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貴族たちの街

 とりあえず、ダリルの仕事を完了させるため、ある貴族の邸宅へ向かうことになった。

 あまり大手を振って街中を歩くわけにはいかないので、裏道を通って目的地へ向かう。目的地は、ある貴族の邸宅だ。例の小瓶に入った薬を持っていく。

「貴族と言っても、街で一番大きい宿のオーナーだ。元々は貧しい家だったらしいが、一代で財を築いて貴族としての地位を手に入れた男だ。あんまり好かねえが、ロドネスに批判的でな、まあその辺もあって、今回みたいな奴のお使いなんかやったりしてんのさ」

 ダリルは歩きながら話している。街中は閑静で、さすがは金持ちの街という印象だ。

「ねえ、どうしてロドネスに批判的なら、ダリルがお使いやってるわけ?」

 アーシェが言った。

「ああ、そういや言ってなかったか。俺は反ロドネス組織に所属してんだ。いわゆるレジスタンスってやつだ」

「レジスタンスか。しかし、順調に進められているのか?」

 今度はノエルが言った。

「……いや、正直厳しい。この街は税金をちゃんと納めていれば、ロドネスのクソ野郎が市長だろうと、住みやすいだろう。しかし、税金が払えねえ貧しい人間は、汚ねえ谷間に押し込められて、街を出ることもできねえ」

 ダリルは怒りに顔を歪ませた。

「本当に奴隷みたいな扱いなんだ。それが許せるか? 前はそんなじゃなかった。商売に失敗して、それで落ちぶれるのは自業自得だけどよ、貧しくても、結構自由にいろいろできていたんだ!」

 ダリルは大声で吠えた。かなりヒートアップしてきたようで、アーシェとノエルも思わず仰け反った。

「ま、まあ落ち着こうよ、ダリル」

 アーシェが言った。

「お、おう……すまねえ。まあ、それだけあの野郎が許せねえんだ。……あ、確かこの辺だ」

 ダリルは目的地が近いことに気がついて、アーシェたちを連れてその家まで急いだ。



 その貴族の家は、随分と大きな家だった。敷地もかなり広そうで、周囲を囲む塀も高く頑丈そうである。塀の向こうに見える建物も大きい。また、周辺の屋敷も同じように大きく、金持ちの住む住宅街なのは間違いない。雑然とした一般市民の住むエリアとは全然違う。

「こっちだ」

 ダリルは、屋敷の正門ではなく、裏に回って勝手口のような門の前までやってきた。そして、門の片隅にある小さな鐘を鳴らした。すると、門扉の少し上が開いて、そこから厳つい男がアーシェたちを覗き見ている。

「なんだお前らは」

 非常に低く、怖い声でその男は喋った。すかさずダリルが言う。

「ブラドさんから頼まれてたんだ。この薬をな」

「む、お前たちがか……わかった、こっちだ」

 男はゆっくりと門を開けると、アーシェたち三人を屋敷内に迎え入れた。


 屋敷の中に入った三人は、そこから少し奥に行ったところにある部屋に入れられた。金持ちの家というには質素で、おそらく使用人たちの部屋とか、屋敷の主人が通常来ないような部屋なのだろう。そこで、ちょっと待っていろ、と言われ置き去りにされた。ダリルは近くにあった椅子に腰をかけて、大きく息を吸って吐いた。少し緊張しているのかもしれない。

 アーシェは物珍しそうにキョロキョロしながら、部屋の中を見て回っている。ノエルは椅子に座りもせず、その場に立ったまま目を瞑っていた。


 あれから一時間くらい経っただろうか、突然部屋のドアが開いて、数人が入ってきた。高価そうな衣装をまとった、おそらくこの屋敷の主人と思われる中年の男と、その使用人……いや、ボディガードかと思われるムキムキのいかにも屈強そうな男たち。

 ダリルは、その貴族と思われる中年の男に声をかけた。

「どうも、ブラドさん」

 目の前に現れた男がダリルの目的の貴族で、ブラドという。小柄で温和な印象の人物で、苦労人であるようなことを聞いていただけに意外だ。しかし着ている服は高そうで、装飾品もきらびやかである。やはり成金といった風はあった。

「それで、例の薬は?」

 ブラドは挨拶もせず、不機嫌そうな顔をして言った。あまりダリルのことをよく思っていないのかもしれない。しかし、ダリルはそんなことは気にしていないようで、早速バッグの中から薬の入った瓶を出した。

「これです」

「おお! これだ。間違いない。よくやった」

 ブラドは満面の笑みを浮かべて、薬の瓶を受け取った。

「――報酬はブラドさんから貰う話になっていますが」

「うむ。……おい、持ってこい」

 ブラドが命令すると、屈強な男の一人が懐から片手に収まるくらいの袋を取り出して、少々乱暴にダリルに渡した。

 ダリルは袋の中を出した。中には金貨が十枚、いや二十枚くらいが入っていた。これはかなりの金額で、この街で働けば半年分はあろうかと思えるくらいの金額だった。

「へへへ、間違いねえ。これで用は終わりましたんで、帰らせていただきますぜ……へへへ」

 ダリルもニヤニヤと笑みを隠せず、報酬に満足そうだった。すぐに部屋を出て行こうとするが、ブラドはそれを呼び止めた。

「待ちたまえ。これから街へ戻るんだろう。実は持って帰って欲しいものがある」

「なんですか?」

「これだ」

 ブラドが合図すると、男が何か小さな箱を持ってきた。片手で収まるくらいの、あまり大きなものではない。

「これをオーレン・ノリスくんのところへ届けて欲しいのだよ」

「オーレンへ……これはなんですか?」

 ダリルの後ろで黙っていたノエルが、ふと反応した。何か魔力を感じたのだ。しかし、それを表には出さず成り行きを見守った。

「密かに頼まれていたんだ。魔法に関する道具だ。手に入れるのにかなり手こずったが、ようやく手に入ったんだ」

「そうですか、わかりました。預かりましょう」

 そう言って小箱を預かったダリルは、アーシェたちを連れて屋敷を出て行った。

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