二十二話 一年 対 二年 伍 侵攻
「 [貫く]」 「 [顕現 : Φ1000穴]」
それは奇しくも桑田洋輔が気づいたタイミングと同時だった。
「敵影なし! 侵攻班はこのまま階段を登って敵将を討ちに行け! 守備班はここで待機!階段を死守して侵攻班の邪魔をさせるな!」
[「思ったより早く相手が気づいたようだ。西門配属の1年生が一斉に城内に戻ってる。なかなかやるな……ここが踏ん張り時だ。よろしく頼む。」]
「「「 了解‼︎ 」」」
城内に用意されている二箇所の階段の付近の部屋。そこにはそれぞれ地下に通ずる大穴が空いており、そこから2–2の生徒が次々と侵入していた。
[「清海、首尾はどうだ。」]
「概ね順調だよ、朗くん。やっぱり薄く広げていたみたいだね。これから会敵するから切るね。」
[「わかった。ひと段落したらまた報告してくれ。」]
廊下からこちらへ向かってくるような声と足音が聞こえてくる。
「瀬尾君、江崎さん。お願い。」
「了解!」 「任せとけ!」
名前を呼ばれた2人はそれぞれ反対側の通路へドラム缶を蹴り飛ばした。穴が所々開けられたそれは中に入っている何かを撒き散らしながら廊下の奥へ転がっていく。
「止まれ!何かくるぞ!……ってドラム缶?」
驚いて一瞬止まるも、なんの気配もないことで意識を切り替える。
「行こう!洋輔と先輩たちを挟み撃ちにするぞ!」
「おぉぉぉ!」
勇ましく突撃していくもその勢いは断たれることになる。なぜなら……
「おわっ!!」 「いてっ」
「なんだこれ……油?」
先頭の生徒たちが次々と転倒したからである。そう、先程ドラム缶から流れていたのは油だった。それが階段へとつながる通路に満遍なく撒かれており、1年生たちの足はそこで止められることになった。
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B班は早々に1年生の侵入を許していた。しかしここもまた膠着状態に陥ることとなる。
パチン、パチン
「なぁ……こぅへんの?」
パチン、パチン
「こぅへんなら……こっちから行ってまうか?」
天舞音以外のB班は全員上に行った。天舞音1人でここを食い止めていた。否、天舞音1人でこの場を制圧していた。
「(既に6人やられたっ。これ以上減らされるわけにはいかない。慎重に、慎重にいかないと…。)」
ふと後ろに気配を感じる。振り返るとそこには悪魔がいた。
「来てしもたわ。」
刀を仕舞いにこやかな笑顔を見せる天舞音。少女は遅れて喉元に衝撃の余韻を感じた。
「みんなっ。時間を......。」
「喋ったらあかんよ?」
詰め寄り、追い討ちをかける。
「『死人に口なし』、やろ? 」
城内は混沌に叩き落とされた。
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「(分隊はうまく機能しているな。作戦通りだ。)」
西の拠点で朗は報告を聞いて現状をまとめる。試合前に立てていた作戦がいい具合にハマっていた。
「(初手は竹嶋の対物ライフルで牽制と油断を誘い、付与言霊の弾丸で壁抜き狙撃。そしてこれらを陽動として北の拠点、南の拠点から穴を掘り城内の2箇所へ直接侵入して大将とその他の生徒を分断。下からくる相手を抑えつつ複数で囲んで大将を討つ。これが作戦だった。あとはダメ押し二つだな。)」
勝ちを決定づけるための“ダメ押し”。それが2つもあった。
「(攻城戦は守り手が強い。でも大きな弱点が2つある。それに向こうが気付けてなきゃ、あっさり勝てる。さぁて、どう出るかな?)誠也!」
[「どうした?」]
「今まで以上に相手の動向に目を光らせといてくれ。対応が遅れて勝ちを逃したくない。」
[「あぁ、任せろ!」]
「任せた。大塚!」
[「何?」]
「俺たちももう出る。手筈通りダメ押しを頼む。」
[「うん! 大船に乗った気でいてよ!」]
通話越しでも張り切っているのがわかるその声に、朗の顔にも微笑が浮かぶ。
「頼もしいな。任せたぞ。」
通話を切り、拠点の門の前に集まったC班の面持ちを見る。
「俺たちも城内に入る。目的は挟撃。特にA班の負担を減らすためだ。いくぞ!」
「「「おぉぉぉ!」」」
西側拠点を飛び出し、西門から城内へ向かう。西門を担当していた生徒たちは既に城内に戻っており、もぬけの殻だった。……とここで誠也から通信が入る。
[「朗!早速悪いが報告だ。」]
「どうした誠也。」
[「一年が階段がある部屋とは真逆の方向に走ってる。何か臭うぞ。」]
監視役を担う上で城内の間取りは完全に把握している。1年生が向かっている部屋にはたしかに何もないはずだった。
「…となると……、A班とB班がちょっと危ないな……。わかった誠也。いい報告だった。この調子で頼む。」
[「おう! 任せとけ!」]
動きを止めずそのままC班に指示を出す。
「篠山と竹嶋は俺についてこい。残りは俊哉についてA班に合流してくれ。」
「「「了解」」」
咫九人と浩以外のメンツが返事をする。こうしてC班は二手に分かれ城内に入っていった。
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