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選択未来  作者: ほたての時代
日常編
2/26

一話

(「・・・お前に全てを託すから・・・俺たちの分まで生きてくれよな・・・」)

「(待って、そんなのあんまりだ!)


“待って!”

  ・

  ・

  ・

  ・


「・・・夢か」


 そう呟き、振り上げられた・・・否、追い縋ろうとして伸ばした手を戻す。

 ベッドから起き上がった青年は部屋にあったテレビのリモコンを取り、電源を入れた。


「皆さん、おはようございます。5月12日、朝のニュースをお送りいたします。まず最初のニュースは・・・」


 始まったニュース番組を尻目に彼は学校に行くための準備を始める。ものの数分で準備を終え、冷蔵庫から朝食を取り出し、家を出た。

 彼が通う学校は、最寄駅から電車と徒歩を合わせて約15分。家から近い学校だ。


 もっとも、“通い始める”という表現の方が正しいが。




 道中で、家から持ってきた10秒でチャージできるゼリーを飲み終え、学校に到着すると、


「あの、ちょっといいですか?」


 学校の職員とみられる女性に声をかけられた。


「今日から編入予定の・・・山庭(やまば) (あきら)くんですよね?私は君が加わる2−2の担任をしている須賀田(すがた) 千都世(ちとせ)と言います。これからよろしくお願いしますね」


「こちらこそよろしくお願いします」


 担任を名乗る須賀田に連れられ、朗の姿は学校の中へ消えていった。



 担任である女教師の須賀田 千都世といくらか話をした後、彼女が受け持っているクラスの扉前に立たされた。


「はい皆さん、おはようございます。少し前から話していましたが今日から2−2にクラスメイトが加わります。こちらには友達も知り合いもいないそうですが、これを機に話しかけてあげてくださいね。それじゃあ入ってきてください。」


 須賀田の合図とともに教壇の前まで出ていく。


「山庭 朗、17歳。山の庭は朗かと書いてヤマバ アキラ と読む。趣味は読書、言霊は<選>。転校理由は引っ越したからだ。これからよろしく頼む」


 朗は黒板に名前と言霊を書きながらクラスメートに自己紹介をした。


「はい、席は窓側の前から3番目に空いてる席に座ってください。」


 全27人のクラスの中で彼の出席番号は24。朗は指定された席の前まで進み、椅子に手をかけたところで、出席番号25番である一つ後ろの少年が朗に話しかける。


「よぉ転校生、俺はお前の一個後ろの席の吉川(よしかわ) 誠也(せいや)だ。言霊は<蟻>。よろしく」


「あぁ、こちらこそよろしく頼む」


 朗が席に座ったタイミングを見計らって先生が声をかけた。


「山庭君の顔合わせが済みましたね。それではみなさん、いつも言っていることですが、あなたたちは日本国立東京言霊高等専門学校、軍事専攻2年2組の生徒です。そのことに誇りと自覚を持って過ごしてくださいね」


 そう言って先生は教室から出て行った。


 日本には太古より「放った言葉には現実にする力がある」という概念、つまり“言霊”と呼ばれる存在が恐れられてきた。言霊を研究してきた科学者たちは2040年代に「人によって言霊が及ぼす影響力が分野ごとに違うこと」「最も高い影響力を及ぼす分野を一生のうちに変化させることはできないこと」また「最も高い影響力を及ぼす分野は出生時に得ること」「分野は漢字一文字によって決まる事」などを発見。


 つまり「人が生まれるとその魂に漢字が刻まれ、その漢字の意味に従った能力を発現することができる」ということがわかった。その後、言霊を使いこなす事が出来た者達の成果により出生時に得た漢字を視覚的に知る事ができるようになった。それから100数年経った現代社会は言霊によって成り立っている。


 そんな言霊についてより研鑽を積ませるよう国が膨大な予算を使用して建設されたのが高等言霊専門学校で、全国に北海道(札幌)、仙台(宮城)、東京、愛知(名古屋)、石川(金沢)、兵庫(神戸)、福岡の七箇所存在する。また、専門も軍事科、農業科、工学科、土木科、化学科に分かれている。全国から入学希望者にあふれており、創設年以降定員割れを起こしたことはないという。当然入学できたものはそれだけでエリート扱いされる。一際倍率の高い東京高専入学者は人生勝ち組と揶揄されるのも致し方なしだろう。


「東京高専は毎朝のように誇りを持てとか言われるんだな」


「まぁそうだな。あんまり自覚ないけど」


「最初の授業はなんだ?」


「軍事専攻なんだ、やっぱり実技だろ」


「そうか?一般科目もあるだろ」


「軍事専攻のイメージは実技だと思うけど?」


「あぁ、俺転校前は名古屋高専の軍事専攻に通ってたからカリキュラム自体は慣れている」


「げ!? 入学試験より厳しい編入試験受かってきただけでやべぇってのに」


 吉川と朗がそんな話をしていると、1人の女子生徒が近づいてきた。


「へぇ〜、山庭くんは名古屋高専から来たんだ〜」


「えっと、君は誰だ?」


「あ、ごめん。私は出席番号4番の大塚(おおつか) 結衣(ゆい)だよ」


「・・・・・・?」


「え?どうかした?」


「すまない、なんでもない」


「そう? 言霊は<集>だよ」


 提示された身分証明証には確かに<集>と書かれていた。


 言霊を理解し、意のままに操る事が出来た者達(当時は到達者と言われていた)は己の所持した漢字を駆使し、到達者同士で言霊を組み合わせ、さまざまな画期的なアイテムを創り出した。

 その一つが身分証明証だ。使用したい人物の血液や、毛、皮脂などの細胞が含まれるものを言霊の効果が乗った銀色のカードに含ませると、名前、性別、身長、体重、漢字、所属組織が表面に刻まれる。名前以外の項目は隠匿する事ができる。出生時に国から2枚支給され、1枚を個人用、1枚を市役所で保管する。登録した本人以外が触れると表示が切れて、ただの銀色のカードになるが、一度使用したカードは違う人が更新しようとしてもされず、本人のみのものとなる(もう一度本人が触れると元に戻る)。同じ使用者のカードは半径1m以内に近づくと引き合う性質がある。それを利用して市役所で保管される。内容を更新したい場合はカードにその都度細胞(主に血液)を含ませれば良い。


「わざわざ証明証まで見せてくれるって律義だな」


「え〜そうかな〜?仲良くなりたいし誠実さ見せたいじゃん」


「それをする奴はそうそういないしな。いい奴だと思う」


「えへへ、それは良かった」


「それで? なんで実技の前に俺に話しかけてきたんだ?」


「えーっとね、次の実技でペア組んでもらおうかなーって思って」


「ん? 俺は一人でやろうと思っていたが」


「お? なんだお前は聞いてなかったのか?次の授業は最低2人以上でやらないといけないんだぞ。」


「そうなのか、いや、全く何も考えていなかったから組んでくれると助かるが・・・いいのか?」


 知り合いがいない状況での、この申し出は朗にとって願ったり叶ったりである。


「私は全然いいよ〜」


「いや・・・君はよくても彼らはどうなんだ?組みたそうにしているが・・・・・・」


 大塚はクラスで人気があるのか、クラスメイト達がものすごい形相で彼のことを見ていた。


「あ、みんなごめん。また今度組むのじゃダメかな」


 気まずそうな表情を浮かべながら、近くにいた男女が答える


「いや、全然大丈夫」

「むしろ邪魔しちゃってごめんね結衣」

「こっちこそごめん」


 そう言って名残惜しそうに離れていった。


「さて、じゃあ改めてよろしくね朗くん」


「あぁ、よろしく」


「あ、俺もまぜてくんね?」


 そこに吉川が加わろうと声を上げた時


「てめぇ何しれっと大塚と同じ班に入ろうとしてんだ?」

「結衣ちゃんが良くても俺らは許さねぇぞ」


 同じクラスの男子2人が因縁をつけてきた。


「すまない、俺の方がアイツと組んで欲しいんだ。悪いな」


 とりあえず仲裁しようと朗は3人の間に割って入るが


「あ? テメェ結衣ちゃんに気に入られたからって調子乗ってんじゃねーぞ」

「編入試験受かって浮かれてんのかもしれねぇが、上には上がいるって事教えてやんよ」


 金髪長身と緑髪にピアスの2人は聞く耳を持たない。


 威勢の良いことである。だが、クラスメート達の実力を確かめたかった朗からすれば丁度良い。


「それは面白い。是非とも教えてくれ。俺は逃げも隠れもしない」


 朗の顔に挑発的な笑みが浮かんでくる。

 挑発に当てられた2人は


「その言葉忘れんじゃねぇぞ」

「次の授業で思い知らせてやる」


 そう捨て台詞を残し、教室から出て行った。



「なんかわりぃな、俺のせいで」

「ごめんね。ちょっとガラ悪くて」


「まあ気にするな。実際に実力も見てみたいし、どこの学校にもいる事だ。それよりできれば奴らの事を教えてほしい」


「金髪長身の方が、竹嶋(たけしま) (ひろし)。言霊は<銃>。ありとあらゆる銃火器を顕現できる能力と、銃の扱いが上手になる能力を持っているよ。」


「緑髪ピアスの方が、篠山(しのやま) 咫九人(たくと)。言霊は<弾>。ありとあらゆる弾を顕現できる能力と

万象を弾く能力を持っている。こいつらは基本2人1組で行動するな。小学生から組んでるタッグらしいから息はすごく合ってる。この学校に実技だけで上がったようなもんだからな。実力は相当あるぜ。」


「バカなのが玉に瑕なんだけど、それさえなければこのクラスでもトップクラスの実力者かな。」


「なるほど、よく分かった。対策をいくらか考えておこう。もう時間だし移動しながら、な」


「「了解!」」


 戦闘着に着替えを済ませた朗たちは、同じ敷地内にある別棟の建物に集合していた


「それではみんな集まった事だから実技訓練を始めたいと思う。朗くんは初めてだったな。訓練担当教務員の五十嵐(いがらし) 沙絢(さあや)だ。よろしく頼む。さて、今日は事前に連絡した通りタッグを組んでやってもらう内容になっている。申請書を提出してくれ」


 クラスメイトたちがペアを組みたいものたち同士の名前が書かれた申請書を先生に提出していく。


「ふむ、確認し終えた。3人1組が9チームだな。おっと4人チームが2つと3人チームが6つで8チームになるのか。いいだろう、このチームわけでいこう。これからしてもらうのは簡単に言えば宝探しだ。もっとも普通の宝探しではない。場所はこの建物の隣の棟で行う。2チームずつ戦い、1チームごとにバスケットボール大の金属球を渡す。1チームは1階に、もう1つのチームは5階に拠点を置き、それぞれの階のいずれかの部屋に球を置く。勝利条件は敵チームの金属球を探し出し、自分で触れる事だ。それさえ守れば何をしても良い。装備品は通信機器を人数分、そして1人5個ずつインクが中に入ったボールをつけてもらう。ボールはどこにつけても良いが必ず目視できる自分の体につける事。武器未所持者は学校側から出す模造の武器や、モデルガンを使うといい。もちろん顕界者は顕現させるのもアリだが、非殺傷のものにするように。体につけられたボールを5つ全て破壊されたものは脱落者としてその場で待機、言霊を使用するのも禁ずる。以上のことに対して違えた場合は成績に響くため、注意するように。質問はないか?」


 生徒を見渡す五十嵐。

 生徒の1人がそれに対し手を挙げた。


「先生、球を護衛するのはありですか?」


「1人だけいてもいいことにしよう。」


「インクボール以外の場所を攻撃するのはありですか?」


「原則的にだめだ。確実に狙ったと判断するかどうかはこちらに権利がある。くれぐれも注意するように」


「わかりました」


 生徒が質問を終え座る


「他にはいないか?」


 再び生徒を見渡す。今度は挙手する生徒はいなかった


「それではどのチームとどのチームがやるか抽選で決める」


 会場となる施設に入る

 今から10分間は相互不可侵となり、作戦を立てる時間があった


「それじゃあまず、あんたらの言霊を聞きたいのだが、いいか?」


「おう、じゃあ俺から説明するぜ。俺の言霊<蟻>は召喚と計画破綻と必ず成果を上げる能力がある」


「さすが19画とだけあって強力な言霊だな。もうちょっと詳細を聞けるか?」


「ああ。召喚は動物系の共通能力だが、蟻は5千から1万ほど召喚可能だ。数は種類によって左右される。強力になればなるほど少数しか召喚できない。あとは感覚共有と思考伝達、召喚対象の死亡12時間以内は再召喚不可能と言った共通能力だな。計画破綻は、蟻の使用によってほんの少しでも計画を阻害し、油断を誘えた場合に限り計画を破綻させられる能力。必ず成果を上げる能力は、蟻を使用して諜報活動をした場合、12時間に一度大小関わらず成果を上げれる能力だな。」


「了解、理解した。大塚は?」


「私はものを集める能力しかないの。具体的には半径1km以内から対象を集める能力。場所は知らなくても問題ないし、範囲も指定することが可能だよ」


「分かった。じゃあ布陣はこうする。遊撃隊を俺と大塚で、護衛を誠也にやってもらう。誠也には1階で護衛をしつつ、敵のボールのありかを探ってもらう。相手の遊撃隊を探り当てたら基本的に俺に報告して潰しに行く。可能であれば大塚の能力によって開幕回収を狙うが当然対策はされると思うから、あわよくばだな。キーマンは誠也だ。よろしく頼むぞ」


「了解、任せろよ」


「あぁ任せた。最初の相手は?」


「さっき話してた竹嶋くんと篠山くん、それに清海(きよみ) 凪斗(なぎと)くんよ」


「その清海というやつの言霊は?」


「『付』だな。〜を付けるっていう感じで使用してるとこしか見たことないな。」


「実技はあんまり得意じゃないけど頭は凄くいいよ。正直あの2人と組むのは予想付かなかったけど、参謀役として引き入れたんじゃないかな」


「ちなみに気は強くないぜ」


「了解、なら開幕回収は無理だな。地道に行こう。ああそれと・・・」


「なんだ?」


「初戦だけはあの2人に手を出さないでくれ。1人でやってみたい」


「分かったけど・・・大丈夫?あの2人めっちゃ強いよ?」


「問題ない。この学校でどのくらい通用するのか・・・・・・」


 試合開始のゴングがなる


「腕試しだ」


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