表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/7

エピローグ


◆エピローグ


 ── 「銀野君。……なんとかしてやってくれないか……」


 「……はあ~っ。警部さん……

 業、あのね? 時間的に犯行が可能なのは3人だけだと思うよ。

 それに、確かに辰徳氏が亡くなる直前までに水差しに触ったり、水を飲んでる人たちがいたことを忘れてない?

 ああ、そうだ。メイドの……双芽都さんの方かな? 辰徳氏の就寝前の掃除の時に、水差しも綺麗に拭きましたか?」


 「はい、確かにお拭きしました。」


 「ということは……

 うん。今までの証言を考慮すると。私たちが0時に訪問して水差しを触り水を飲んでから以降、1時まで。

 先ずメイドの花火さんがコップを落とし、新しいコップを家政婦長さんが取り換えた時点で、それまでの時間帯で辰徳氏の部屋を出入りした人達のほとんどが容疑から外されますね。

 ではコップを取り換えた家政婦長さんが怪しい?

 まあ待って業! ここで次に料理長さんと弁護士さんが水を飲んでる。

 だから家政婦長さんと料理長さんも外される。

 だから状況だけでの容疑者になるのは、弁護士さんと、1時に微熱があるからと追加の薬を飲ませるように指示して処方した正午さん、1時に薬と水を飲ませるのを手伝った執事さんの3人だけ。

 ただし、ここで監察医さんの検死の結果と、動機が明確なのは──」


 ……と説明し始めた所でまたもや業の先走り。


 「なるほどなるほど!

 つまり、弁護士の巨蟹先勝さん。

 貴方、遺言状を勝手に書き換えて自分もおこぼれを預かれるようにしたことが辰徳氏にバレたために殺害したのでは?」


 「心外な! 自分は仕事に私欲を持ち込むような真似はしておりません。

 でなければ今まで弁護士として活動できておりません。

 ねえ、警部さん? 警部さんたちの調査で分かってると思いますが?」


 黒井君~何をやっとるのかねきみは、と警部も限界を通り越して最早憐れんでいた。

 

 「嘘だろ~ ……じゃ、じゃあ司、犯人は正午さんか?」


 「あのなあ。探偵のくせに、今まで何を見て聞いてきたのさ?

 まあいいけど。

 弁護士さんには明確な動機も理由もないし、辰徳氏が数秒から数分で亡くなっただろう検死結果が上げってきているけど、執事さんも残って見ている目の前で毒を仕込むのは逆立ちして考えても無理なので、当然除外されます。

 次に、微熱がある辰徳氏に渡した追加の薬についてですが、……業。だからね、いい加減に最後まで落ち着いて話をさせてくれないかなあ。

 病院の経営が上手くいってないとかの話はなしだよ? だって酉紀さんの証言で

 『医者としてそれなりに名も腕も売れてます』

 と言ってるからね。ああ、それと。連れ子だったから遺産を何とかしたいとか正午さんは考えてないと思うよ?

 辰徳氏の主治医になったのも、本当に善意からで、育ての親だと心配しているからこそ。

 もちろん検死結果と科捜研からの薬……錠剤の成分の結果から、普通の解熱剤と風邪薬の成分しか検出されてません。

 よって、正午さんも容疑者から完全に除外。

 最後に辰徳氏を睡眠まで付き添ったと言う執事の天蝎大安さんですが──」


 「ちょっと待て! それじゃあ、犯人がいないじゃないか?

 もしかして余命を儚んだ辰徳氏の自殺?!」

 

 「……お~い、業……

 ……と思わせて、実は執事さんが辰徳氏殺害の犯人しかありえません。

 だってね、唯一毒の入っていた水差しには、料理人さんと弁護士さん以外の指紋しかなく、逆に、執事さんしか身に着けていない手袋の繊維が水差しからはもちろん、大富豪しか触ってないはずの小説としおりからも発見されたからだよ。

 それと、監察医の白水さんからの報告で、1時に追加で飲んだ錠剤が、実は消化管と喉から発見されたと検死結果が上がってます。

 とするとだよ? 青酸カリ入りの水を飲んで時間を置かずに亡くなったはずなのに、就寝前の辰徳氏の様子がいつも通り小説を読み始めただっけ?

 執事さん。嘘を言ってはいけないな?

 貴方はおそらく目の前で辰徳氏が苦しんで亡くなる様子を見ていたはずなのに、嘘の証言をしたのでしょう?

 あ~もちろんそれと、

 『旦那様に仕えるのは、執事としての栄誉。例え妻を差し出せと言われても、旦那様に付き従うのが、宝瓶宮家の古来からの仕来りであり、むしろ旦那様の手がついたことで返って拍が付くというもの。』

 と表面上は本当に誠実で忠義の厚い執事の鏡のような回答してたけど、貴方はロボットでも人形でもないだろうに、内情でははらわたが煮えくり返るほど悔しくて辛かったはずだ。

 まあそんなことおくびにも出さずによく言えたね。」


 「……その通りでございますよ、司様。

 家政婦長となった未月とワタクシとは夫婦ではありますが、よき仕事仲間でもございます。

 しかし旦那様の下で長く使えて参りましたが、今までの仕えてきた使用人の皆様は何れもいくらお給料が良い働き口でも、気難しい上に次々と愛人や独身のメイドに手を出す辰徳様のおかげで、使用人の出入りが数か月から長くても数年で入れ替わっておりました。

 メイドの数も不足しがちで、そんな時に未月がメイドとして手伝いに入ってもいいと申し出てくれまして……

 ワタクシには過ぎた妻でございます。

 その妻を手籠めにされたのに、家政婦長として取り立ててやるからと強要され、長年の恨みが積もっていきました……

 さらに旦那様にとっては実の娘のはずでございますのに、幸申様のGFとして近づいた乙女未知様まで……就寝時のベッドに呼び寄せ耳打ちしておりました。

 これはきっと妻や花火さんなど、他のメイドたちと同じように愛人になれと強要したのではないかと確信したのでございます。

 ですから、それだけはどうしても許すことができませんでした。」


 「執事さん……残念だけど、業じゃあるまいし、それは執事さんの早とちりと勘違いだよ? ……」


 しかし私は、執事さんにこの真実を告げるのは残酷かもしれないが、長年仕えていた執事さんだからこそ、辰徳氏の心の内を知ってほしくなった。


 「……辰徳氏はねえ、自分の血を分けた実の娘だと気付いたからこそ、枕元に近づかせて耳打ちしたんだよ。

 何しろ瞳の色が薄茶色だったからね。

 宝瓶宮家の血筋は全員もれなく瞳の色が薄茶色になるんだよね? まあ、だからこそ了子さんの連れ子のはずの正午さんが、以前辰徳氏が了子さんと結婚する前に手籠めにした結果か、でなければ寅二氏との関係かと判った理由だけどね。

 たぶんそのおかげで、了子さんの連れ子の正午さんが、寅二氏との子ではないかと辰徳氏は気付いたからこそ、養子として受け入れたのではないかな?

 ご本人が亡くなってしまったので今となっては推測ですが。

 ……ああ、ここで未知さんに、もう一度確認したいことがあるのだけど、辰徳氏が

 『幸申くんとの交際は諦めてくれないか』

 と耳打ちしたあとに何て言っていたのかな?」


 「!? ……そ、……それは……」


 「……ふうん? まあ聞かなくても知ってるから大丈夫だよ。

 それとね、弁護士さんが預かった遺言書の控え。最終的に書き換えさせた遺言書を警部さんと見せてもらったんだけど、そこには、長年仕えてくれた執事さんと家政婦さんと娘である未知さんに、お金で解決できるわけではないがと、執事さんと家政婦長さんには給料と退職金にしては過分な金額と、未知さんには財産の一部が贈られることになっていたようだよ。

 まあ、それ以外の財産分与については、寅二氏、卯女さん、正午さん、亥織さん、幸申さん、それぞれ法廷相続通りのものだったけどね。

 まあ、寅二氏と卯女さんは今回の件で資格を失うか減額されるだろうけど。」


 すると牛久氏が食ってかかってきた。


 「じゃあ、じゃあ、今回の資格があるのは一人だけっちゅう話は……」


 「ああ、それそれ。それこそ最初から私が桜子を演じさせられた依頼の中の一つ。

 ただ、未知さんが現れたおかげで……否、辰徳氏は既に彼女のことを把握していたのかもしれない。

 でなければ弁護士さんを呼び寄せていないはずだ。

 なにしろ桜子と言う存在が見つかったという理由を盾に、実は未知さんを護るために私に依頼させたのが今回の一番の理由だったのかもね。

 だから未知さんを枕元に呼び寄せて、

 『財産の一部を与えよう我が娘よ』

 と耳打ちしたのでしょう? 未知さん?」


 と、私は真実を読み取っていたので一堂に教えると、未知さんは目に涙を一杯ためて尚堪えながらも、こくりと頷いた。


 家政婦長さんも彼女の肩を抱きながら背中や頭を撫でてお互いに耐えているようだった。


 真実を知った執事さんも


 「だ……旦那様!!」


 と長年仕えてきたのに、主人である辰徳氏の気持ちを汲み取れずに後悔に滂沱していた。……


 「……なんちゅう事件だったんだ。……では、詳しい話は、署で聞こうか。

 金田君、天蝎氏を連れていってくれたまえ。」


 すると……


 ……高齢のはずの桜の木が、まるで最後の命を燃やし尽くすかのように一斉に狂い咲きしていて、関係者一同が感動して見つめる中、花びらを降らせたのです。


 根元にあった異物を守り続けたせいなのか、取り除いたことへのお礼なのか、知っているのは高齢の桜の木だけ……





     *****






 ……明るい場所と暗い場所。昼と夜とで輝き方を変えるアレキサンドライトの光のように。


 人の心も見る角度によって変化するのだな、と私には感慨深く思えた事件でした。──


     END


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ