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地下の番人

「この中だ」

 ダリルはアーシェたちに向かって言った。

「この中って……あれ、なんか通路みたいになってない?」

 アーシェは、穴の向こうの空間をランプで照らして眺めて言った。そこには石などで床や壁、天井が造られている、簡素ではあるものの、ところどころに装飾が彫られており、神殿などの地下通路のような印象を受けた。

「そうなんだ。この先は坑道じゃなくて、昔の宮殿の地下みたいなんだ」

「宮殿の地下?」

「このトーランは鉱山の街でも有名だったが、それより前の古代には、この辺を支配していた王の宮殿があったんだ。多分、この地下通路もその宮殿なんかの一部だと思う」

 ダリルは言った。

「古代この辺はサミューカ人の支配地域だった。サミューカ王国の六代目サレス王の時代に、山を丸ごと改造して別荘を作ったという伝説がある。ここはその名残なのかもしれない」

 ノエルが語り始める。アーシェは苦い顔をするものの、ダリルは興味深そうに話を聞いていた。

「ノエルは魔法だけじゃなく、知識もすげえな。やっぱりアンタらただモンじゃねえ」

「ノエルはただのマニアだから、そんなに褒めちぎる必要ないよ。一日中本、本、本。本が恋人なんだから」

 アーシェはうんざりするような顔で、ダリルに訴えた。本当にこういう話をし始めたら、いつまで経っても終わらないのはよく知っている。こんなところでノエルのウンチクなんか聞きたくないのだ。

「マニアで悪かったな。どのみち、言わばここからが僕たちの仕事なんだ。さあ、行こう」

 ノエルは穴を通って地下通路に入ると一人で歩いていく。

「おいおい、ちょっと待ってくれ」

「先に行かないでよ、ノエル!」



 この地下通路は、かなり古いものの、かなりしっかりした作りで、古さのわりに歩きやすいし、安心して歩けた。

 しばらく歩いていると、十字路に出会した。

「これはどの道を行くんだ?」

「真っ直ぐだ。その先には広いホールがある。そこが問題の場所なんだ」

 ダリルの言う通り、突然大きなホールに出てきた。暗くてわかりにくいものの、円形の空間で天井もかなり高そうだ。中央には一段高くなっている場所があり、そこには小さな台がある。何かの祭壇のようである。

「気をつけてくれ。ここにはヤツがいるんだ……」

「ヤツって?」

「ちょうどあの辺が光ってて、何かが動き出すかのような気配があったと思ったら……」

 そこまで言った後、実際にダリルの指差した方に小さな光が見えた。そして、その光の周りがガタガタを動き出す。

「や、やっぱり――襲われるのか」

 ダリルの顔が青ざめる。その只事ではない様子に、ノエルが尋ねた。

「ダリル、あれはなんだ!」

「てっ、鉄人間だ! すべての武器を跳ね返す、鉄でできた人間なんだ!」

「鉄人間って、なんなのよ!」

 アーシェが叫んだ次の瞬間、この大きなホールが突然明るくなった。空間の形状がよくわかる。

「えっ、これどうなってんの?」

 アーシェがキョロキョロと周囲を見回していると、向こうに見える光とその周辺の影が大きく盛り上がる。

「ちょっと、何あれ!」

 アーシェは叫ぶ。ノエルはその大きな影を険しい目で睨んでいる。

 影は次第に人の姿に似てきた。そして、その体の表面は、鈍い輝きに包まれている。

「あれはまさか……ゴーレムか!」

 ノエルは叫んだ。

「ゴーレムって……なんでゴーレムがこんなところにいるのよ!」

 アーシェは驚きを隠せない。

「な、なあ。そのゴーレムっていうのは、どういうものなんだ?」

 ダリルが言った。

「ゴーレムは、かつて人の体を模した人形を機械と魔法で動かせるようにした怪物だ。生物ではないから、痛みも恐怖もない。恐るべき殺戮機械だ」

 ノエルは説明しつつ、額に汗が滲む。


 ゴーレムは、身長は三メートル近くあり、古のオーガを思わせる屈強な体躯である。全身は鋼鉄の装甲に包まれており、まるで重戦車のごとくだ。

 かつて大量に作られて戦争に投入されたものの、製造が非常に困難であることもあり、いつの間にか姿を消してしまった。また、現愛では製造法が伝わっておらず、現存するゴーレムも見られなくなっていた。


 ホールに凄まじい絶叫が響く。これはゴーレムが戦闘体制を整えた証拠だ。

「アーシェ、来るぞ!」

「了解! いくわよ――」

 アーシェは剣を抜き、身構えた。同時にノエルが呪文を唱え始める。

「――閃光よ、刃となりて鋼鉄を切り裂け、フォマ、ドゥ、ハーエント……レイゼス!」

 ノエルの手が光り輝き、それをアーシェのに向かって伸ばした。するとその光が、アーシェが構えている剣にまとわりつき、剣の刃が光に包まれた。

「さあて、いっちょ行きますか!」

 アーシェは、一瞬踏み込むと、人間離れした跳躍でゴーレムの目の前に飛び出してきた。片足をフロアにつけた瞬間、すぐにまた飛び上がり、光を帯びた剣をゴーレムに向ける。

「テャッ!」

 掛け声と共に飛びかかるアーシェ。ゴーレムはあまり機敏ではないせいか、素早いアーシェの斬撃についていけず、簡単に攻撃を受けた。

 この時、アーシェには、あまり強くないかも、と思った。しかし、それが甘い考えだったのを、すぐに思い知らされた。

「えっ、ウソォ……!」

 なんとゴーレムは、先ほどの攻撃に傷一つつけられていなかった。かなり手応えのある一撃で、ノエルのエンハンス魔法で「閃刃」が添加されていた上での攻撃だった。

 この「閃刃」は、光の力で硬いものを切り裂く力を持たせる魔法で、あの固そうな鋼のボディに、ダメージを与えるのが容易になったはず。

 しかし傷一つつけられなかった。どれだけ硬いんだ、と驚愕するアーシェとノエル。

 しかし、ゴーレムはここでの番人としても役割を果たすべく、ただ目の前の侵入者を排除するべく襲い掛かる。

「キャ!」

 アーシェはすかさず後ろへ向かって飛び上がった。そのアーシェの立っていたところに、ゴーレムのゴツい拳がめり込んだ。フロアの石畳は、当然その打撃に耐えられるはずもなく、爆撃でも食らったかのごとく、小さなクレーターを作る。

 飛び退いたはずのアーシェだが、反応が遅れて衝撃を少し受けてしまった。うまく着地出来ず、体をフロアへ叩きつけられる。

「アーシェ!」

 ダリルが叫ぶ。

「アイタタ……」

 アーシェは肩を打ち付けたらしく、痛そうな顔をして、肩を撫でる。肩当てがあるので、大した負傷ではないようだが。

「ノエル! なんなの、あのバケモノ!」

「あれで無傷なのは、何かある。――もしかしたら、魔法障壁がゴーレムの装甲に施されているのかもしれない」

「えぇ! それじゃどうやって、あのデカブツを黙らせるのよ。手も足も出ないじゃない!」

 アーシェが文句を言ったところで、またゴーレムが突進してくる。アーシェは、素早く飛び退き回避したが、もう一度切りかかっても、やはり跳ね返されてしまうのがオチだろう。

「お、おい……ノエルのダンナ……だ、大丈夫なのかぁ?」

 ダリルは不安そうに言った。それに渋い顔をするノエル。

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