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夕食

 トレドの屋敷を出て、憲兵の目を避けるために大きく迂回しながら、ゴーレムのいた通路まで戻ってきた。おそらく憲兵はあちこちで探し回っているだろうから、早めにここを去った方がいいと考えた。

 通路を三人で歩きながら、先ほどのトレドから聞いた話を思い出す。

「やっぱり厳しいか……どうしたものかな」

 ノエルは苦い顔をしてつぶやいた。

「太陽の神殿、もう何か調べてるっていってたよね。やっぱ無理っかなぁ」

 アーシェが言うと、ダリルがそれに答えた。

「まあ無理だろうな。ロドネスの野郎が直々に探してんなら、軍隊が見張りやっててもおかしくねえ。近づくだけで逮捕だ。まあ、俺たちみたいなのがウロウロしてたら、それだけで衛兵どもがすっ飛んでくるだろうけどな」

 市長は、市が編成する軍隊の指揮権も持っている。ダリルの言うことはもっともだった。

「ねえ。あたし、お腹空いたよ。そろそろ晩ご飯の時間じゃない?」

 アーシェが腹を押さえてつぶやく。

「まあ、とりあえず戻ろうぜ。なあ、今日はうちで晩飯食っていけよ。お前たちを連れて行くって、妹に言ってるんだ。美味い飯を用意して待っているぜ」

「わぁ! それいいね。ねえノエル。ダリルの家に行こうよ」

「そうだな、せっかくだからご馳走になろう」

「話は決まった。ロゼッタには実はもう言ってあるんだ。今日の晩飯はウチに招待するってな。行こうぜ!」

「レッツゴゥ!」

 アーシェは満面の笑みで腕を振り上げると、ノエルとダリルの腕を引っ張って、帰りを急かした。



 坑道を出て、一般市民の区域に出てきた頃には、空は茜色に染まっていた。

「いやぁ、終わった終わった。後はダリルん家で晩ご飯食べるだけ!」

 アーシェは背伸びして、嬉しそうに言った。しかしそれにノエルが待ったをかける。

「まだオーブ探しは始まったばかりなんだぞ。まだまだこれからだっていうことを忘れるな」

「へいへい、わかってますって。でも明日も頑張るには、美味しいご飯が必要でしょ。ね、ダリル!」

「そうだぜ。ノエルのダンナ、硬いこと言うなって」

「ま、まあ、それは……」

 ダリルは通りの方へ歩き出すと、こっちだと言わんばかりに手を振った。

「さあ、こっちだ。俺の家はロゼッタの宿からも結構近いんだ」



 ロゼッタの宿屋からさらに奥の方へ入った居住区の中にダリルの自宅はあった。レンガで出来た大きな建物だが、これは集合住宅で、この中の一室を借りて住んでいた。十世帯くらいが入居しているようで、それを考えると割と個々の部屋は狭いかもしれない。

「アルマ、帰ったぜ」

 ダリルはドアを開けて入るなり、中に向かって言った。

「兄さん、おかえりなさい」

 奥の部屋から十代後半くらいの少女が出てきた。

「アルマ、この二人が仕事の協力者だ。おかげで仕事も無事済んだし、晩飯の準備はどうだ?」

「ええ、料理はできているから、すぐに準備するわ。――どうも初めまして。妹のアルマと言います」

 アルマは少し照れくさそうに自己紹介した。アーシェが一歩前に飛び出すと、笑顔で自分も名乗る。

「アタシ、アーシェっていうの。美少女剣士よ」

「アーシェ、君ってやつは……僕はノエルと言います。魔法使いです」

 ノエルはアーシェの自己紹介に何か言いたげだが、自分の紹介だけにとどめた。

「兄さんがお世話になりました。たくさん作ったので、食べてくださいね」

 アルマはニコリと微笑むと、夕食の準備のために、奥の部屋へ言った。アルマは穏やかで優しい性格の少女で、料理も得意と火の打ちどころのない美少女だった。


「うっはぁ! これは美味しそう!」

 アーシェはテーブルに並んだ、たくさんのご馳走を目に、思わず叫んだ。

 料理は素朴な庶民の料理ばかりだが、とても美味しく、空腹だったアーシェとノエルは、それらを次々と口へ運んだ。

「あっ、コラ! アーシェ、それはまだ一口も食べていないんだぞ!」

「あら。いつまでも食べないから、いらないのかと思ったわ。あぁ、おいしっ!」

「あ――ア、アーシェ! それは美味しいから最後に食べるために取っておいたんだぞ! それを——」

 ノエルの性格が垣間見える言葉だ。

「あぁ、もうだめ。もう飲み込んじゃった。最高に美味しいわ!」

「ア、アーシェ! 返せ! 僕のだ!」

 ノエルは怒りと悲しみが入り混じった顔で、アーシェの口を開けようとする。フガフガ言いながらそれに抵抗する。

「……お前ら、仲いいなぁ。もしかして兄弟か何かなのか?」

「いや、違うが」

 ノエルが言った。

「まさかお前ら、付き合っているってんじゃ――」

 ダリルは驚愕の表情で言いかけると、それをノエルがすぐに否定した。

「そんな訳あるか! ただの仕事仲間なんだ」

「そういや、仕事ってあれだよな。あのオーブを探しているって言うのが仕事だろ。あんたら本当に何者なんだ? トレドさんが言ってたけど、どこかの騎士団員とか」

「まあ、否定はしない。しかし詳しくは話せないんだ。これは勘弁してほし……あっ!」

 ノエルは話をしている間、食べるのが止まっていたが、相方はやけに静かだと思っていたら、その間、食べるのに集中していたようだ。

「ごちそうさまぁ。いやぁ、アルマ。すごく美味しかったわ。ホント最高――」

 アーシェは満足そうな顔で、アルマの料理を褒めたが、そのアルマは困惑の苦笑いをしている。ふと殺気を感じて振り返ったら、そこには鬼の形相で睨みつけるノエルがいた。

「ハロゥ、ノエル。美味しかったわねえ」

「確かに美味しかったろう……君は!」

 ノエルはふたたびアーシェの口を掴んで開こうとした。それから逃れるように暴れるアーシェ。

「フガフガ――ひゃ、ひゃやい者勝ちでひょ!」

「君みたいに意地汚いヤツはみたことがない!」

 取っ組み合いの喧嘩が始まった。食べ物については、意外と子供っぽいノエルだった。

「やれやれ、本当に仲がいいな。アンタら」

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