十一話
「(来たで、チャンスや!)」
空砲を見た瞬間に朗に突っ込んでいく
「 双技 “雷霆”」
双技とは複数の技を同時に繰り出す複合技で、今天舞音が出した雷霆は発;稲光と終技;光彩陸離の複合技だ。つまり『左右の動きを交えて相手を揺さぶりながら一瞬で10余の攻撃を放つ技』ということである。これを以て試合を終わらせようとした天舞音の意思が見える攻撃である。
しかしここで天舞音にとって予想外なことが起きる。朗が手に持っていた2丁を手放し、しかし地面に刺していた刀をとるわけでもなく後ろに引いたのだ。そのまま朗は懐からコンバットナイフを複数本取り出して頭上に投げ、2本を両手に持つ。
「(そんなんでやる気なん?うちも舐められたもんやわぁ。)」
繰り出された攻撃の一撃一撃がナイフを砕く勢いを持っていた。1手に対し1本を持って攻撃を捌いていく。まともに正面から捌くことはしない。全てを逸らし、受け流すために使った。朗が頭上に投げたナイフはストック。攻撃最中に取り出すことはできないだろうと推測して出されたナイフは1本1本の高さが変えられており、攻撃1手が終わるごとに次のナイフが手元に落ちてくるよう計算されていた。怒気が孕んだ天舞音の双技は朗が取り出したナイフ全てを折り砕き、朗に迫ってその攻撃を身に届かせる。朗の体からは至る所から血が流れ出しだしていたが・・・・・・
「いってぇなぁ。だが・・・乗り切ったぜ?」
肝心のボールにはその攻撃が届いてはいなかった。
「ナイフは砕かれ全身に傷がつこうともボールが全てだ、この試合は。もう型なんて使わせねぇぞ?」
地面に刺してあった刀を拾い猛攻を仕掛ける。大技を放った直後の硬直はどんな手練れであっても生じてしまう。そこに付け込まれた天舞音は防御にまわらざるをえなかった。猛攻を続ける朗の剣技に型はない。だが効率をひたすら求め続けたそれには恐ろしいほどに無駄がない。全てが最小限の動作で行われている。万全な体制の天舞音ならともかく、隙をさらけ出した今天舞音が攻勢に移るには厳しいほどだった。
朗の攻撃によってどんどん押し込まれる。しかしここで今までの朗らしくない力押しの攻撃が出された。天舞音は朗に弾き飛ばされたが、当然力を使った朗にも硬直はある。
「(不自然や、あからさますぎるで。今まで同様の罠なのか、それともさっきの傷で動きが鈍うなったか。判断が難しいところやね。後者なら攻撃に移れるええ機会ねんけど・・・・・・)」
「(チッ引っかかってくんねぇか流石に。わざとらしすぎたな)」
朗が力押ししたのは罠であった。冷静さを失っていれば攻めてきてくれるのを期待して行ったが天舞音にはまだ冷静な判断ができるだけの余地があった。
ここで朗が仕掛けた罠は追い詰められていた天舞音相手なら有利なものだったが、冷静な相手からするとむしろ悪手だった。なぜなら、天舞音に体制を整えさせるだけの時間を与えてしまうからである。
朗の疲弊が乗った攻撃はもう天舞音には通用しなかった。
「(なんや、朗君もうふらふらやないの)朗君言うてたなぁ、もう型は使わせへんて。惜しかったけど残念やな。使わさせてもらうで? 一ノ型 発 “稲光” 」
瞬く間に朗にまで迫る。朗は天舞音を目で追えていなかった。
「(取った!)」
天舞音はここで朗の左肩についていたボールを狙って突きを放った。肩ごと貫いて今後左腕を使えないよう封じるために。しかし朗は体をひねり、肩を貫かれることを回避する。
「(肩はいけんかったけど、1つは貰いや。これでイーブン。返す刀でもう1つ行ければ・・・・・・)」
認識できていなかったはずの朗が急に天舞音の刀に自身の刀を合わせる。そして自身の刀によって天舞音の刀を巻き取った。
朗が行なった一連の動作は単純なものだ。天舞音が持っていた運動エネルギーの運動の方向、ベクトルを変えただけ。真逆に変えるだけでいい。朗が目で追えてないと錯覚していた天舞音からすると完全な不意打ち。予測していなかった攻撃により簡単に自分の獲物を手放してしまう。
「(あかん、やってもうた。型を使うこと自体が罠やった。武器を顕現するしかない)“顕現 三日月・・・”」
「させるわけねーだろっ!」
「‼︎ チッ」
ナイフを数本投げて妨害する朗。さらに刀で追撃する。天舞音は回避するしかなかった。殺意がこもった一撃。明らかにとどめを狙っているとわかる中段の構え。
「(これさえ避ければ勝てる。これさえ避ければっ)」
必殺の構えから突きが放たれる。狙いは額のそれだと分かっている。回避しようと重心が後ろに傾いた時、ここでさらに予想外なことが起きる。朗が持っていた刀を手放した。
「(なんやて?これじゃどうやってとどめさすん?)」
全力で回避しようと刀を注視して目で追ってしまったため、体勢が後方へ傾き、直すことができない
「これまでの戦いで俺は確実に成長出来た。これはその礼だ。今後も剣術の方は指導してもらいたい。」
そう言いつつ朗が握った右手を前方にあげる
「[見つけた幸せをこの手の中に]」
朗の手の中に銃が出現し、それから放たれた銃弾が天舞音の額のボールのみを貫いた。
ちなみに今更だがこの授業に限らず、この棟で行われる全ての授業は別棟つまり朗たちが最初にいた棟から監視カメラで見ることができる。カメラは部屋だけではなく廊下にも取り付けられており、大画面でライブ画像を見ることが可能である。それは見学中の生徒に試合中の生徒を見させ、良いところは手本に、また悪いところは反省点として活かさせるため。教師にとってはスカウトに値する者はいるか、また危険な内容ではないか監視するためで、実際この時も五十嵐教員に限らず、生徒全員が試合を見ていた。
そこで試合を見ていた者は全員驚愕する。直前まで何も持っていないように見えた朗の手は偶然朗の体に隠れて見ることはできなかったが、手の先があると思われるところから発砲音と煙が上がり、天舞音の最後のボールが割れたことで銃を持っていたことが明らかになったからだ。
「(一体いつから彼は銃を持っていたのか・・・いや、実際に注目すべき点はそこじゃない。
山庭朗は装填済みの銃を持っていたのか。私が見たところ彼が持っていた銃は全部で8丁。マガジンは全て7発しか入らないモデルだった。それを彼は伊賀天舞音の技に対し、全て使い切っていたはずだ。両手に2丁ずつ持って使用していたから持ち替えたのは4回。使い切ったものは下に捨てていた。最後彼が持っていた銃は空砲になっていたから使い切ったのは間違いないはず・・・・・・)」
「(いや、違う!あれはわざと仕組まれた思考トラップだ。そもそも違和感が残っていた。前の6丁では空砲なんかしていないのに最後のものだけ空砲だったのか。あれほど切迫した中で残弾数を数えるのは当たりまえ。それが命綱になりうるからだ。空砲は残弾がないにもかかわらず引き金を引いた時になる。つまり残弾を数えていたら起こりうるはずがない。あれはわざと弾切れの状態で撃ったんだ。完全に弾が尽きたと思わせるために。空砲になって銃を両方捨てれば両方共弾が無くなったと考える。油断を誘える。隙をさらけ出させるための、誤誘導のための材料だったと考えるのが自然だ。加えて9丁目はないと考えられる。もしあったならその分の銃弾を使った方がより効率的に勝つことができるから。9丁目をただとどめを刺すためだけに使うなんてもったいないことをする手合じゃない。最後使った銃には1発しか入ってなかったと考えるべきだ。銃を捨て、刀やナイフで戦ったのは、確実にとどめを刺す機会を作るためだな。8丁目を何らかの方法で手元に移した。今は確認することができないが、地面に転がっている銃は7丁しかないはずだ。戦闘中に地面に落ちた銃を拾う余裕はなかった。もし、あの手を上げる瞬間に銃を取り出したならあいつはおそらく・・・・・・)」
ここまでの思考にたどり着いたのは今見ていた者の中では、伊賀天舞音、五十嵐、清海凪斗の3名のみだった。
[伊賀天舞音のボールが全て破壊されたことを確認した。これにより伊賀天舞音のチームが全滅したため、山庭朗のチームの勝利とし、この授業の優勝チームとする]
五十嵐教員のアナウンスが入る
「立てるか?伊賀」
「大丈夫や、おおきに」
朗が差し出した手を取り、立ち上がる。
「してやられてわ。あの殺気には見事に騙された。自分隠すの上手やなぁ。」
「こちらこそ、剣術には歯が立たなかった。これからも指導をつけてくれると助かるのだが」
「まぁ、基礎ならええよ。型自体は教えられんけど。」
「ああ、それだけでも全然違うと思う。」
みんなが待つ棟の方へ帰ろうと歩き出す朗。
「なぁ朗くん。君って・・・」
「なんだ?」
言葉に詰まる天舞音。
「・・・・・・・・・・・・いや、君ってバトルジャンキーかそうじゃないかどっちなん?正直よくわからん立場ねんけど」
「断じて戦闘が好きだというわけじゃない。」
「く、食い気味やんなぁ。」
「あぁ別に俺は戦いが好きなんじゃない。自分が成長するのが嬉しいだけだ。別に戦いに限った話じゃないさ。むしろ自分の強さは隠しておきたいよ。面倒臭いことになりかねないからな。嫉妬とか羨望とかで。噂話は勘弁だ」
「それは無理な話やろうなぁ。今頃持ちきりやで?」
「だからお前らと戦うのは嫌だったんだ・・・まぁ伊賀のおかげで強くなれたし諦めるか」
「ほんまやらしかったわぁ・・・・・・」
こうして朗の最初の授業は終わった。朗の話はこの後至る所に広がり、「凄い転校生が来たらしい」とひたすら生徒の話題に上がったとか。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「おい、咫九斗お前自分のカード見たか?」
「いや、見てねぇけど・・・・・・なんかあったか?」
「なんかあったどころじゃねぇよ!今すぐ見てみろ」
「は?だから何があったんだよ」
「見れば分かるって。いいからみろ!」
動揺している浩に言われ、疑問に思いつつ自身の身分証明書を見てみる。そこには自身の名前や言霊、身長や所属など通常記載されているものの他に判子で押されたかのように赤色で眷属と書かれていた。
眷属が書かれる人はほんの一握りしかいないため、一般常識として教わることはない。というのも眷属になるのは支配者級に自身の言霊を見られるしかないためだ。支配者級の人間がまず少数で、なおかつ自身の漢字に対応する支配者級に遭う確率が少なく、さらに自身の言霊も見せなくてはいけないため、眷属になるケースも少ない。
「これお前にもついていたのか?!」
「あぁ、さっきふと見てみたらついていた。」
「本当に眷属ってつくんだな」
「重要なのはそこじゃねぇよ!」
「は?」
「俺とお前だったら元になる漢字の部首が違ぇ。俺は金、お前は弓だろ?。」
「あぁ」
「基本的にうちの学校はクラス替えがねぇ。生徒数もそこまで多いわけじゃないからな。当然俺らのクラスも1年間一緒に過ごしてきた。」
「それがどうしたんだよ?さっきから話が見えねぇぞ」
「ここまで言ってなんで分かんねぇんだよ。1年間一緒にいたクラスメイトたちには散々俺の、俺たちの言霊を見せてきた。入試の時の試験官にもだ。それでも今まで眷族なんてついてこなかった。それが今日突然ついたんだぞ!考えられるのは一つだけ。今日俺らが言霊を初めて見せた人物も一人だけだ。」
「それって、まさか・・・そういうことなのか?」
「あぁ・・・山庭朗は・・・」
「過ぎた好奇心は時に身を滅ぼす事になるぞ」
朗が割り込んでくる
「山庭・・・・・・いつからそこに!」
「大事なことはそこじゃないだろう?俺は普通な学園生活を楽しみたいんだよ。わかってくれるよな?」
「な、なんで俺らがお前のいうことを聞かなくちゃいけない!」
「おい咫九斗、よせっ。やめろ!」
激情する咫九斗を諌める浩
「何故か。答えは簡単だ。今日の試合でお前らは負けて俺の眷族になった。俺の方が優位なんだ。部を弁えろよ。お前らは俺のいう事に逆らうことはできない。」
「いやだ、と言ったら?」
酷く暗い目で二人を見下す朗
「・・・・・・分からせるまでだ。彼我との実力差ぐらい本能で見極めるんだな。そうだ、一ついいことを教えてやる。これは一般に公表されていないことだが、生まれ持った言霊の効果は必ず2つ以上あるみたいだぞ?これは信憑性が高い情報だ。」
「なに?それが今なんの関係が・・・・・・」
「大塚結衣は自身の能力について『物を集める』しかないと言ってるみたいだな」
「な・・・.お前、結衣ちゃんを嘘つきだとでも言うのか!」
「そうだ、お前らが結衣ちゃん結衣ちゃん言ってるあいつ、大塚結衣はお前らに隠し事をしている」
振り返り元来た方へ向く
「今後とも友好的な関係が築ける事を祈ってるよ」
咫九斗と浩の二人は朗が見えなくなってもしばらく動くことができなかった
ご拝読いただきありがとうございます!
高評価、誤字脱字報告、その他感想などいただけると非常にモチベ維持につながるので良ければよろしくお願いします。