番外編
休載と言ったな...あれは嘘だっ!!
遅れてすみませんm(*_ _)m
神山のお礼参りとなった授業の日の翌日。土曜日で学校がないにもかかわらず、いつもの夢、いつもの時間に目が覚める。普段通りの朝だ。
そしてこれまた普段通り、天気予報を見るためだけにテレビの電源をつけた。
「皆さん、おはようございます。6月3日、朝のニュースをお送りいたします。まず最初のニュースは・・・」
天気予報の時間になるまでに支度を整えようか。
今朝送られてきた段ボールから新鮮な野菜と卵を取り出し、朝食を準備する。もうこんなことする義理もないだろうにとどいた食材はどれも一級品だった。厚意を無碍にしないよう素材の味を楽しめるシンプルでバランスのとれた料理を作る。
「いただきます。」
不思議と暖かみを感じる味だった。ちょうど食べ終わったタイミングでニュースが天気予報のコーナーになる。
「本日、6月3日は全国的に晴れるでしょう!カラッと青空でお洗濯日和になると予想されます。 」
どうやら今日は晴れるらしい。
ただ休日であると言うだけで、いつもとなんら変化がない一日。人生に彩りがない人間。俺を一言で表すならきっとそんな感じだろう。
平日なら学校に行っている時間だが、休日はそれがない。それにもかかわらず俺が取る行動は休日なら休日で統一されていた。洗濯、家の掃除、家事を一通り終わらせて家を出る。外は普段の疲れを癒すために外出している人たちであふれていた。
「しかし、あの授業が金曜でよかった。あの後何もできずに倒れるほど疲れてたからな。翌日も学校だったら疲労が回復しなかったはずだ」
誰にも聞こえないくらいの声量で独り言を呟きながら目的地へ歩く。10数分歩いているとそれは見えてきた。
「やぁ、朗くん。待ってたっすよ。いつものっすね?」
入り口で待ち構えていたのはここ“ボクシングジム キタジマ”の店主こと。俺は彼に週一でスパーリングの相手をしてもらっていた。
「えぇ。よろしくお願いします。」
もっとも、お互い型も流派も技もないただ組み手をするだけの時間だったのだが。
開店前で誰もいない静かな空間に二人の打ち合う音が響く。空を切り裂く鋭い音に表情は変えないまでも内心冷や汗をかいていた。ボクシングジムを経営しといて出てくる技はボクシング以外が大半なので質が悪い。
ジャブを交えてきたかと思えば、いきなり身を捻って回し蹴り。そしてさらにそれがブラフで本命は頭上で止めた回し蹴りをそのまま落としてのかかと落とし。ほとんど防御かかわすことしかできていない。30分も経過する頃には息をするのがやっとくらいまで消耗していた。
「いやぁ〜、すごいっすねぇ。ウチの生徒でもここまでできる人はいないっすよ。どうです? 本格的に入ってみませんか?」
「毎度言ってますが遠慮しておきます。助かってますけど、なかなか忙しいもので」
「そりゃ残念。仕方ないっすね」
あんだけキレのいい動きを30分続けておいて全く呼吸が乱れていない。そろそろ40歳なはずなのに体力ありすぎるだろう。
「すみません、お待たせしました。続きお願いします」
「いえいえ〜。全然待ってないっすよ。さっきの動きも以前より良くなってましたし...もしかして何かいいことありましたかね?」
相変わらず洞察力がいい。
「あぁ...同級生からちょっといろいろ教わる機会がありまして。」
「朗さんが教えを請うほどの技術を持ったお方ねぇ。」
北島さんが鋭い眼差しで俺のことを観察する。
「まぁいいっす。続き、しましょうか。言霊ありの全力戦闘に朗くんはどこまでついてこられるっすかねぇ」
舌なめずりをした北島さんに最近何かと目をつけられている同級生の姿を重ねながら寒気を覚える。生唾を飲んだのを合図に戦いの火蓋は切って落とされるのだった。
〜〜 ーーーーーーーーーー 〜〜
「それじゃあ朗さん、私は店に戻るっす。また来週よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしくお願いします。」
そう挨拶を交わして俺は北島さんと別れた。結局言霊を使ってもあの人の息を切らせることは不可能だった。幸いなのは単純な体術の時とは違って、2、3本いいのを当てることができたところだろうか。大半は防御一辺倒ではあったが大きな収穫だ。
あとはそのまま家に帰るだけだったが、帰り道の途中である人物から呼び出しを受けた。
「よぉ朗。悪ぃな休日に付き合わせて。」
「構わない。どうせなんの予定もなかったしな。しかし意外なメンツだな。」
俺を呼び出したのは誠也だった。そして何故か吉見雪果がいた。
「そこでばったり会ったのよ。無視するほど興味が無いわけではないのだけど...そもそもあなたたちと絡むようになったのは朗君が天舞音を倒して気に入られたからでしょ?吉川くんとはあまり喋ることがないのよね。」
「...まぁそういうことだ。」
「そうか...なんだ、その...どんまい。」
場に思わずいたたまれない空気が流れる。
「で...俺を呼んだ理由はわかったがこれからどうするんだ?」
「あぁ...せっかくだからカラオケでも行こうかなと。」
「いいんじゃない? 珍しい転校生な上にとんでもなく強いのだから興味あるわ。歌くらい勝てないかしらね。」
2人とも乗り気みたいだ。断る理由もないな。賛成の意志を伝えて3人でカラオケに行った。
「いや、吉見...お前うますぎねぇか?」
「そうかしら? まぁ歌は小さい頃から好きだったわ。」
結論から言えば1番下手なのは俺だった。誠也は低音で民謡が似合う渋め。吉見は透き通るような綺麗な歌声だった。
帰り道、3人で大通りを歩く。
「あぁ...完敗だ。普通すぎてきかせるのがはずかしかったぞ。」
「そこまで褒められると照れるわね。」
とそこで女子高生3人組とすれ違う
「ねぇ知ってる?茨城で爆発事故あったんだってぇ。」
「爆発? 工場で事故とか?」
「それがぁ...言霊の暴発らしいよ?」
「あ、うちそれ知ってる〜。一応被害者側が事故起こした方を訴えようとしたんでしょ?でもけが人もゼロだしむしろこれまでの被害者側がしたことバレてなんやかんやってやつ...」
女子たちは角で曲がって声はそこで聞こえなくなった。
「(茨城か...あの人がいたなそういえば...)」
「おい朗。聞いてたか?」
「すまない...聞いてなかった。」
「だろうな...にしても清々しすぎるだろ」
若干申し訳ない気もするが、他に考え事をしていたのだからしょうがない。
「で、何の話だ?」
「ったくよぉ...明日の授業もペアでやんなきゃいけないやつだけどどうするって...「キャァーーーッ」...何だ?」
みんなで声のするほうを一斉に向く
「ひったくりよっ。誰かッ。」
~
「ひったくりが...まちなさいっ」
「おいみんなっ、追うぞ。」
「あぁ皆守。行こうっ。」
「(ダメだ。そっちに行っちゃ...あの時行かなければっ)」
~
「吉見、俺だけあのひったくり犯が逃げた先に飛ばせ」
「え?でも見えてるとこまでしかできないわよ?」
「それでいい。はやくしろっ。」
「わ、わかったわ。[移す]」
突然口調が変わった俺に戸惑いつつ吉見は直ぐに言霊を使って俺を路地まで飛ばした。初めて体感する吉見の言霊に驚きつつ、俺はすぐさま犯人を追いかける。時間を置かずに追跡できたおかげで犯人を追い詰めるのは容易だった。
路地裏で誰もいないことを確認しつつアンクルホルスターから銃を取り出す。犯人と俺が一直線になっタイミングで銃を構えた。
「とまれひったくり。警告する。そこまでだ。」
ひったくりは脇目も振らず逃走した
「警告はしたからな。」
そうつぶやき引き金を絞る。狙いを誤らず銃弾は犯人の左太ももに命中した。当然犯人はこける。俺はゆっくりと犯人の方へ近づいていった。
「痛ェ...痛てぇよ。てめぇ何しやがるんだッ。」
「犯行し、逃走し、警告を与えた上でなお逃げるお前に発砲しただけだが?」
「何するかまで言わずに急に発砲しただろうがっ。」
男は脂汗を浮かべて俺の方を睨む。
「何をするか確認もせずに無視をしたのはお前だろうに...どうせこう思ったんだろ『やれるもんならやってみな』と。」
「うっ...」
図星なのだろう。男は目を逸らした。
「はぁ...反吐が出るッ。それで? お前はどこの所属だ。」
「所属? 何言ってんだ?」
「とぼけるな。“パァン”」
肩に銃口を向け2発目を打ち込む。
「がああああっ。」
「うるさい黙れ。3発目が欲しいか?」
男は声を抑えなんとか首を振って拒否の意を示す。
「もう1回言ってやる。どこの所属だ?」
3度目の痛みに怯えながら一生懸命男は訴えた
「知らねぇ...ほんとにお前が何言ってんのかわかんねぇんだ...許してくれよぉ...ほんの出来心だったんだ...」
「いい年こいた大人が犯罪して捕まって泣きわめくんじゃない。見苦しい」
“パァン”
3発目を頭に撃ち込んで意識を刈り取る。4発目を撃ち込むべく胸のど真ん中に照準を定めた。
「やめなさい朗君♡これ以上はいくら非殺傷とはいえ死にかねないわ♡」
「犬山さん...」
ゴツい腕が銃身をそっと掴む
「本当にこの人はそうされるまでの罪を犯したのかしら? 朗君の過去を知ってる者からすればその行動は仕方ないものと言えるけどお友達の方はどうなると思う♡」
2人分の足音が聞こえてくる。
「犯人の方は私が誤魔化しておくわ♡さっさと銃を隠して帰りなさい♡」
「わかりました。ご迷惑をおかけして申し訳ありません。ありがとうございます。」
深々と頭を下げて礼をする。
「ん、いいわよ♡ また遊びに来てちょうだいね♡」
「朗っ、銃声したけど大丈夫か?!」
誠也と吉見が追いついてきた。
「大丈夫よォ♡犯人は捕まえておいたから安心してちょうだい♡あなたたちは被害者の女性にこのバッグを返しておいてもらえると助かるわ♡」
「あ、はい。ワカリマシタ。」
あまりに筋骨隆々な大男がオネェ口調という異質な光景に2人が固まる。
「じゃあね朗ちゃん♡」
「えぇ...ありがとうございました。」
こうして事件の幕は閉じた。犬山さんによればひったくり犯は本当に出来心でやっただけらしくなんの繋がりもないとの事だった。
「結局あの人はなんだったんだ? えらくムキムキだったけど...」
「...あの人はただの喫茶店の店主だ。あんななりして料理が美味い。もちろん人を見た目で判断していけないがな。」
「それだけであんな筋肉いるか??」
こうして休日は過ぎていった。1人の胸のうちに瑣末な疑問を残して。
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