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迷推理?


◆ボディガード兼探偵? 探偵兼ボディガード? の迷推理?


 ── 桜の木の下から発見されたご遺体のおかげで、少なくとも20年前に起きた誘拐事件の止まった時間がやっと進展した。


 警部さんの号令の下、金田刑事さん達や執事さんと家政婦長さん達が手分けして、邸の関係者たち一堂を大広間に集めると、警部を始めとする警察関係の人達は書類を手に最後の聞き取り捜査をした。


 科捜研による大人の遺体の方の肉付けで、双魚了子さんらしいと、彼女のことを覚えている執事さんや家政婦長さん、寅二氏、当時二番目の夫人となったあと桜姫さんが三番目の夫人となるため離婚後に寅二氏と結婚した戌千代さん、卯女さんと夫の牛久さんたちに、確かに彼女かもしれないと証言してもらった。


 それと赤ん坊については警察と私と業以外には秘密としたが、DNA鑑定の結果、赤ん坊が本物の桜子さんだと判明した。


 赤ん坊の事だけを伏せて、アレキサンドライトのネックレスを関係者たちに警部さんが見せて反応を確認した。


 「君たちが言う、女性のご遺体が握りしめていたらしい。

 うむ。桜子(司)さんが身に着けている者ととてもよく似ておるようだが? これに見覚えのある人は?」


 びっくりして驚く様子の人、何かを隠すように怯える人、悲しむ人、私も確信を持った。そこで私は科捜研の天土さんに決定的な証拠になるだろうことを聞いた。


 「天土さん。」


 「はい、なんでしょう?」


 「アレキサンドライトから検出された物と一致した人物はいますか?」


 「ええ、もちろん。この人です。」


 警部や刑事さん達が拡げている人物たちを調査した書類の一つを指し示してくれた。


 あー、……これは確定したな。私は業にそのことを伝えようすると……いつもの早とちり勘違い暴走男の穴あき推理が始まってしまった!


 (おーい ……このバカ!)


 「……そうかあ。わかったぞ!

 20年前の当時、誘拐が出来そうな人物たち、正午くんや亥織さんやましてやまだ生まれていなかった幸申くんたちには犯行は不可能。

 料理長さんとメイドさんたちの3人は20年間で何人か入れ替わったと調査で判明しているので除外。

 もちろん桜姫さんが亡くなり桜子さんが誘拐されてから入れ替わるように入ったという家政婦長さんも調査でわかったので除外。

 となると、今現在生きている人物で、この邸の桜の木の下で何か作業していても怪しまれないのは、何処の誰かもわからない赤の他人ではあり得ない、宝瓶宮家内の人物に限られる。

 ということはだ。戌千代さん、卯女さん、牛久さん、執事さん、寅二氏の5人のうちに限られるのでは?」


 ざわっと、警察も宝瓶宮家内の関係者たちも一同騒然となった。


 「おいおい黒井君。本当にわかっとるのかね?」


 「警部。この天才探偵にお任せください。」


 なるほど。確かに業の言う通り、20年前の当時、誘拐が出来そうな人物たちに的を絞った。そこまではいいよ?


 「誘拐の実行犯はおそらく一緒に埋められていた双魚了子さんで間違いないだろう。しかしここで疑問が生じるのです。

 その了子さんが、病死か、事故死か、それとも共犯者だか、誘拐を唆した人物に口止めか見解の相違で揉み合った末にでも殺されたのか。

 死んだ後に桜の木の下に埋めた人物こそが真の犯人でしょう?

 ではそれは誰か?」


 業は、ふーっと一息つくように煙草に火をつけて一服すると、メイドの通さんが用意してくれた灰皿に置いて、推理ショーを続けながら容疑者の一人を見た。


 「戌千代さん。

 当時、寅二氏の妻となってはいるが、そもそも辰徳氏の二人目の妻でもあった貴方が離婚された原因は、辰徳氏が本気で惚れたらしい桜姫さんと結ばれるため。

 もちろん、辰徳氏は非常に惚れっぽく、最初の妻となった了子さんと離婚したのも戌千代さんと結ばれるためだそうですが。

 しかし桜姫さんに対する様子だけが今までと違うと思ったのではないですか? 辰徳氏の心を奪った桜姫さんがどうしても許せなかった。

 それに了子さんは貴方と同じ職場の先輩だったこともわかっています。そこで桜姫さんに嫉妬した貴方は、一人目の妻でもあり先輩でもある了子さんに協力を頼んだ。

 最初は嫌がらせと桜姫さんを悲しませるために誘拐させた。しかしそこで二人の間で争うことがあり殺害した。

 違いますか?」


 自信満々の業、だったのだが。私はハラハラしながら二人の様子を見守った。


 「違います。」


 「そう、違い……えっ?!」


 呆れて頭に手をやる警部。私もあほか! と思いながら業に首を横に振って合図する。


 「確かにアタシは先輩である了子姉様のことを尊敬し、本当の姉の様に慕ってはいましたが、だからこそ逆に誘拐を唆すなんて決してさせませんわ。

 それに桜姫さんと辰徳さんが結婚したいからと告げた時にも、莫大な手切れ金と慰謝料、それにアタシのことを好きだと言う寅二さんと添い遂げたら? とも告白もされて円満離婚しております。

 寅二さんはそのアタシを大事にしてくれてますし、ましてや桜姫さんに感謝こそすれど、嫉妬何て。」


 「あ……う……いやそうか!

 それなら卯女さん。

 貴方は当時、5歳になった長女の亥織さんの成長した顔つきを見て、実は再婚する前からお兄さんである辰徳氏の目を盗んだ戌千代が寅二さんとの間に出来た、辰徳氏の娘でなく寅二氏との娘だと知ってしまった。

 それで正当な跡継ぎとしても資格がないと高を括っていたが、本当の辰徳氏との血を分けた子供の桜子が生まれたのを厭んだがために了子さんを唆して犯行に及んだ。

 違いますか?」


 「…違いますわ。」


 「そう違……っておい?!」


 またもや額に手をやる警部。私も以下同様、業に首を横に振って再度合図。


 「亥織さんが寅二兄さんとの子供だったなんて今初めて知りましたわ。

 それに辰徳兄さんと一人目の妻となった了子義姉さんのことをわたくしが嫌って、犬猿の仲だったと当時の皆さんなら知っていますから、誘拐の共犯何て成り様がありませんわ。ふんっ!」


 「むう……それなら。

 牛久氏。

 貴方は当時、かけだしのADだったためにTV局での仕事が上手くいかず、おまけに女優であまり売れてない奥さんの卯女さんの散財で苦労していた。

 そのために身代金目的の誘拐を目論んだのでは?」


 「……全然違いまっせ。」


 「そう違……ってええーっ?!」


 再度コメカミを人差し指でぐりぐりする警部。私も以下同様、業に首を横に振り合図。


 「確かに妻は金遣いが荒かったが、家計を圧迫する程ではなかったで。なにしろ天下の宝瓶宮家やからな。

 執事はんを通して、年間使い切れん小遣いを回してくれはりましたわ。」


 「うん……それなら。

 執事さん。

 当時から辰徳氏は本当の女性癖が悪かったようですなあ。メイド見習いになったメイドばかりを愛人にしていたせいで何人も入れ替わっている。

 もちろん貴方の奥さんとなった当時メイドとして入った未月さんもそのせいで辰徳氏のお手付きになった。

 さすがに奥さんに手を出された貴方は怒った。そこで犯行に至ったのでは?」


 「……事実無根でございます。」


 「事実無根……って、本当?!」


 眉間を人差し指でぐりぐりする警部。私も…業に首を横に振り合図。


 「辰徳様という旦那様に仕えるのは、執事としての栄誉。例え妻を差し出せと言われても、旦那様に付き従うのが、宝瓶宮家の古来からの仕来りであり、むしろ旦那様の手がついたことで返って拍が付くというもの。」


 「え~っと……未月さん、家政婦長さんもそう思ってるのかな?」


 「はい。アタクシのような一使用人にさえ目をかけてくださった上に、仕事だけでなく生活の保障までして頂き、感謝に耐えません。」


 「あ~ ……うん。それならよかったんだけど。」


 そこで私は業に決定的なグウの音も出ない証拠について耳打ちした。


 「……なるほど~。じゃあ、寅二氏?

 貴方は当時の最初のホテル経営が上手いかず、なんとか補填したかった。それには、さきほど年間使い切れない小遣いを回してもらってさえ、追いつかない大赤字を出してしまった。

 そのために桜子さんを誘拐して身代金でなんとかしようと思った。

 そこで元娼婦で辰徳氏の1人目の奥さんになった女性であり、辰徳氏と結婚する前から愛人として了子さんと関係があった。

 そうですよね、戌千代さん?」


 「はい。当時、最初の辰徳さんと結婚する前から、姉は名前をはっきり言ったわけではありませんが、辰徳さん以外の男性とずっと愛人として関係をもっていたと。

 しかし当主である辰徳さんと結婚した方が得るものが多いからと、その男性からも勧められて一人目の妻として婚姻を結ぶように仕組んだと。

 その男性とは結婚してからも関係が続いている。と知ったのは、アタシが今の主人である寅二さんと結婚してから、閨の睦言で確かに教えていただきました。」


 「!? 戌千代! お前っ!!」


 焦った寅二を金田刑事たちが抑える。


 「そうして行く行くは辰徳氏の財産も手に入れようと、了子さんと寅二氏は結託して画策していた。

 もちろん、辰徳氏のほうでも、了子さんの連れ子だった正午さんをわざわざ養子にして長男として迎え入れたのも、弟さんである寅二さんとの関係を薄々気付いていたのではないかという点。

 さらに宝瓶宮家を長子であるがために偶然引き継いだという、弟さんである寅二さんに対する負い目が多少あったのではないかという点があったからでしょう。

 しかしその後、3人目の妻となった桜姫さんに辰徳氏が本気で惚れたと察し、1人目の妻であったが寅二氏の愛人となった了子さんを、弟である寅二氏は唆して誘拐させた。

 しかし赤ん坊である桜子さんが病気で亡くなってしまい、おそらく了子さんは殺すつもりではなかったのにどうしようかと焦ったのでしょうなあ。

 病院か警察にいくべきではないかと口論となったのでは? そこで寅二氏はかっとなって口封じに殺したのでは?」


 ここで、私は執事さんなど依頼人以外の関係者たちに、偽物であることをカミングアウトして謝罪した。


 「騙してごめんなさい。本当はただのエキストラばっかりやってる女優の卵なんです。卯女さんにはいつばれるのではないかとヒヤヒヤしてました。」


 と。あれ、これって卯女さんが有名じゃないとディスった? 違う違うよ? たぶん。


 「桜子様を演じてくれと頼んだのは旦那様自身でございました。旦那様も薄々、桜子様がもうこの世にはおられないのではないかと感じていたのでしょう。

 宝瓶宮家の血筋のなせる不可思議な力でおそらく……」


 執事さんはまたほろりと手袋をはめた手でハンカチを握りしめた。


 警部さんも、やっと穴あき推理からまともな推理になって調子づき始めた業の為に、アレキサンドライトのネックレスを示してくれた。


 「了子さん達のご遺体の側から発見された、桜の木の下から出てきたアレキサンドライトのネックレスですがね。

 犯人の指紋と血液付きなんですよねえ。

 もちろん、心当たりがあるのは一人だけですよね。」


 業や戌千代さんや警察関係者たちは、顔色を変えた寅二を囲んで追い詰めた。

 

 「了子さんは殺される時に相当抵抗したのでしょうなあ。遺体の首の骨の様子から、首を絞められて殺されていることが判明しています。

 きっとその際に犯人を必死でひっかき、こと切れる寸前にたまたまこのネックレスがあったのでしょう。

 しかし了子さんはそのチャンスを決して無駄にしなかった。犯人をひっかいた血をネックレスにつけたのですから。

 そうそう、ついでに桜子(司)が偽物だと最初から判っていたのは、桜子さんが亡くなっていることを知っている、犯人だけなんですよねえ。」


 「くそっ! ……その通りだよ。

 そのアレキサンドライトを売ろうと考えていたのに、希少な宝石であることと血の跡のせいで縁起が悪く不吉に感じたから、やむなく一緒に埋めたんだよ。……」


 寅二は観念したかのように項垂れた。


 そう。確かにあの晩餐の夜、明確な”ころしてやる”という殺意を私に向けて発していた壮年男性の意識は、間違いようがなく寅二のものだった。


 だって桜子が既に死んでいると知っていて、私が偽物であることを確信しているのは犯人である寅二だけだったからこそ。


 それとアレキサンドライトのネックレスは二つあるとは知らず、埋めた方が見つかったと焦ったのだろうなあ。


「……そうかい。

 やっぱりお前がアタシの敬愛する姉を殺した犯人だったのかい!」


 と、戌千代さんは警部さん達が止めるのも間に合わず、寅二にぱあんっ! と平手を張った。……否、むしろわざと叩かせたのかも? 温情かな。


 彼女の供述によると、元娼婦で辰徳氏の2人目の妻となった戌千代さんだったが、辰徳氏の側では姉の消息が掴めなかったため、桜姫と婚姻を結ぶためと離婚を言い出され、レストラン経営の資金援助をするならと円満離婚した。


 また以前の供述通り、前から好みだと言われた辰徳氏の弟の寅二氏の妻にまでなった。


 しかし戌千代さんは寅二氏がどうやら姉の了子さんをどうにかしたらしいと疑い、犯行の証拠を掴むために妻にまでなったのだと知った。


 姉の様に慕っていた了子さんの失踪を探った執念には、警部さんを始め関係者一堂感服した。


 もちろん、了子さんの連れ子だった正午さんも無念そうに寅二を睨みつけた。


 「そうか……お前が母さんを殺したのか……しかし自分にとっては血の繋がった父親だと知ってたんだよ、寅二父さん?

 ……残念だよ。……お前みたいなのが自分の本当の父親だったなんて……

 やっぱり、生みの親より育ての親だよなあ。……辰徳義父さん……」


 正午の衝撃的な告白にはさすがに私以外の全員が驚いたようだ。


 「はははは! 実の息子にも見捨てられたのか……了子を唆してからが運の月だったようだなあ。

 ……しかしなあ。オレは兄を殺してはいないからな。断じて!」


 こうして、辰徳氏殺害事件は振り出しに戻った? ──


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