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第32話 新任教師ブラン

 教室はすでに大勢の生徒で埋め尽くされていたけれど、第三王女であるアリシアが入室するや否や、海を割ったように人垣が割れて道がひらける。


 アリシアを認めた生徒たちは彼女と話したそうにしていたが、隣を歩く俺の存在に気がついた途端に、露骨に明後日の方角に顔を向けた。

 あの石化事件で少しは俺の評価も上がったとは思うのだけど、思うだけで現実はこんなものである。手厳しいと視線も自ずと下がってしまう。


「雨垂れ石を穿つ、ですわね」


 階段教室の一番上の席を陣取ろうと、一段一段しっかり踏みしめる彼女が、前を見据えながら口を開く。


「一度や二度の行いで、リオニスのこれまでの横柄な態度を皆が忘れることはありませんわ。だからといって腐ってしまってはいけませんわよ。真摯に向き合うことで、いつの日にか想いは皆に届くと思いますの」

「リオニスは石に立つ矢というわけだな」


 珍しく同意するクレアに、アリシアはそうですわねと頷いた。

 普段はあまり仲が良くない二人だが、気が合わないというわけではなさそうだ。


「石の上にも三年ということか、卒業迄に穿ちたいものだ」

「賽の河原の石じゃないだけマシだと思わなければいけませんわね」

「苔むすまでしがみ付く気持ちで頑張れということだな」


 手厳しい二人の意見にガクッと首を折りながらも、俺は一番うしろの席に腰を下ろす。

 階段教室の一番上の列は、俺たち四人が独占する形となった。

 席順は右からビスケッタ、アリシア、俺、クレアという順だ。


「ふんっ」


 ビスケッタと目が合ったのだが、やはりすぐに顔をそらされてしまった。

 俺は彼女に何かしてしまったのだろうか?

 幼い頃はビスケッタとも仲が良かっただけに、非常に辛い。


 落ち込む間もなく前方の扉が開くと、そこから赤毛のセミロングヘアなシスター(?)生徒(?)が入ってきた。

 見慣れない少女だ。


 同年代と思しき少女は、黒を基調とした修道服に袖を通しており、胸の十字架がキラキラ輝いている。

 まっすぐ教壇の前まで移動した少女は、ザッと室内に視線を走らせた後、勝ち気な微笑みを浮かべた。


「うちはブラン! 歳はたぶんみんなとそない変わらんと思う。せやけど、こう見えても正真正銘の教師やからひとつよろしゅうな!」


 快活な声を教室中に響かせる少女に、室内は一瞬静寂に包まれた。


「教師?」


 教室に居合わせた生徒たちは顔を見合わせ、順にハテナマークを頭に浮かべていく。

 俺たちは皆ボン・キュッ・ボンな女教師を想像していたのだけれど、いざ蓋を開けたらボン・キュッ・ボンとはかけ離れた慎ましやかな胸の少女が、自分は教師だと俺たちの前に現れた。皆が混乱するのも無理はない。


 どこからどう見ても自分たちと年齢が変わらない少女は、体の線がくっきり浮かび上がる修道服を着ている。

 わずかな胸の膨らみを一瞥した男子生徒たちからは、あからさまな落胆が吐き出された。


「お前ら失礼過ぎやろ! つーかどこ見てため息吐いてんねんな!」


 眉を逆立てて鋭いツッコミを入れるブラン、そのひどい訛からマッカモウカリという田舎の出身だということがわかる。対照的に緊張感に包まれていた女子生徒たちからは、力の抜けた穏やかな声が聞こえてきた。


「良かったね、大きくなくて」

「うん。私、肩身が狭くなるかと思って冷や冷やだったよ」


 ひょっとすると女子には、動物でいうところの縄張り争い的な何かがあるのかもしれない。

 だとすると、ボン・キュッ・ボンな女教師は彼女たちにとってのライオンか、あるいはハイエナだったのだろう。


「女子も大変なのだな」


 しかし、俺はふと疑問に思う。

 ブランと名乗ったひどいマッカモウカリ訛の女教師は、なぜか修道服姿なのだ。

 疑問に感じていたのは俺だけではなかったようで、生徒たち(主に女子)から質問が飛び交った。


「みんな知っての通り前任の先生……名前なんやったけかな?」

「サシャール先生ですか?」

「あぁ、そうそう! それや、それ!」


 生徒たちの声にハキハキと答える赤毛の少女ブラン。


「サシャール先生が停職中やろ? せやかてそんなすぐにアルカミア魔法学校の教員を務められるほどの魔法使いなんて見つかるわけないやん? そこで、ヴィストラール校長から教会に相談があったちゅうわけやわ!」

「なるほど、あのシスターは一時的に教会から派遣されて来たということか」


 一人納得するクレアに、俺はどういうことかと尋ねた。


「アルカミアには各国から将来有望な人材が集まって来るだろ? そんな彼ら彼女らに偏った思想を植えつけてしまわぬためにも、アルカミアでは無国籍な魔法使いが教鞭をとるのだ」

「その上でアルカミアに相応しい実力を認められた魔法使いだけが、アルカミア魔法学校の教師たる資格があるんですのよ」


 加えて、教会関係者は一人残らず無国籍者なのだという。


 教会という世界最大の組織に属するためには、政治的な国の垣根にとらわれない人物でなければならない。要は神聖な教会を政治的な目的で利用させないために、国に属さない人物だけが教会に所属する権利を得るということだ。


 組織は違えど根本的な考え方はアルカミア魔法学校と似ている。

 その為、無国籍で優秀な魔法使いを手っ取り早く見つけようとすると、どうしても教会に協力を打診することになるという。


「ま、そんなこんなでうちが急遽、アルカミア(ここ)に派遣されたっちゅうわけや。しばらくの間よろしゅう頼むわ! うちのことは気軽にブラン先生って呼んだってぇや」


 教室は賑やかな女子生徒の声音と、落胆の色が隠せない男子生徒の憂鬱なため息できれいに分断された。


「ん?」


 一つ気になったことがあるとすれば、時折ブランがじっとこちらを見ていたことくらいだろうか。

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