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ロドネス市長

 トーランの貴族階級が住む区域の中心部に、もっとも大きな屋敷がある。そのさらに隣には城のような、かなりゴツい建物があった。ここは市庁舎で、トーランを支配する市長ロドネスがいる。

 この市庁舎は、実はロドネスが赴任してきてから、大規模な改修工事が行われ、それによって、今のような豪壮で強固な建物に生まれ変わった。

 その一室で、ロドネスは昼間から酒を飲んでいた。大柄ででっぷりと肥えた肥満体を豪華絢爛な椅子に預けたまま、贅沢を味わっていた。

 そこへ、部下の官僚がやってきた。少し緊張した面持ちで報告を始めた。

「ロドネス市長、お話が――」

「なんだ?」

「例の魔法爆弾、失敗したようです」

「何、失敗だと? 馬鹿な……どうして失敗した? あれを見破るなど到底無理だろう!」

 ロドネスは大きく目を見開いで叫んだ。手に持ったグラスをテーブルに叩きつけ、信じられないという顔をしている。

「ええ。しかし報告によると、かなり優れた魔法使いがいたようで、事前に察知され対応されたようです」

「魔法使いだと? まさか、ゴーレムの件と同じ奴か?」

「おそらく。見慣れぬ剣士もいたと報告があります。その剣士も相当の達人とみられます」

「ぐぬぬ……一体何者だ!」

 苦々しく顔を歪めるロドネス。

「旅の傭兵か冒険者ではないかと予想しておりますが、ゴーレムのことを考えると、どこかの騎士団に所属する者かもしれません」

「……まさか、アスタリアかエイレンの騎士じゃあるまいな?」

「可能性はあります……それに、ハーラムの近衛騎士団が、何か動きを見せているとの噂もあります。強欲なアスタリア公なども、何か裏で動いていても不思議ではありません」

「確かに……。あのクソジジイめ、このトーランの財宝は渡さん!」

 ロドネスは立ち上がり、脇にあった小さなテーブルを蹴飛ばして叫んだ。

「もう少し泳がせて様子を見ますか? それとも何か罪をこじ付けて逮捕しますか?」

「もう少し泳がせろ。なんでもいいから情報を集めるのだ。それから、伯爵にも伝えておけ。アスタリア公に目をつけられた可能性があるとな」

「ははっ」



 そして、アーシェたちの方はどうしたのか。

 騒動の後、レジスタンスは今後どうするのか、対策会議が開催された。やはり「ブラドに報復するべきだ」という意見が多数出た。ダリルも同じ意見のようで、このまま放っておけば、もっと露骨で強硬な攻撃を仕掛けてくるかもしれない、と主張している。

 アーシェはノエルと顔を見合わせ、どうも不味いことに巻き込まれつつある、と考えていた。悪い奴らを懲らしめて、ダリルたちを助けてやりたい考えはあるものの、自分たちはオーブを探しにきている。このオーブを人間に先に見つけられて、悪用されないためにも、一刻も早く見つけなくてはならない。しかし、それどころではないという空気が、アーシェとノエルをここに縛り付けていた。

 意見がまとまることなく会議が終わった後、思い切ってオーレンにオーブのことを話してみた。真剣な顔をして話を聞くオーレン。しかし、有益な情報が出てくることはなかった。

「すいません。我々では、その探しているオーブについては分かりません。ただ、あなた方は命の恩人です。有益な情報が得られるかは分かりませんが、何かあればご連絡します」

 オーレンは申し訳なさそうに言った。しかしノエルは、特に落胆したような素振りは見せずに言った。

「ありがとう。それから、何か僕たちにできることがあったら連絡してほしい。それでは」

「じゃあねぇ、バイバイ」

 アーシェとノエルは、アジトを立ち去った。



 アーシェとノエルは街を歩きながら、魔法爆弾の件を話していた。あのあと、スラムでもすぐに噂が広がって、大騒ぎになっていた。

「あのさ、ノエル。あの人たち、本当にあれで収まったのかな?」

「……ううむ、はっきり言って収まってはいないだろうな。何かことを起こそうとする者は出てきそうだ」

「だよねぇ。……そこを歩くはブラド翁とお見受けした。おのれ、何奴! お命頂戴つかまつる――覚悟っ! ザシュ! ……む、無念……ガクッ――なんちゃって」

 アーシェは拾った棒切れを振り回しながら、嬉しそうに言った。

「なんだそれは? まあいい、実際ブラドの暗殺などやりそうなことだ。せめてダリルだけでも説得して、止めさせた方がいい」

「ダリル、なんか責任感じてたような気もするし、一番やりそうだよねえ」

 仲間たちは特に責めようとは思っていないようだが、誰も傷付かずに済んだものの、知らずに爆弾を持って帰り、危うく仲間を酷い目に遭わせてしまうところだったことに、ダリルは責任を感じているような態度だった。

「アルマやおじいさんを悲しませてはならないし、夕方にでも家に行ってみよう」

「そうよね、ついでにアルマのご飯、今日も食べたいな」

「君はそればっかりだな……」

 ノエルは呆れた顔をしてつぶやいた。



 宿に戻ってくると、ロゼッタがそれに気がついて駆け寄ってきた。

「ねえ、アンタたち。大丈夫だったのかい?」

 ロゼッタは心配そうな顔をしている。もう爆破未遂事件の噂が伝わっているようだ。ということは、もう街全体に広まっているのかもしれない。

「大丈夫よ。そもそも爆発しなかったんだから」

「ならいいんだけどね。それにしても、騒ぎが大きくなりそうで……どうなるのかしらねえ」

「そういえば、ブラドという貴族が経営している宿屋はどこにあるんですか?」

 ノエルが言った。

「ブラド? ああ、あの嫌味な……」

 ブラドの名前を聞くなり、ロゼッタの表情が険しくなった。

「なんか嫌ってそうね、ロゼッタ」

「あったりまえよ。トーランの宿屋組合があるから、私も知ってるんだけどさ、本当に偉そうにふんぞり返って、あの横柄な態度見たらぶん殴ってやりたくなるくらいだよ。それにあのネチネチしたヤラシイ視線、もう最悪!」

 ロゼッタは相当嫌っているらしい。アーシェもいい印象はまったくなかったが、やはり思った通りだったか、と思った。その後もしばらく、ブラドに対する嫌悪感を喋り続けるロゼッタ。いい加減、うんざりしてきたところで、ブラドの宿がある場所を教えてくれた。

「それにしても……アンタたち、何をしに行くわけ?」

「いえ、特に何をというわけじゃないんですが、街で一番大きいと聞くので、ちょっと様子を見に行ってみようかと」

「ふぅん、まあ気をつけなよ。最近、用心棒をたくさん雇ったとか噂もあるし」

「わかりました」

 ノエルが答えた。

「それじゃ行ってみますかねぇ、ノエル」

「そうだな」

 アーシェとノエルは、ロゼッタの宿を出て、ブラドの宿屋へ向かった。

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