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情報屋ダリル

 先ほど、揉め事には関わらないと言った矢先、もうそんなことはそっちのけで首を突っ込もうとするアーシェ。多分というか、絶対に後方では、ノエルが鬼の形相になっていると思うが、アーシェにはそこまで考えてはいなかった。

 やってくると、間の前には人の山ができている。この向こうで何かやっているのだろう。小柄で身軽なアーシェは、狭い場所に入り込むのも得意だ。早速、人の山の中に入り込んでいく。

「テメェ! どうしてくれんだっつってんだろ!」

 進んで行く度に怒号が聞こえる。何かのトラブルのようで、この怒号は筋骨隆々な傭兵上がりの冒険者か何かが叫んでいるようだ。

 スルスルと器用に間をすり抜けて、一番前に躍り出た。何ごとかと見てみると、案の定の様相であった。

 筋骨隆々な傭兵上がりの冒険者らしき男三人と、その男たちに恫喝されている、平凡極まりない印象の中年の男。おそらく、この平凡な男が何かをやらかして、それがあの筋骨隆々三人衆の怒りを買ってしまった、といったところだろうか。いや、単にあの三人衆が突発的に近くを歩いていた住民に因縁をつけたのかもしれない。

「――す、すいません!」

 中年の男は恐怖に震えながりながら、三人の男に謝罪している。

「こいつが壊れたのは、オメエのせいだろ! ナメてんのか、オッサンッ!」

 三人の中で一番強面の男が、背負っていた手斧を手に取って、その刃先を震える男の首に近づける。もうこの中年の男は、涙どころか鼻水まで垂らしながら、地面へへたりこんでいる。さすがにやりすぎだと周囲は騒然と鳴るものの、目をつけられるのが怖いのか、誰も止めに入ろうとはしない。

 アーシェは、その様子に少し憤慨した。あの中年男が何かやってしまったのだろうが、それでもこれはやりすぎだ。自分が止めに入ろうとしたが、ノエルが「余計なことには首を突っ込むな」と言われていたのが頭の隅をよぎった。

 しかしこれを見逃しては、聖騎士の名が廃る。アーシェはすぐに飛び出した。


「ちょっと、アンタたち! それはやり過ぎなんじゃないの」

 アーシェは叫んだ。

「なんだぁ? おい、小娘。邪魔だからどっか行ってろ」

「チョロチョロ出てくんじゃねえぞ、クソガキ!」

 傍若無人の輩たちは、口々にアーシェを恫喝する。しかしアーシェはまったく物怖じしない。

「ここは山を街にしてるけど、山賊が暴れていいところじゃないでしょ! 本当の山に帰りなさい!」

「こ、このクソガキ……このオレ様をさ、さ、山賊だとぉ!」

 男は顔を真っ赤にして、今にも爆発しそうな顔をしている。山賊呼ばわりされたのが、余程気に入らなかったようだ。

「ぶっ殺されてえようだな!」

「山賊にやられるほど弱くはないわよ、私は」

 アーシェは自信満々で、腰の剣に手をかけた。

「調子に乗ってんじゃねえっ!」

 山賊呼ばわりされた男は、手斧を振り上げてアーシェ目がけて振り下ろした。

 周囲から悲鳴が上がる。どう見ても力の差は歴然で、小柄なアーシェではすぐにやられそうなのは、誰の目にも明らかだ。

 しかし、その予想は見事に外れた。振り下ろされた斧は、地面に深く突き刺さった。だがそこにアーシェの姿はない。あの少女はどこに行ったのか、とその場にいた者たちがキョロキョロと周囲を探した。

「ここよ!」

 その声に、一斉に目が向いた。そこにはアーシェが立っていた。近くにあった、いくつか積み上げていた木箱の上で、ならず者たちを見下ろしている。

「なっ――いつの間に!」

「とぅっ!」

 アーシェは高く飛び上がると、すかさず剣を抜き、驚き呆然とする男の背後に着地して、素早く剣を振るった。そしてそのまま剣を鞘に戻す。

 少し間を置いて、ざわめきが起こった。自分の背後にアーシェがいることに気がついて、慌てて振り向くが、同時に身につけていた革の鎧がバラバラになって足元に落ちたかと思うと、次に着ていた衣類が切り刻まれて落ちた。

「な、なななっ! ちょっ、ど、どうなってん――」

 慌てて股間を隠そうとする男。もう、生意気な小娘を叩きのめしてやろうとか、それどころではない。

「まだやる気?」

 アーシェは、このならず者三人衆を睨みつけて言った。

「ち、ちくしょう! 覚えてやがれ!」

 慌てて走り去る三人衆。これにて一件落着……とはいかなかった。誰かが街の衛兵を呼んだらしく、武装した兵士数人がこちらに向かって駆けてくる。どうも大事になってしまったかもれない。

 アーシェは、これはちょっと不味いかもしれないと思って狼狽した。オロオロしていると、誰かがアーシェの腕を引っ張った。

「こっちだ」

 アーシェは引っ張られるままに、群衆の間をすり抜けて、騒ぎの中心から離れていく。引っ張っていた手の人物は見覚えがないが、まだ二十代かそこらの青年のようだ。その青年は建物と建物の間の狭い路地に入っていき、さらに奥へと進んでいく。

「ねえ、あんた誰?」

 アーシェは自分を引っ張って、どんどん奥へ入っていく青年の寝中に向かって言った。

「後で自己紹介するから、とりあえずここから離れるぞ。出ないと、衛兵どもに捕まって牢屋にぶち込まれちまう」

 青年は早足で歩きながら言った。

「私って、そんなにまずいことした?」

「ああ、さっき衛兵どもが来てただろ。あのままあの場にいたら、有無を言わせず逮捕だ。あとはそのまま、駐在所まで連れて行かれて牢屋行きになる。どっちが悪いかなんて関係ねえ。そういう連中なんだ」

「ふぅん」

 そんなことを話しながら進んで行くうち、路地を抜けて開けた場所に出てきた。人気のない静かな場所で、建物もあるが、そこに居住している雰囲気は感じられない。どこか廃墟みたいな場所だった。

「まあ、ここまで来りゃ問題ないだろ」

「逃がしてくれて、ありがと。それでキミは何者?」

 アーシェが言った。

「ああ、俺はダリルっていう。この街――トーランの住民だ」

「へえ、そうだったの? なんかあんまり街の人っぽくないから、旅人か何かと思ったんだけど」

「まあな。街で店を構えて、のんびり商売してるってわけじゃねえからさ。俺は情報屋をやっているんだ」

「へえ、情報屋?」

「この街は人の出入りが激しいだろ? ここは鉱山の街だし、財宝伝説も多数残っているしな。だから宝探しの冒険者が多いんだ。そいつら相手に、いろんな情報を売ってやるってわけだ」

 アーシェは、なるほど、と思った。こういう街だから、情報というのは商売になるわけだ。そもそも、アーシェたちも「宝探し」にやってきたようなもので、その情報を集めるべく街をウロウロしている。まあとりあえずは、旅の拠点である宿を探しているわけだが。

「アンタは何を探しにきたんだ? ここには宝の噂は本当に多いからな。何か有力な情報を売ることができるかもしれねえぜ。どうだ?」

 ダリルは、アーシェを外からやってきた旅人だと見抜いて、早速商売を始めようとする。

「何かっていうか……」

 宿のことを喋ろうとしたとき、ふと何者かの気配がした。アーシェはそれを感じ取り、腰の剣に手をかけた。それを見たダリルがギョッとする。

「おいおい、アンタどうしたってんだ?」

 ダリルの驚いた顔には目もくれず、その気配の方を睨むアーシェ。そんな中、建物の陰から予想通り一人が姿を見せた。

「アーシェ! こんなところにいたのか。何をやってたんだ」

「あっ、ノエル!」

 出てきたのはノエルだった。少し不機嫌そうな顔をしており、その理由は大方想像出来る。

「また碌でもないことに首を突っ込んだな。君はどうしてそう――」

 長くなりそうな説教が始まる。しかし、そこに横槍を入れる有難い存在があった。

「なあ、アンタらは仲間なのか? 俺はダリル。街で情報屋をやっている。アンタはノエルと言ったな――俺は結構役に立つ情報を持っているぜ。何を探しているか言ってみな」

 ダリルはノエルがアーシェの仲間だとすぐに見抜いて、ノエルに対しても商売を始めた。

「情報屋? アーシェ、これは一体……」

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