猛烈なハグ
俺たちは教室に向かう為、部屋から出ようとしていた。
「悠…早く出てきて…」
「うん!!あ、ちょっと待って…」
悠が袋の中から一輪の花を取り出し、それを俺の髪に差し込んだ。
「うわっ」
「おまじないだよ!」
「ぇぇ…」
何この子を天使なんですけど。…この子のファンが多い理由も分かる。
後輩にアニメハイトに連れて行かれた時もほとんどの人がこの子のキーホルダー等をつけていた。あの人たち曰く、彼には「幸せなオーラ」があるらしい。たった今理解した。普通花を俺にやるか??答えは否だろう。
「えぇ…と…悠の方が似合ってると思うからさ」
俺はそう言って花を抜き、悠の髪に差し込んだ。
「…」
…………ん????なんか悠固まってるんですけど?俺の方を見てまるで石像かのように固まっている。
「ぉ、おぉーい…悠…?」
「オ…オ」
「ん???」
悠が何か言いたそうにしている姿をじっと見つめていると俺までもが石像になりそうだ。
次の瞬間、悠の顔がドアップに拡大され、手を両手でぎゅっと包み込まれた。
「オレ、お花もらったので初めて!!!嬉しい!!!!!!」
「うわっ!!ちょっと!!??」
俺は抱きしめられてそのまま押し倒された。
「好き!!!!」
「ちょっと!!??」
もう頭の中は「?」だらけだ。もうわけがわからない。頭がパンクしそうだ。
悠は「もう満開どころじゃなぁい!!!」と叫びながら俺の胸に頭を擦り付けた。
「悠!??」
もう無理、頭がシュートしそう。救世主求む。そんな俺の願いが叶った。
「葛葉ちゃぁぁぁんー!!??アンタまた悠クンに尻尾振ってるの!!??アンタねぇ、いっつも悠クンに迷惑掛けて!!!少しは自制しなさい!!」
「やだ!!!オレ悠のこと大好きだもん!オレにお花初めてくれたもん!!!!!!!」
「それでもダメなものはダメよ!!!良い!!??」
「やだもん!!!」
「良い加減にしなさい!!」
俺の頭の上に、とてもオネエ口調で髪の毛が長く、青い人が立っていた。
…母と息子の関係ですか?
そんなことを考えていると、俺の体がぐいっと引っ張られた。
「うわっ!」
「ごめんなさいね、悠クン」
「い、いえ…」
「これから1週間、葛葉は悠クンと接触禁止です!!寮長命令よ!!」
「そんなぁぁ!!!」
「返事はYesかはいよ!!」
「はぁい…」
うぅ…目の前に子犬が…。
こうして早速俺たちは1週間、部屋が別々になったのだった。
「今日から1週間は私と同じ部屋になるわ。よろしくお願いね」
「よろしくお願いします…」
「ごめんなさいね。あの子すっごく人懐っこくて…。でも貴方が一番懐かれてるわ」
「そうなんですか?」
知らなかった。あんな感じのことはもう当たり前なのだと思ってた。
「もしかして自覚なかったの?もう6月よ?鈍感ね」
「すみません…」
「いや、謝ることじゃないのよ?んで、あんなにも熱烈なハグをされるってことは何かとんでもないことをやったんでしょうね」
「えっと…ただ単に花を髪にさされたのでその花を悠の髪にさしただけなんですけど…」
「それは…とんでもないことよ」
「へ!?」
髪をさすことってそんなに重要なことなの!!?こっちじゃ!!??
「髪に花をさすことはまだ良いわ。一番とんでもないことはあの子に花を「あげた」ことよ」
「へ?」
「あの子にとって花をとんでもない程に大切なの。それを貰ったら感情が爆発するわよ」
「でも花をもらうことくらい一回はあるんじゃ…」
「あの子もらったことないわよ。ずっと一緒にいたからわかるわよ。だから貴方が第一号よ」
「ひぇ…」
何か重大な感じが…!!!
「って!貴方今から授業だったわね、取り敢えず教室に行ってらっしゃい」
「あ、はい!」
俺はそうして教室へ向かった。