二十四話 一年 対 二年 漆 切札
「始まったわね……」
武器が自分たちの手を離れ、飛び去っていくのを見ながらあかねは呟く。
「これって……桑田くんが言ってた例のやつ?」
「そうね。できればされたくはなかった策よ。」
そのセリフを皮切りに休憩を終え、部屋を出ていく。
「いくわよ。桑田の作戦が成功するにしても失敗するにしてもあたしたちは手ぶらなんだから。」
「そうだな。」
「上手くいってくれたらいいんだけど……」
作戦の要を担うクラスメイトに思いを馳せながら一行は部屋を後にした。
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現在の戦況は次のようになっている。
1年の脱落者:朗と浩が狙撃した6名 + 天舞音が斬った1個小隊3名 の計9名
クラス全体で2−2と同じ26名のため残存勢力は17名。内訳は最上階に2名、2階に6名、1階に9名である。
それに対して、
2年の脱落者:A班4名、B班3名、C班2名の計9名
残存勢力の内訳は西の拠点に後方支援の4名と護衛の朱里、清海を含めたA、C混合班が2階に6名、また2階の別部屋にB班の3名、1階に天舞音、朗、咫九人、浩の4名の計17名となっている。
桑田洋輔は作戦を練るにあたって、2-2が取りうる行動を可能な限り予測し、開幕のように対策を練ってきた。そして、対策を練るにあたって特に重要視したのは対応力である。どこからどういう風に攻められたとしても対処し、反撃できるようにバランスのいい人員配置を心掛けてきた。もし、予測外の行動を取られた場合も最短でカバーできるように考えられたのが3人班である。
基本的に性格や言霊の相性がいいだろう3名を最小単位に班を作り、それを城門付近や城内に配置していた。それが功を奏し、実際に予測できていなかった朗の地下からの侵攻も立て直して反撃に転じることができている。
しかし作戦会議の最中、どうしても無視できない問題に直面することとなった。
「洋輔くん......あれ、どうするんですか?」
「こればっかりは無策で行けばどう足掻いても勝ち目ないわよ。どうすんの桑田。」
時はデータをもらって2-2の授業シーンを視聴していたときまで遡る。
「あぁぁもぅ、攻城戦だろうが陣地争奪戦だろうが2-2の人たち強すぎない? 対策必須級な言霊能力者が多すぎて手が回らないんだけど!!」
「どうする、桑田が壊れたぞ。」
「とは言ってもなぁ......洋輔の気持ちもわかる。彼女を放置しておけば例え攻城戦だとしても分が悪いことは間違いないぞ。」
録画はクラス内対抗戦にて金属球や武器を<集めて>相手を無力化する大塚 結衣の姿が映っていた。
「はぁ〜〜。しょうがないよなぁこれは......。」
「どうするんだ?」
「俺は対策なんてわからんっ! 言われたことを実行するまでだぞ!」
「あんたには尋ねてないわよ。バカは黙ってなさい。」
高木の主張と決意は一蹴される。
「どうもこうもないよ。いや、どうしようもないっていうしかないね。 本当はもっと違う仕事を割り当てたかったんだけどね……。」
「私が相手をすればいいのか?」
「いや、戦木さんは伊賀先輩の相手だよ。そっちはもっと代わりが効かないんだ。」
「そうか。」
戦木と呼ばれた女子生徒が一歩下がると同時に、ひとりの小柄な男子生徒が名乗りを上げた。
「となると、その役目は僕のものになるのかな?」
「そうだね、風磨君。 本当は山庭先輩の相手をお願いしたかったんだけど……。」
「それは言っても詮無いことさ洋輔君。それに、僕も相手が女の子の方がやる気出るしね。」
「冗談でもそういうこと言うから距離置かれるんだよ、風磨君。」
風磨と呼ばれた生徒の軽口に、男子からは軽笑が漏れ、女子はドン引きする。彼は納得がいかなさそうな顔をしながら肩をすくめた。
「とにかくっ! この作戦は君にかかってる。しつこくてすまないけどよろしくね。」
「あいよ! 任せてくれ。」
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「とは言ったものの……さすがにちょっとしんどいな。」
時間は冒頭、場面は西側拠点へ移る。
「肝心の大塚先輩はいたけども……まぁ普通それだけ主要人物なら護衛つけるよなっていうことでして。」
1-1の作戦として3人班が基本形なのに対して彼、火元日 風磨は単独行動を命じられていた。それはひとえに彼の言霊によるものだった。
「狙うならいつがいいだろうか……洋輔くんは僕に任せるということだったけども……」
西側拠点の中庭に立つ大塚結衣と若有朱里の姿を確認しつつ、先の台詞を述べながら二人を見下ろせる位置まで“走って”移動する。そう、滑らかに屋根まで移動する身体能力もさることながら、それに紛れて1つ重大な事実が隠れていた。彼の行動から音が全く発生しないのだ。草むらの中を走っても、葺かれている瓦を踏みしめても音がしない。そうして2人に微塵も勘付かれることなく一番様子見しやすい場所まで辿り着いてしまった。彼の持つ圧倒的な消音性能こそが、単独任務を任されていることの大きな理由だった。
「言霊発動中がやはり最も周囲に対する集中力が途切れる瞬間だろう。若有先輩をどうにかして仕舞えばあとは簡単なはずだ。」
事実、朱里は気を抜いてはいなかった。朗に護衛を任された時ははらわたが煮え繰り返りそうではあったが、結衣が作戦上重要な役割を持っていたのはわかっていたし、天舞音にも頼まれていた。常に五感を研ぎ澄ませて周囲を警戒していたものの、その五感に引っかからない以上発見することはできない。
「朱里ちゃん! そろそろだよね。大丈夫かな?」
「……あぁ、問題ないと思うぞ結衣さん。」
なお一層集中し、あたりを探るが特に何の反応もないため朱里は作戦開始を告げる。
「特に強く効果を出さないといけないのはあの人たちだよね。よし!」
目を瞑り、事前に指示されていた人物の顔を思い浮かべ結衣は言霊を発動する。
「“天の鳥の止まり木”」
すると、本来つまり想定通り堀を超えて1-1の拠点である城内から飛んで来るはずの武器がありえない早さで飛んできた。
結衣の言霊で集めることができる対象物は、範囲内に複数個ある場合、それぞれ同じ速度で結衣の元へ集まる。つまり距離が結衣から離れていれば離れているほど結衣の元へ集まるまで時間がかかるということである。今回飛来してきたそれは、城内から飛来したものではなく、同じ拠点内から飛んできたものと同じ速度くらいである。
「結衣さん下がれ! 城内に侵入者がいる‼️」
そういうのと同時に、何物かが朱里の足を切り裂いた。
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