五話
「クソッ、厳しいなオイ」
「ほらほら、無駄口利いてていいの?かわせなくなるわよ?」
試合開始から約15分経過した今、誠也は仲間から孤立して戦わされていた。
相手方が打って来た戦略に振り回され、朗たちのチームが劣勢だった。
試合が始まった直後に朗たち3人の前に吉見雪果本人が移動。そのまま3人を相手が待ち受ける部屋まで全員を移らせた。誠也が吉見雪果と、結衣が伊賀天舞音と、そして朗が若有朱里とそれぞれ相対している。
「へぇ、なかなかやるじゃないの。"操獣者“は普通前線に出ること少ないから、面と向かった1vs1は弱いのだけれど・・・・・・あなたはそうでもないのね。」
「お褒めに預かり恐悦至極だぜ。余裕なんかねぇけどな(鎖鎌と相対することなんざほぼねぇから防御で手一杯だぜ)」
「そうみたいね。実際上手くよけてるけど反撃はできなさそうだし。」
「その通りだ」
雪果の言う通り、普通“操獣者”は前線に出ない。感覚共有や思念伝達を駆使して後方支援、情報収集や動物を使役しての攻撃が主だった役割だからだ。“操獣者”が召喚できる対象の数は、能力や大きさに応じて変わる。能力が高ければ高いほど、召喚対象が大きければ大きいほど召喚できる数は少なくなる。その中でも吉川誠也が持つ『蟻』は別格の強さで5千〜1万匹召喚でき、他を圧倒的に凌駕する手数を誇る。それでも攻撃力はアリ次第である。それらの点を踏まえて吉見雪果は吉川誠也を簡単に組みすることができると踏んだのだが・・・・・・
「まさか貴方が体術の使い手とはね」
「だろ?今まで使う機会がなかったから別に隠してたわけじゃあないぜ」
そう、誠也は体術使いだった。
「俺のモットーは歌って踊って戦える”操獣者“だからな」
この会話の間にも勝負はもちろん続いている
袈裟斬り
水平薙
逆袈裟
分銅振り下ろし etc・・・・・・
対する誠也は回避の一方
際どいところを見極めて避けているがそれでも間断の無い攻撃に攻めに移れない
互いにインクボールを破れない膠着状態だった
しかしその状態はすぐに崩れることになる
ぐらっ
「な!しまった!」
「もらった!」
パァン ボールが割れる音が響いた
〜〜 ーーーーーーーーーー 〜〜
場所と時間は移って朗の場面
「(ここはどこだ?いったいどこに飛ばされた)」
「やぁ、ようこそ仕合場へ。天舞音からの贈り物だよ?受け取ってくれ」
若有朱里が刀を投げ渡す
「これは・・・・・・刀か。」
「もちろん刃は伏せてないよ。鈍だけどね。仕合場に刀がないのは頂けないだろう?」
「・・・・・・仕合う気はないのだが?」
「釣れないじゃないか。遊んでくれてもいいだろうに。語り合おう。もっとも・・・・・・」
ガキン
爆裂的な踏み込みをした朱里と朗の刀がぶつかる
「・・・・・・そっちに気がなくても知ったことじゃあないけどね」
「なんでそうなるッ」
唐突に始まる戦闘
両者の間ではひっきりなしに剣閃が迸り、刀同士がぶつかり合って生じる金属音が部屋に鳴り響く
実力は拮抗していた
「銃撃もできるのに、剣術も嗜むのか。多才だね?転校生君」
「そっちもさすがだな。重さも速さもある。とても学生とは思えない境地だ。」
「そりゃ天舞音と一緒にいたらこうなるさ。言っとくけど天舞音は私が10人束になっても敵わないよ」
「それは怖い、流石に10人越えると相手できなくなりそうだな」
「へぇ、私が10人くらいなら簡単に相手できるって聞こえるけど?」
「それで、合ってる。お前が10人ほどなら問題無い。学生の領分にいないのは俺も同じだ。」
「傲慢だな。上には上がいる。それに・・・・・・」
踏み込みが一層重くなり、朗の体が沈む
「グッ・・・なんだと」
「・・・・・・いつ私が全力を出したって言ったんだい?目先で判断するのは三流もいいとこだぞ。天舞音がもうすぐで来ると思うけど、来る前に終わらせようじゃ無いか。」
先ほどとは比べ物にならないほどに重く速い一撃
朗が徐々に押されていく
「ほらほら転校生、10人は余裕なんだろ?早く実力を出しなよ。」
「・・・・・・」
「答える余裕もないか?」
ひたすら押し黙って太刀筋を捌き続ける朗
「黙ってないでなんか言ったら・・・・・・」
パァン
「なに?」
左脇腹につけていたカラーボールが斬られ
オレンジのインクが滴っていた
「今のが実際に刃が通っていたら悪くて致命傷、良くても戦闘続行不可能だなぁ」
オレンジのインクが刃先についた刀の峰を肩にトントンと当てながら悪い顔で笑う朗
「言っただろ?問題無いってな」
「やってくれたね山庭朗」
「あぁやったな。で?それがお前の本気か?言霊でも使ったらどうだ?多少は苦戦するかもしれないぞ?多少は」
「どこまでも人を馬鹿にするなぁ君はッ!」
「そう熱くなるなよ?武人だろ?冷静沈着にしてろよw」
「[薊の花も一盛り]」
ガン!
弾き飛ばされる朗
「そこまで馬鹿にしてくるなら見せてやろうじゃないか。」
そこからは両者言葉を使わずひたすら斬り合いが続いた
「(若有朱里はすぐに熱くなるタイプか。もっと冷静だと思ったが・・・・・・嬉しい誤算だな。それにしても言霊の効果はなんだ?攻撃は単調なくせに一撃がやたら重いし、間合い取ってもすぐ詰められるし、攻撃を受け流したら体勢崩れるはずなのに強引に戻してくるし、まず奴が所有している漢字の推測から始めるか。)」
「流石の山庭君ももう防戦一方かい?ほらほらさっきの大言壮語を実現して見せろよ。」
「(“薊の花も一盛り”だったか?意味は、トゲがあり雑草扱いされている薊も花が咲けば綺麗に見えることだったよな。
“限られた時期があること”
“急激にパワーとスピードが上がったこと”
これらを結びつけて考えると・・・・・・十中八九、時間制限付きの自強化系だな。こうも単純だと矛盾する事象がないから打ち消しようもないな)」
「無視か?余裕がないのか?どっちかはっきりさせろよ。ほらぁ」
「喋るくらいなら如何に相手を倒すか考え続けろよ。攻撃が単調だから俺の的を斬れないんだろ?」
正面から刀を挟んで対峙する隙をついて朗が足払いをかける。
「しまっ!」
体制を崩した朱里の両肩についてるボールが斬られ、鮮血ならぬインクが流れ落ちる。
朗は追撃の手を緩めず尚も残りを狙うが・・・・・・
「チッ、外したか」
寸前で刀を回避し、大きく間合いをとる朱里
「くそッ、なんで斬れないのさ」
「はぁ、挑発も戦闘も飽きた。全部単調だから。」
「貴様ぁぁぁ」
「力みすぎだバカ」
右脇腹につけていたカラーボールも斬る
「閉幕だ、やるには冷静さが足りなかったな」
朗が刀を下段に構えて朱里へ走り出す
おおきく振りかぶった刀を朱里の最後の一つのカラーボール、額につけている物目掛けて振り下ろした。
そのままボールを切り裂いて決着がつくかと思われたが‥‥‥
「ウチのかわいい朱里を苛めるの、やめてもろてもええ?」