十六話
「せや。銃弾以外あらへんのよ。そんで吉川君が言ってることも大正解。神山君は撃ち尽くしてたから詰まるわけがない。でもな?よぉく考えてみ?あの場にあった銃弾はそれで全てやったか?」
「いや、にっくきあんちくしょうも銃がメインだった。当然持ってるだろうな!」
「いや、待て待て。それじゃあまるで朗が神山の銃の口径に寸分過たずに銃弾を打ち込んだみたいに聞こえるぞ.......」
「流石にないだろう。それは人間離れしてるぞ?」
「ウチもそう思うよ。それで?実のところはどうなん?朗くん。」
天舞音が話の主導権を朗に譲る。皆が朗に注目した。
「俺の言霊があればやってやれないことはない。そう言うことだ。」
「えぇ?! でも朗君の言霊って別に銃が上手くなるわけじゃなくない?」
「確かにそうだ。だが俺の言霊はなんだ?」
「“未来視”だ。詠唱すると複数の未来が提示され、その中から一つ未来を選ぶ。なお選んだ未来通りに必ずしもなるわけじゃない。だろ?」
朱里が朗の問いに答える。
「あぁ、その通り。もっと詳しく言うなら、ある時点で自分が選択した場合どういった結末になるのかという未来が見れる。この未来の視聴時間には限度があり、ある箇所を過ぎるとその未来で決定になる。逆に言えば、その選択をした結果を完全に見終わらなければまだ未来を見ることができる。今回はこの特性を応用した。」
「っていうと?どないしたん?」
「『この角度で銃を撃った時どうなるか』といった選択で未来を複数個見た。失敗例を何回か見て大まかな角度を絞り込み、そこからさらに複数個見ることで精度をあげ、成功例を引き当てる。そう言う感じだ。」
「本来一発勝負なところを朗君の言霊ならシミュレーション、つまり模擬練習ができるってこと? ほんとにすごいね朗君の能力。羨ましいなぁ...」
朗の能力に感心し、大半のものがここでその能力に羨望を抱いた。
「なるほどなぁ・・・・・・神山君を仕留めたからくりについてはようわかった。せやけどウチが知りたいのはまた別。話戻すけどな? あのなぁんもない闘技場でテトラポットみたいな『障害物』はどこにあったんかね? あと朗くん・・・・・・自分さっき「案外理系なのか?」とか言ってたけど、ウチのことどう思ってるん?」
朗の脈略のない話と本題を結びつけ凄まじい洞察力を示すと同時に解答を誤れば死につながりかねない、そう思わせるだけの寒気を漂わせる天舞音。朗をして言葉を選ばざるを得ないと感じさせていた。
「あー・・・なんだその・・・すまない。体を動かす方が好きなのかと・・・・・・」
「・・・・・・まぁええよ。からくり教えてくれたら、な」
「あ、あぁ・・・・・・それなら簡単だ。理屈だけで説明がつかない時、そこには往々にして言霊が絡みついている。伊賀、お前も薄々勘付いてはいたんだろう?」
「あくまである程度は、って感じやけどね。」
「「「「えぇ⁉︎」」」」
一同が驚愕に包まれる
「ちょっと待ってよ朗くん! 多重保持者なの⁉︎」
「まぁそういうことだな。」
「自己紹介の時に言ってねぇじゃねぇか!」
「普通手札は見せびらかすものじゃないだろう?」
食い付く仲間たちに対して飄々とした態度をとる朗。まさしく柳に風な態度で受け流していた。
「そもそもじゃそこまで珍しくもないだろうに」
「その割には手札を晒すのが早いんじゃない? もっと切りどころはあったように思えるのだけども」
「まぁなしでもやってやれなくはないが……」
「ないけど?どうしたの?」
「折角あるなら使った方が遥かに楽だったという点、そしてあの手のタイプの心を折るには正面から叩き潰すにかぎるからという2点だな。使わない選択肢はなかった。」
「なるほど流石だ。性格の悪いお前らしいなっ」
「また朱里はそないなこと言う。ウチも同感やよ?使えるものは使わな勿体無いし、正面から捻り潰すのも気持ちいいもんやで?」
「天舞音、悪いが流石に少し引くぞ…」
非常に悪い顔をして性格の悪いことをのたまう天舞音に一同はドン引きする。
その顔もおよそ華の女子高生が浮かべていいものではなかったと記載しておく。
「んで結局よ。その肝心の朗の二つ目の言霊は何なんだ?」
「……秘密だ。」
「は?」 「え?」
当然教えてもらえると思っていた仲間たちは朗の答えに間抜けな声を漏らした。
「なんでそこまで言わないといけない? 隠してはいけないと言う規則もない。それに……」
「それに?」
「防いだ原理はもう教えた。ヒントは十分に出揃っている。こういうのは推測するのも楽しいものだぞ。」
「せやな。何でもかんでも教わるっていうんは甘えやしな。自分で考えてみるのもええなぁ。」
「そうだろう?答え合わせはまた…… 「せやけどな?」……なんだどうした?伊賀」
再び底冷えするような悪寒が朗を襲う。
朗はビクつきながら天舞音の方を向くと、そこには青筋を浮かべた般若と言うべきような顔をした天舞音が立っていた。
……重ねていうが決して女子高生が以下ry…
「自分、なんでウチとやるときその言霊使わんかったん? ウチ手加減されるのほんまに気に食わへんのやけど」
「いや、違う。転校初日から手札を全部晒す真似はしないだろう普通。それに言霊を使わなかっただけであの時点の俺は全力だった。」
あまりの恐怖をして、いつも冷静な朗の口調が早くなっていく。
「そもそもだ。伊賀だって言霊を<顕現>以外使ってなかったじゃないか。お互い様だろう。」
「ウチはいいんです。あくまでも剣術だけでの勝負のつもりやったしな。朗君は違うやん。なんでも使えるものは使うって言っといて出し惜しみしてるやん。」
分が悪いと悟った朗は降参して両手を上げる。
「わかった。伊賀さえよければ今度仕切り直しでやろう。なんでもありでやろうじゃないか。」
「わかればええんやで? 言質とったし、約束忘れんといてぇな?」
こうして合同演習に含まれた軍事専攻科全員の因縁返しは終わった。
神山は右手指複雑骨折、中手骨、手根骨骨折、前腕部骨折と右側肋骨に罅が入り入院が決まった。
ご拝読いただきありがとうございます!
高評価、誤字脱字報告、その他感想などいただけると非常にモチベ維持につながるので良ければよろしくお願いします。
この話で第1章は終了となります。それで活動報告でも出しますが、ひと月ほど2章以降の準備のために休載させていただきます。ここまで読んで頂きありがとうございました。よろしければ2章以降も頑張りますので楽しんで貰えたら幸いです。m(_ _)m