱいいっぱいだってのに」
「舐めてかかると危険だわ、きちんと仕留めましょう朱里。」
「あぁ分かってるよ。こっちは転校生の野郎に散々やられて鬱憤がたまりにたまってるんだ。覚悟しろ!」
「何てことしてくれたんだ、恨むぞ朗」
「合わせるわ朱里。貴方のペースで始めて」
「了解!なら・・・」
踏み込みのための力を溜め込む朱里
「やべっ!」
「・・・いくぞ!」
誠也 対 雪果と朱里の戦いが始まる
体術と短刀術で相対する誠也に対し伊賀流剣術、鎌術で対抗する2人。元々天舞音に対抗するために組まれた2人の連携は非常に良く、なおかつ近距離でしか戦えない誠也と中距離と近距離のタッグは相性が悪かった。
速さと間合いにおいてリーチがある相手に対して誠也は重さと手数で戦う。朱里が振り下ろす太刀に対して短刀2刀を合わせて弾き飛ばす。朱里の晒す隙を埋め、重さの伴った一撃によって硬直をしている誠也に一撃を加えようとして放たれた鎌を回避。放った鎌を回収している雪果に短刀を一本投げる。が、それは体制を立て直した朱里に止められる。
「(ふぅ、一瞬も気を抜けねぇな。しかし朗もやったもんだ。若有のボールもあとは一つしかねぇ。
・・・・・・いやでも攻撃が激化してるのは朗のせいか。くそッ、なに言ったらあんなに怒るんだよ。怒らせ過ぎだろ)」
最初は遅れを取ってなかった誠也だったが事前にやっていた雪果との戦闘の疲労がここで現れてくる。更に誠也の動きに慣れ始めた2人の攻撃により劣勢になっていた。
「(今の俺と相手の戦力差を考えろ。今俺のボール残量が額と左肩の2個に対し若有が額につけた1つと吉見の額と右脇腹につけられている2つで合計3つ。手数も重さも既に出せない。圧倒的に負けているな。俺はあと言霊で対抗するしかないか・・・・・・。吉見の言霊はいいにしろ、若有の言霊は?)なぁ若有、お前言霊はどうした?」
鍔迫り合いをしている朱里に問う誠也。まさかコイツも煽るつもりかと怪訝な眼差しになる朱里。
「なに、これ以上手があるなら絶望的だなと思ってな。」
「そう言うことか。ならその点については安心するがいい。私の言霊はすでに使用済みだ。にっくきあんちくしょうに煽られてつい使ってしまったのでな。それでも手が全く出なかったのだが・・・・・・。くそっ思い出しただけで腹が立ってきた。」
「え?! あなた一体山庭くんのボールを何個割れたの?」
「・・・・・・むだ。」
「え?」
「皆無だと言っている!」
「全力を尽くしてまでやって朱里が手も足も出ないなんて・・・・・・私じゃ勝ち目なんてもっとないわね」
「あぁ、悔しいが実力不足だ。あんちくしょうは不本意だが、非常に不本意だが天舞音に任せることにした」
「さっきから気になってたんだがよぉ・・・・・・なぜ朗のことを”あんちくしょう”と呼ぶんだ?」
「あ”ぁ”?」
華の女子高生が決してしてはいけない顔をする朱里
「すいやせんでした。」
すごい形相を浮かべた朱里に条件反射でつい謝ってしまう誠也
「私も気になってるから教えてちょうだい朱里。だいたい察しはつくけど」
「察しがつくならいいだろ?言わなくても。私は言いたくない」
「いいじゃないの朱里、減るものではないでしょ?」
「嫌なものは嫌なんだ」
「はぁ、こうなると頑固ねぇ。吉川君、多分朱里は山庭君に散々煽られたのよ。」
「あ‥‥‥」
「この子人に何か言われるとすぐ熱くなっちゃってね。」
「うるさいぞ、雪果!子供扱いするな!」
「そういうところがダメだと言ってるのよ」
あきれる雪果
「もういいだろ!さっさと再開しよう」
再び始まる戦闘、だがしかし疲労が蓄積した誠也の動きは鈍く、決着がつくのは時間の問題というのは誰の目にも歴然だった
「(しかしよかったな。ここで若有の言霊が残っていたら絶望的だったな。相打ちにすら持っていけなくなる。だがもう時間は稼いだ。朗には悪りぃがまぁ許してくれるかね)」
そう考えている間ももちろん剣戟は続いている。
疲労により握力の感覚が消えたのか、ついに誠也が武器を手放してしまう
肩で息をする誠也
「勝負あったわね。どうする?降参するの?」
「降参させてくれるのか?」
「させるわけがないだろ!」
「だろ?なら一思いにやれよ。せっかく守り切ったってのに、もう動く気力がねぇ。立つどころか寝返りすらうてねぇからな」
「貴方は二人相手によく健闘したわ。」
「せいぜい屈辱を感じてそこに這い蹲るがいい。」
朱里 雪果の両者はそれぞれの武器を残った誠也の2つのボールに振り下ろした。
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