十七話 体育祭始動
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寝静まる東京の街を音もなく疾走する3つの影があった
「Hey thistle. Well I get that?」
「No、Nepenthes. That is my prey.」
「Oh . When it comes to “Clown” 、 you are really serious.」
何かを追っているその三人はいずれも身のこなしが常人のそれではなかった。
追尾していた男が曲がっていた角を同じようにまがった先にはヤクザのような形をした人が五人ほど待ち構えていた。
「おめぇら、あいつらをブチ殺せ!」
全員が持っていた銃を黒服に身を包んだ三人に照準を合わせ引き金を引く
とめどなく銃弾が飛び交うが弾丸を視認しているのか最小限の動きで回避し、誰一人として負傷しない
「Really annoying. Lend me a gun right now.」
「OK 、 use this one.」
Nepenthesと呼ばれていた男が懐から銃を取り出し、真ん中の男に投げ渡す。
「[俺にはいらない物だから]」
真ん中の男は日本語でそう言いながら受け取った銃を“捨てた”
すると男の手から離れて地面に落ちようとしていた銃がしかし地面に落ちる前に跡形もなく消える。
「[俺も捨てたんだからお前らも捨てろよ]」
それだけではなく、さっきまで撃っていたヤクザたちの銃まで同様に消えた。
「何だと!!」
明らかに言霊が原因だとわかる現象にヤクザたちが狼狽する。
「Hey、thistle.Presents for you」
「Thanks . Good job Nepenthes」
Nepenthesが渡したのは鉄パイプ。真ん中の男の手になじむ太さのそれを使いこなしてヤクザたちを薙ぎ払い、残るは追尾していた男 瀬戸大輔のみとなっていた。
「For the time being・・・・・・・・・・・・make him stop fussing」
そういうと同時に放たれた2発の銃弾は狙いをあやまたず瀬戸の両膝を貫く
「グハッ あ、足がぁぁぁ」
激痛に悶える瀬戸
「Snapdragon、You may spare yourself the trouble.」
「な、何なんだよお前たちは・・・・・・こっちくんじゃねぇ!」
歩けないがために尻餅をついたまま後ずさる瀬戸に対し、黒服に身を包んだ三人の男は歩いて近寄る。
「俺は『道化』に所属する者たちにかける情け容赦など持ち合わせてないのでな」
thistleと仲間から呼ばれていた真ん中の男が瀬戸に銃口を向ける
「死ね」
一つの銃声が鳴り響いた後、再び周辺は静寂に包まれた。
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「『圧倒的な技術力を持って幅広くあなたの暮らしに寄り添います Owl’s Coin NYH』」
家電量販店のテレビからCMが流れる。
「最近よく見るよねこのCM」
結衣が一緒に歩く朗に話しかける
「実際人気なんだろ? 人員確保にも成功したみたいだしな」
「付与言霊が施された道具が比較的安価に買えるって売り文句で大成功した企業だろ?」
コインを握るフクロウが画面に大きく映し出されてCMは終わる
「そうそう! 実際かなり安いんだって。しかも安いからって不良品って訳でもないみたい。」
「へぇ。それがホントならだいぶ虫がいい話じゃねぇか? なんか怪しいなぁ」
「何でもニューヨークからきた敏腕経営者をスカウトしてるらしいぞ」
「よほど好条件で雇われたんだろうね。付与言霊が商品ならアメリカ側に利益なさそうなのに・・」
言霊の効果は日本の領土内でしか発揮できない。それは付与言霊も例外ではなく、日本国領土外に持ち出されると言霊の能力は消え、ただの物になる。アメリカ側は言霊が付与された商品を手に入れることは出来ない。それゆえそれ以上の好条件を持ってスカウトに成功したと結衣は言っているのである。
「そういえばもうすぐ体育祭だよね!」
「いきなり過ぎないか?」
「就活にはまだ早いけど今のうちから目立てたら後々有利だから頑張りたいな!」
唐突な話題変換に思わずツッコミを入れる誠也。しかし結衣はスルーだった。
「大塚の言霊はかなり優秀だからな。そんなに心配することないと思うぞ。」
「俺は? 俺はどうだ朗。」
「十分強力なんだがな・・・・・・絵面が地味だから努力しないと伝わらなさそうだ」
「そうか…まぁそうだろうなぁ」
高専の体育祭は3日間、学科によって異なる競技が行われる。どの学科の競技にもプロの目は集まり、良い結果を残せれば進路に大きな影響を与えることは間違いない。
農業科、化学科、工学科の競技が注目を浴びないわけではない。しかしながらやはり1番の目玉は軍事科の競技だろう。わかりやすく勝敗がつくからだ。事実として高専軍事科の体育祭はメディアでよく取り上げられている。
「トーナメントの発表は1週間後だったか?」
「体育祭本番の1週間前に発表だからそうだね! 緊張するなぁ…」
「若干運ゲーなところあるからなぁ…まぁせめて悪すぎないことを祈っとくか」
「これから休日によくお世話になってる人と会って体育祭に向けたトレーニングしようと思ってたんだがどうする。来るか?」
「行ってもいいの?朗くんがいいなら行きたいな!」
こうして各々が体育祭に備えて1週間がすぎて行った。
体育祭1週間前の昼休み、慌ただしく教室へ入っていく人影があった。
「おい! トーナメント出たぞ! 初戦の相手は1年1組だ!」
そう言って撮ってきた写真を共有する。
「俺たち三戦しないといけないのかぁ…キッツイな…」
「でも3年生と戦うとしても3戦目でしょ?結構いいとこまでいけそうじゃない?」
思い思いに話し合うクラスメイト一同。
「俺聞いたことあるんだけどよぉ…1年には言軍からのスカウトが秒読みじゃないかっていう生徒がいるらしいぜ」
和気藹々と話し込んでたクラスメイトたちが誠也の言葉で凍りつく。
「嘘でしょ? 1年に天舞音ちゃんクラスがいるの? そんなの勝てっこないじゃない。」
一気にクラスの空気がどんより沈む。明らかに要らないことをした誠也に朗は厳しい目を向けた。
「ま、まぁあくまで噂だからな(汗)」
どう考えてもフォローが苦し紛れである。逆効果にしかならないのだった。
「はぁ……噂を鵜呑みにするな。まずは、対戦相手の情報を集めるところから始めないといけない。」
朗は立ち上がり落ち込んだクラスメイトたちを見回す。
「噂の真偽と相手の手札を確かめる。実戦じゃあこうはいかないが、せっかくできるんだ。やらないと損だろう。」
高専の軍事科の専門科目は全てカメラで記録されており、申請さえ出せば誰でも閲覧することが可能である。体育祭前はこれを利用して対策を練るのがセオリーであった。
「仮に確かめて噂が真だったとしてもその時はその時で伊賀をぶつければいい。どうせ戦闘狂なんだ。喜んで引き受けてくれるだろう。」
「っておい。いやせやけども……」
朗と天舞音のノリツッコミでクラスの雰囲気が和らぐ。
「今から落ち込むのは早い。準備し全力を尽くし、それで負けてからでも遅くはないだろう。」
再度朗はクラスメイトたちを見回す。最初の悲壮感はすでに消えていた。
「そもそも相手は一年坊。高専というつらい授業を1年間乗り越えてきた俺たちの敵じゃあない。」
ここで一拍置く。そして不敵な笑みを浮かべて言い切った。
「先輩の威厳ってやつを見せつけてやろうじゃないか」
「「「おーーーっ!!」」」
クラスメイトたちの士気を盛り返し、役目を果たした朗は席に着く。
「名将やなぁ朗くん。どこまで多才なん?」
「大したことはしていない。やる気はあったみたいだからな。むしろダシにして申し訳ない。」
「必要なことやったしええよ。間違ってへんしな。」
快活な笑顔を見せる天舞音に朗は微笑みを向ける。
「ありがとう」
2人の間には“なんかいい雰囲気”が形成されていた。これをよく思わない人間が約2名。
「朱里?顔が怖いわよ?」
「うるさい、ほっといてくれ‼︎」
取りつく島もないとはこのことである。
「お、大塚……どうかしたの……」
「うるさい、元凶は黙ってて」
こちらに至っては食い気味だった。
「はい……すんません……」
やらかした自覚もあって何も言い返せず黙って俯く。こうしてすったもんだありつつ2−2の1週間は過ぎていった。
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