王宮なんて行けません!
まだまだまだリーナのターンです(^^;)
迷子事件の翌日、ライネル団長がフリルがたっぷりのドレスを買って来た。
「リーナ、明日俺と一緒に王宮に行くぞ」。
突然ドレスを渡され、そう告げらて思考が追いつかない。王宮?王宮って王様が住んでるところ?
「実は明後日、王太子の誕生日を祝う晩餐会があるんだがな、お前も招待されてな。しかし、その対人恐怖症で、いきなりそんな場に引きずり出すのも心配でな、晩餐会参加はお断りした」。ライネル団長は顎の、髭をさする。
「ただ、知ってのとおり、王立学園入学にあたり、王太后様が後見人になるという事だからな。一度、王太后様にご挨拶しておかなければならないし、王もお前に会いたがっているのでな。入学前に一度、王宮に行くべきだろうと思ってな。晩餐会はお前の事を考えたらまだ酷だろうし、明日なら普段北の離宮でお暮らしの王太后様も王宮にお越しになるし、丁度良いと思ってな、謁見の約束を取り付けて来た」。とライネル団長は得意気だ。
「…あの、私…王宮なんてそんな場違いなところ、とてもではありませんが…行けません。本当は王立学園に通う事すら不安で…」。
王宮だなんて想像しただけで手が震えてしまう。
「だがなぁリーナ。王立学園入学は決まっている事だし、王太后や国王陛下も是非ともお前に会いたいと言っておいでだ。無視することもできない。確かに人の視線は怖ろしく感じる事もあるだろうが、お前もそのままでは良くない。その対人恐怖症を克服せねばこれから先、生きて行くのも困る。魔法の使い方も覚えて、自分の身は自分で守れるようになるべきだし、その一歩を踏み出す決意をしたからここにいる。違うか?」。
困った様に少し厳しい表情を作ってライネル団長は言った。厳しい中にも私の将来を本当に案じてくれている事がわかる口調だった。
わかっている。わかっているから王立学園入学を決めたのだけど、昨日の迷子事件がより私を怯ませていた。
また具合が悪くなったらどうしよう。と。
「とにかくこれは決定事項だ。否は聞かぬ。お前にはちゃんと付き人もつけて、警護もさせる。出来るだけ不安を取り除けるよう配慮はするつもりだ」。
ライネル団長はこれ以上私の意見など聞くつもりはないとばかりに、私を部屋から追い出した。
「……どうしよう」。ライネル団長に渡されたドレスを抱えたまま私は座りこんだ。
街では帽子を目深に被り髪や顔を隠せても、きっと王宮では隠せない。王様の前となると尚更だろう。どれほどの好奇の目に晒されるのか、想像するだけで身震いがする。
魔法で髪の色や目の色など変えれたら、目立たないかもしれないのに…。実は以前、祖母に頼んだ事だった。何かの本でそういった魔法があると読んだから。そうすれば私も他の人と同じになれると思って。でも祖母は首を横に振ってこう言った。
「リーナが幼い頃にその魔法を試した事があるの。本来ならさほど難しくもない魔法なんだけどね、お前には全く作用しなくてね…。いろいろ調べてはみたけど原因もわからない。リーナ。お前の髪やその透き通る様な肌、薄い水色の瞳もそのままでとても美しいの。変えてしまうなど勿体ない。神様はそう思ってらっしゃるのかもしれないね」。と。
皆があんなに不気味がるのだから、美しいはずなどないと思うので、きっと祖母は私を慰めようとああ言ってくれたのだと思う。
とにかくそういう訳で、魔法を使ってこの外見を変えるのは無理なわけで。鬘を被ると言う方法もあるけど、その姿で王様に挨拶をすることは失礼に当たるだろうから、団長に反対されるに決まっている。
どれだけ嫌でも、時間は止まってはくれない。不安であまり眠れないまま朝になってしまった。
午後に王様と王太后様、王妃様、皇太子様達が一緒にお茶会をされるその席にほんの少し、挨拶程度にお邪魔する予定らしい。
「リーナちゃんそろそろお支度しましょうか」。
朝食を食べ終えて、軽くシャワー浴び終えた頃、シュリー夫人が数名の侍女を連れて私の部屋に入ってきた。
手には昨日団長が買って来てくれたドレスを持っていた。一人で着替えたいと言いたいところだったけれど、あいにくドレスなど、着たことのない私なので大人しく侍女にお任せするしかない。
「まぁ!あの人ったらやっぱりサイズとか適当に選んで来てしまったのね!」
着替え終わった私を見て夫人が呆れと怒りを滲ませて言う。それもそのはずで団長が買って来てくれたドレスはどう見ても私には大きくてぶかぶかだった。
「ああ、どうしましょう…困ったわね。私のドレスでもきっと大きいでしょうし…午後までに簡単にで良いから直せるかしら?」着付けを手伝ってくれた侍女と相談しながら余ってダボついた脇や肩の部分を摘みながら、まち針を刺すと侍女達は慣れた手付きでドレスを脱がしていく。
「とりあえず先にメイクや他に準備出来るものをしましょう、靴は一昨日街で買ったものが、ドレスに合いそうで良かったわ。もっと早く私が知ってたらドレスも私が選んだのに…」。と夫人は何やらご立腹だ。
そんなこんなで色々ありながらなんとか、身支度を終えて鏡を見る。なんだかとても落ち着かない。淡い水色のドレスと同じ色の花をあしらった髪飾り。こんな風に着飾った事などないから、とても居心地が悪い。
「おい、準備はまだかかるのか?」ライオネル団長がしびれをきらしたように催促に来た。
「こんなに手間取ってしまったのはそもそも貴方がドレスのサイズを確認しないからではありませんの!!」。夫人は刺々しくライオネル団長に文句を言う。そんな夫人の抗議など耳に入らないとでもいうそぶりで、
「おおっ!リーナ!見違えたぞ!どこからどう見ても貴族の令嬢だな!」待ちくたびれてふて腐っていた表情を輝かせて大袈裟に私を褒めちぎる団長。自分の失態をなんとか誤魔化そうとしているらしい。
「支度も出来たようだし、さぁ行こうかリーナ」。スッと私の手を取ってエスコートしてくれる。普段の団長からは想像できない紳士的な振る舞いに私は少し笑ってしまって、束の間緊張がほぐれた。