二十話
遅れてすみません...
「で、朗くん。首尾はどう?」
時と場所は再び体育祭一戦目の1−1対2−2の開始時まで遡る。
「ダメだな。やっぱり対策はされていたようだ。それに……」
「それに?」
索敵用の双眼鏡を覗いて着弾点を観察していた朗がそれから目を離して隣にいた結衣に渡す。
「俺たちの挑発に真正面から受けて立つって言わんばかりの表情だった。」
「ええやん。楽しくなってきたわ。」
戦闘狂っぽい感想を述べる天舞音に一同は苦笑する。
ガシャン
天守閣の一室を狙撃した張本人である竹嶋 浩は排莢し、次弾を装填する。
「おい、山庭! いつでもいけるぞ。」
「わかった。吉見、よろしく頼む。」
「了解。 [“移す”]。」
了承の旨を簡潔に述べてから言霊で姿を消す吉見。彼女は偵察とは別の重要な役割も任されていた。
「上手くいくかな?」
「上手く行かせるために使えるものは全部使って勝ちに行くさ。そのために吉見にもちょっと無理をするよう言ったんだ。そう簡単に音を上げるようなやつじゃないことは大塚たちの方がよく知っているだろ?」
「そうだね!」
「吉見も俺も役目を果たす。大塚も、な。よろしく頼んだぞ。」
「任せてよ!」
気合い十分に頷き、力こぶも見せて張り切る結衣。試合開始前の緊張も十分ほぐれたようだった。……とそこへ雪果が帰ってくる。
「はぁ……はぁ……。戻ったわ。正面に7人、北に5人、南に5人、東に3人ね。竹嶋君、あなたから向かって12時10分、1時15分、11時30分の位置に撃てば当たるわ。」
「わかった。」
「山庭君、作戦通り各階一部屋ずつ立ち寄ってきたわ。」
「……となると連続7回使用か。無理をさせてすまない。今は休んでてくれ。すぐまた呼ぶことにはなるけどな。」
「わかったわ。……ここまで酷使するのよ。勝ってくれなきゃ困るわ。」
「善処しよう。負けても見る人が見たら功労者が吉見だってわかるくらいには足掻いてみせるさ。」
そう軽口の応酬をして雪果が拠点の奥へ姿を消すのを見送ってから朗は正面を向きなおす。そうしてそれぞれの顔を見ることなく指示を飛ばした。
「伊賀と清海はそれぞれが率いる分隊へ合流。作戦再開の合図を伝えて侵攻してくれ。」
「「了解‼︎」」
「大塚と誠也は待機。指示があり次第例の作戦を遂行してくれ。」
「「了解‼︎」」
みんな部屋からはけていき、部屋に残るのは朗と竹嶋だけとなった。
「竹嶋、やれ。」
「……ちっ。」
舌打ちをしながら雪果が伝えた方角へ向けて弾丸を3発撃ち込む。しかし撃破した際に鳴るアナウンスは流れなかった。
「あ? どういうことだ? いねぇじゃねぇか。もう撃てねぇってのに何無駄なことしてやがるッ」
「キレる前に自分ならどうするかまずはよく考えてみろ。斥候がきたのは知ってるんだ。お前が対物狙撃銃を顕現できるのも知ってる。突っ立ってたら塀をぶち破って弾が飛んでくるんだから逃げるに決まってるだろ。」
「そこまで読めててなんで俺に撃たせたんだっつってんだよこっちは!」
キレた竹嶋が朗に詰め寄り胸ぐらを掴む。それでも朗の態度は余裕だった。そこがさらに竹嶋を刺激する。
「てめぇは天才だろうから知ってるだろうけどよ……言霊の効果は大きく3つに分けれるよなァ……おめぇみたいに一回ごとに対価を支払う者、最初にデカい対価を支払う代わりに自分の手を離れて言霊が働く者、半永久的に言霊を働かせられる代わりにずっと対価を支払わなければならない者。真ん中が“召喚者”、後者が俺たち“顕界者”だ。」
あまりの怒りに震え、解説役を担ってしまう竹嶋。しかし彼の怒りももっともといえばもっともだった。
「天才様にわかるかねぇ……戦闘中もまともに言霊を発動し続けられるように訓練する大変さが。今でこそ4丁同時顕現しつつ全力で動けるようになったが、ここまでくるのも相当にしんどかった。そこまでできても対物ライフルの顕現は4発が限界なんだぞ。そこにお前は襲撃起点となる3箇所の門の破壊と内側にいる主要人物の狙撃っていう注文までつけてきた‼︎ 引き受けたからにはやるが無駄にされたとなると黙ってられるわけがねぇだろうがっ‼︎」
「落ち着けよ。体力を消費した割には動けるじゃないか。」
「てめぇ……」
そこへさらに火に油を注ぐような行為に出る朗。しかしその言葉にはまだ続きがあった。
「さっきの狙撃はわざと外させた。あれで良かったんだ。」
「外させたのがわざとだ? 馬鹿も休み休み言いやがれ! 」
「馬鹿じゃない。狙いがあった。」
「俺の体力を無駄に浪費させることにどんな意味があんだよ!」
「そう、それだ。」
「あ”?」
「1発目を防いだってことはこっちが対物ライフルを顕現することを読んでいたってことだ。その証拠に向こうの狭間に今までスナイパーがいなかったのに今は4、5人いる。壁抜きで殺されるのを防ぐためだろうな。そして相手はこちらが撃てる限界もわかってた。もう壁抜きはないだろうと読んでさらに防御力を上げるためにスナイパーを配置してるからな。」
「結局何が言いてぇんだよ。」
「わからないか? 今一年生たちは緩んでる。4発分の体力を無駄遣いさせて侵攻の糸掛を潰し、ダメ押しで防御力をあげて作戦が上手くいってると思ってるからだ。だから予想外のところから奇襲して一気に崩す。」
「あ? どうやってやるっていうんだよ。」
そこで朗は徐に1発の弾丸を取り出した。
「これを使う。」
「ただの弾じゃねぇか。」
「確かにただの狙撃銃用の弾丸だ。直前に清海が触れた以外は特になんの変哲もないただの弾丸。」
「……⁉︎ まさか……何か[付いて]いるのか?いや、聞き方が違うな。答えろ。その弾には何が“付いてる”?」
朗は悪どい顔を浮かべる。
「<貫>だ。効果を考えると対物ライフルの下位互換だが、こちらの体力を消費しないという利点がある以上むしろ使いやすい。それに……。」
「今一年坊は壁抜きを警戒してないから当てやすい、か。」
「正解だ。」
「チッ」
反論の芽を潰され、そして言い返す余地もないことがさらに竹嶋を苛つかせる。が、彼はそれ以上突っかからなかった。納得はしたようだ。
「んで、その弾は何発ある?」
「8発だ。一回だけ触れた物をエネルギーを消費せず貫くことが出来る。」
そう言って朗は弾が入った弾倉を浩に投げ渡す。
「あ?これ4発しか入ってねーぞ。」
「あぁ、それで合ってる。俺とお前で4発ずつだ。」
そう言って胸元からもう半分が入った弾倉を取り出した。
「俺の方が当たる。それもよこせ。」
「いいや、同時に撃破して対策を練らせる時間を潰す。お前ほどじゃないにしろ扱える。問題ない。いいか、これはあくまで陽動だ。中にいる相手を減らし、外にいる敵の注意をこちらに引き付けておくための、な。」
「……どうやって狙う。」
「合図を出す。それまで待機だ。」
「チッ……都合のいい駒扱いしやがって。」
終始朗のペースで話が進み、ついぞ鬱憤が晴らされることがなかった浩は対戦相手に標的を変えることで溜飲を下げ、渋々配置へつく。
こうして、着々と朗率いる2年生の戦略は次第に大きな動きを見せていった。
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