ひとりごと -にゃん丸-
雨の日、
僕は空を見上げて、雨粒を顔や体全体に受ける。
あの頃はそんなことをしていた。
日の当たらない汚い深海の底のような、居場所のないものたちが、そこで生き抜くために喰い殺し合うような場所。
僕は、そこの汚れを身にまとっていたように思えたから。
だから、そこの雨には摩天楼の汚濁が混じっていて、透明でなくいやな臭いがしていても、
あの汚れた雨の冷たさは、身体や心に染み付いた澱を流してくれるように思えたんだ。
あの場所の空は狭かった。
空を覆い尽くす高層建築の壁に空いた、ちっぽけな穴のようだった。
宇宙港の蒼空はどこまでも広く、青く澄んでいて、
バビロンの、薄汚れて暗い世界と同じところにあるとは、とても思えない。
明るく、そして美しい世界が、はてしなく広がっている。
青い青い、蒼空と海原は、どこまでもどこまでも続いているようだ。
ここにも雨が降る。
僕は今でも、ときどき雨粒を浴びることがあるけど、
前のように、汚れた僕自身を清めるためじゃない。
美しい世界を、この身体全部で感じたいから。
少し塩を含んだ海風も海鳴りも、それに強い雨音や暗く垂れ込めた雲も。
やがて暗い空から現れる光の束、そして晴れ渡る蒼空と瑞々しい日の光と世界と。
僕は、僕がこの世界に居ることを感じる。
僕自身もこの世界の一部として、この中に居ると感じられるんだ。
僕は、僕の好きな人たちに手を引かれてここに来た。
この美しい世界は、
いま、僕の世界だ。