5. 祖父の秘密
まだまだリーナのターンです。
あの事件から3ヶ月が経ったある日、ライネルおじさん…もといライネル団長が王命を携えてひょっこりやってきた。
王命を携えているというのに、本当にひょっこり遊びに来たようなそんな気楽さだった。そんなライネル団長がピラピラと差し出した王命の勅書には、私を正式に聖女として任命すること。これに従い、この春より王立学園に入学して勉学に励み、魔力、魔法、学問などあらゆる知識、技術を身につけて、王家を支える力となるべしと記されていた。
尚、王太后が後見人を務め、責任もってサポートする故、心配無き様とまで追記されていた。
突然の事だったし、王立学園に通うなど、恐怖でしか無かったから、辞退できないかとライネル団長に相談したけれど、王命だから難しいだろうと言われた。
人嫌い、特に貴族嫌いの祖父は猛反対をしたけれど、ライネル団長や祖母に説得されて、渋々私を送り出すことを認めた。
王命を断れば祖父母がどうなるかもわからないし、私もしぶしぶ受け入れるしかない状況だった。祖母にしてみれば、これから先の私の事を思うならば世の中を知る良い機会だとも思ったようだった。ライネル団長も王立学園の入学には賛成だったようで、私の力を宙ぶらりんにしておくのは良くないと考えているらしかった。
王立学園入学までの半年で祖母は出来るだけ魔法や魔力の扱い方を私にたたき込んでくれたし、祖父も王立学園についての様々な事を教えてくれた。実は祖父は若い頃王立学園で教鞭をとっていたらしいのである。初めて知らされた時はとても驚いた。
聖女任命と王立学園入学が決まってからというもの、今までひた隠しにされてきた祖父の秘密を次々と知る事になる。
ひっそりと隠れるように暮らしていた祖父母でも全く人と交流がないわけではなく、ライネル団長のように、たまにふらっと訪ねてくる友人が何人かいた。
その中の一人、祖父や祖母よりも若い男性(といっても白髪が少し目立ち始めた中年男性だが)私は彼をアーサーおじさんと呼んでいた。アーサーおじさんは祖父の事を師と仰いでいるようで、一年に一度は訪ねて来ていた。身なりもそれなりに良いものを着ていたので、裕福な方なのだとは思っていた。
思えば、祖父母を訪ねてくる知人は、高貴な雰囲気の人が多かった。…祖父は自他ともに認める貴族嫌いなので、変だなぁと思ったものだ。
アーサーおじさんは私にとって年に一度、訪ねてくる気の良いおじさんである。いつも美味しいお菓子や、素敵な服などをお土産に持って来てくれて、祖父と歓談を楽しんだら、私とも少し遊んでくれた。
祖父母の友人達は当然ながら、私の見た目を気にしない。普通の子供と同じように接してくれる。だから、対人恐怖症気味の私もそうして時折訪れてくれる祖父母の友人達が大好きだった。この後知ることになるアーサーおじさんの正体に私は腰を抜かすほど驚かされたものだ。
王立学園入学まで残り1ヶ月を切ったある日、またもふらりとライネル団長がやってきた。入学までの期間、王都や人に少しでも慣れておいた方が良いだろうと入学までの間、私をラドクリフ邸で預かってくれると言う事だった。急な事で
僅かばかりの衣服や荷物を持ったのみで、あまり準備も出来ないまま祖父母の家を離れる事になってしまった。
「足りないものは俺が王都で揃えてやるさぁ‼︎」。などと豪快に笑いながら、ライネル団長は私を祖父母の元から連れだした。急な話に祖父はカンカンに怒っていたが、祖母は笑って送り出してくれた。
「いつまでもここで私らみたいな爺婆と籠ってちゃ、あんたの為にはならないからねぇ。なぁに、心配いらないさ。会いたくなれば魔法陣でいつだって会いに行けるさね」。不安でいっぱいの私を抱きしめながら祖母が行った。
「大丈夫。頑張っておいで」。と。