十九話 一年対二年 弐 作戦
先週未更新ですみませんでした。
普通に続くのでこれかも読んでいただけると嬉しいです。
「一度に5枚も……さすがだね。ありがとう。壁から離れて少し休んでくれ。まだ君が頼りなんだ。」
「はぁ……はぁ……。わかりました。少し……休みます。」
流石に5枚同時に作るとなれば、相応の体力と精神力を消費してしまう。しかし対策としては必要不可欠であり、最低限な出費であった。
〜3日前〜
「よしっ! それじゃあ各々見てきた先輩たちの報告と対策について話し合おうか。」
1−1のクラスでは、1回戦の相手である2−2の対策会議が開かれていた。
「やっぱり1番やばいのは大将の山庭先輩と伊賀先輩だと思う。」
「「「あー……。」
「まぁそうだよね……。」
「伊賀先輩はわかるけどよ……山庭? 誰だそれ?」
「え? 見てないの? 今年編入してきた先輩なんだけど、初日で伊賀先輩に一騎打ちで勝ったんだよ。」
「……まじ?」
「うん。しかも伊賀先輩は型も使ってた。」
「なぁ桑田……」
「どうしたの?」
「これ……対策のしようあるか?」
情報収集した結果さらにお通夜のような雰囲気になる1−1。しかし先行きが不安になるのも仕方のないことだった。
苦笑しながら桑田が返す。
「たしかに困難な壁であることは間違いないね。でも、できることはたくさんあると思うよ。27人もいるしね。」
「そうか……そうだな。」
「よしっ。4通りかな?[たくさん考えていこうか!]」
こうして色々情報出しあいながら2日間の空いてる時間を使って3通り考えていく。3っつ目の作戦を考えた頃にはすでに一同は疲労でフラフラだった。
「ふぅ……これで攻城戦の攻め手の時の作戦も一通り考えられたかな……。辛いけどもう一息!ちゃんと休むのは攻城戦の守り手だった時の作戦も考えてからにしよう!」
桑田は疲れているクラスメイトに対して檄を入れる。しかしクラスメイトたちの顔色は優れない。
「ねぇ洋輔くん……それ本当に必要?」
「詳しく聞こうか、秋遠さん」
1−1有力者、秋遠あおいが桑田に対して異を唱える。
「だってさぁ……私たちがコイントスで勝ったらそもそも攻城戦は選ばないし、逆に負けても敗北必死な攻め手になることはないじゃん? それなのにもしかして攻めざるを得ない状況があるかもって言ってあんなしんどい作戦考えたんだよ? 守り手とか策がなくても勝てるでしょ。」
大多数の同級生たちも同意見らしく、秋遠の意見に頷いている。
「さて、それはどうかな?」
それに対して桑田はあくまで余裕といった態度を崩さず、笑みまで浮かべて反論する。
「これは僕の勘でしかないから全然異論も反論も聞くんだけどね? これまでの資料を見た感じだと選んでもおかしくはない気がするんだ。好戦的な人たちみたいだからね。選ぶからには無策はあり得ない。そんな中でもし僕たちが無策で挑んだらどうかな?圧倒的有利な状況でなすすべなく敗北したとあれば悪い意味で名を刻みそうじゃない?」
流石にそんな最悪は避けたい。そう思わせるには十分すぎる“もしも”だった。それも当然である。いかに相手が上級生だからという理由があっても桑田が言った通りのような状況になればスカウト目的の教師や企業の相手の印象は文字通り最悪になりかねないからだ。
「わかったわよ! でも何? さっきの時間は無駄だったってわけ?」
自分と同意見だった同級生たちを奪われて少し面白くなかった秋遠がふてくされて言う。
「いや、もちろん意味はあったよ。さっきも言ったけど、攻城戦の攻め手を選ばざるを得ない状況があるかもしれないからね。」
「……? 私たちが攻城戦を選ばない限りないんじゃなかったの?」
「そうだね、だから2年の先輩たちに対して攻め手を選ぶことはないね。」
「じゃあやっぱり意味ないじゃん……。」
「いいや? 僕が見据えてたのは3年の先輩たちに対してさ。」
桑田のこの言葉に一同がざわめく。今回対策をしてきたのは2−2の生徒たちだけであった。それに対し桑田は3年の対策までしてきている。彼が本気で勝ちを見据えての行動であることの証左だった。
「どうやら圧倒的に攻め戦が得意な先輩たちがいるそうでね。その先輩たち相手には攻め手に回らざるを得なさそうだから作戦を立てる練習がしたかったんだよ。」
黙っててごめんねとはにかんで見せる桑田。これには秋遠も引く以外の選択肢がなかった。
「それで? 私たちはどうすればいいの?」
秋遠が守り手の場合の作戦を出すよう促す。
「まずは……
〜〜 ーーーーーーーーーー 〜〜
「まずは竹嶋先輩の言霊で対物ライフルによる狙撃が来るんじゃないかって予想したけど、合ってたね。まぁ篠山先輩でマグナム弾も[顕現]できるんだしお手頃だから選ばない手はないと思ってたけど...」
再び場面は体育祭一戦目の初動に戻る。<作>言霊保持者、予野沼 あめに壁を作らせたのは対物ライフルによる狙撃を防ぐためであった。そして、作戦はそれだけではない。
「はぁ......はぁ.......。先輩たちに“挑発”の返答は伝わりましたかね......。」
「壊れた壁の隙間から顔を覗かせて煽っといたから大丈夫だと思うよ。」
堂々と不利な陣営を選んで「これくらい不利でトントンだろ」と言ってきた2-2の先輩たちに対して、「やれるもんならやってみてくださいよ」と言い返すような意趣返し。別の部屋に移動して徒に体力を消耗させることなく対処することもできたのにあえて真正面から受け止めたのはそう言う意図があった。
「みんな!! 作戦通り僕と予野沼さんは無事だ。こちらの予想が当たった!! この調子で行くぞ!!」
通信機の向こう側から威勢のいい声が聞こえる。作戦成功によってみんなの士気がとてつもなく上がっていた。
「次に相手が行動するとしたら四方位にある門だ。とりあえず作戦続行。相手のパターンによって軌道修正しながら守り切ろう!」
「洋輔‼︎ 早速動きがあった。東門に吉見先輩が言霊を使って侵入してきた!! すぐいなくなったがこれって“あれ”だよな?」
東門を守備する部隊の隊長を任された生徒から報告が来る。
「(東門......吉見先輩は瞬間移動の能力者だ。斥候にうってつけの能力。ここで先輩が来るならそれは守備の配置と人数の確認だろう。先輩が東門に現れたのか......。) 狙撃は反対の西側の拠点から行われたのは見た。おそらく陽動ってことだろう。本命は吉見先輩が来た東門だと思う。挟撃狙いだと思われる。まだ動くのは早いけど北門と南門から二人ずつ東門に動かす準備をしといてくれ。」
「「「了解!!」」」
攻城戦で使用される建物は土木科が建てた物で、かつて日本に存在していた城を参考に建てらた古風なものだ。競技に使われるもので注目されるため、作り手の学生たちの気合が十二分に込められていた。その再現率たるや、城を囲む塀はもちろんのこと、堀やそれにかかる橋。狭間や部屋にまで細かく再現されていた。守り手が迎撃するための設備は整っており、それが攻城戦における攻め手の不利になっているのだ。ただ、そこまで不利が重なると実質的に攻め手が勝つ目が完全に無くなり、選択される競技が陣地争奪戦のみになってしまい面白みが半減してしまう。そこで攻め手に有利になるような工夫もある程度されていた。
まずは城を囲む堀にかけられた4箇所の橋と門。これにより守り手が守らなければならない箇所が増え、人員を割かれることになる。1クラスは基本30人未満である。守りを薄く、全体的に延ばすか、一点読みで戦力を集中させるかの読み合いを強制させる。そしてその読み合いを必ず引き起こすために設けられたのが橋の奥にある4箇所の拠点である。攻め手はどの拠点に誰を置くのか事前に決めることができ、その情報を伏せたまま試合が始められる。結果守り手はどこから敵が攻めてくるのか分からないまま、先の守る作戦を決めなければいけなくなる。
そしてさらに守りが難しくなるように広さもある程度確保されていた。あらかじめ通常の授業の資料から対戦相手の立てうる作戦を対策し、行動を絞っておかないと守りが追いつかなくなってしまう。
以上のような工夫で攻め手の勝利がなくなってしまわないように調整が施されていた。しかしあくまでも“勝ち”が無くならない程度であってやはり有利は守り手に傾く。この対戦は大いに注目を集めていた。
「(東門に現れたなら城で遮られるから狙撃の心配はないけど……。)」
「桑田君! 西門にも吉見先輩が現れたわ!」
「南門にも一瞬現れたぞ!」
「北門にもだ!」
ここで桑田にとって想定外なことが起こる。
「(4箇所全てに現れただって? 体力消費的にそこまでするとは思っていなかった……。どこだ、先輩たちはどこから攻めてくる。) [慎重に考えよう。]」
言霊を発動する桑田。一拍おいて大切なことに気が付いた彼は慌てて各リーダーたちに通信を入れる。
「各員‼︎ 狙撃がくるぞっ。今の配置から散開!」
「「「 了解‼︎」」」
北門、西門、南門たちの生徒たちが今までいたところから離れる。そこへ各門に時間差で順番に1発ずつ壁を破って銃弾が叩き込まれた。
「あ、危ねぇ……。」
各部隊のリーダーたちは冷や汗を流す。弾丸が通過した場所は彼らの頭が先ほどまであった場所だったのである。
「今ので対物ライフルによる狙撃はおそらく終わり!これから通常の狙撃と敵の侵攻があるわ!ここまで桑田君が立てた作戦通りよ!鼠一匹入れないように守りましょう‼︎」
「「「おぉぉぉ」」」
作戦通りに状況が展開されていることにより一層沸き立つ西門の生徒たちに桑田の顔にも微笑みが浮かぶ。この調子で守りを固めようと今後の作戦の進め方を考えようとしたときふと違和感を覚えた。
桑田 洋輔は<考>保持者である。その言霊の能力の一つは集中力の強化だ。言霊発動時、“考える”ことに対して一時的に深く集中することができる。文字通り深く狭く集中することになるので桑田は詠唱によってどう集中するか変えて使い分けていた。
この試合で最初に言霊を発動した時の詠唱は「慎重に」であり、この言霊の効果はまだ継続していた。結果桑田は違和感の正体に対して深く読み解こうとどんどん集中していく。
「(僕は何に違和感を覚えた? 直前に聞こえたのは西門のクラスメイトの会話だった。これの何に感じたんだ?『鼠一匹入れない』……微小な隙間もないことを指す慣用句だ。……あぁ、「『蟻一匹』じゃないんだ。」って思ったんだっけ……。蟻……蟻だ‼︎。まだ全部わかったわけじゃないけどまずい気がする!!)」
思考の海から急浮上する桑田。この言霊の副次効果として思考加速があり、今彼が考えていた時間も現実世界ではほんの少しだけだった。
「敵に動きがあるかもしれない!みんな、気をつけ“パァン”……」
「気をつけるんだ」と続けようとした台詞が銃声に遮られた。
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