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4.リーナ・フォレスター

ここからしばらくリーナ視点になります。


 私、リーナ・フォレスターは極度の人見知り。ううん、人見知りを通り越して、対人恐怖症の域にあるといってもよいかもしれない。


 私は見知らぬ人が怖い。知ってる人でもやはり少し怖い。家族以外の人間に対してあまり良い思い出がないから…。


 幼い頃、流行り病で両親を無くした私をここまで育てくれたのは母方の祖父母だ。祖父母は田舎の人里離れた山奥で、ひっそりと暮らしながら、私を育ててくれた。何故、祖父母は人目を避けるようにひっそりと暮らす事を選んだのか。祖父が極度の人嫌いというのもあるけれど、最も大きな理由はきっと私の為だったと思う。


 私の見た目は、この国のみならずたぶん世界的に見ても珍しい。身体の色素が抜け落ちたと表現したら良いのだろうか、眼球と唇以外が極めて白い、所謂アルビノである。世界中にほんの一握りしかいないだろう私の外見は良くも悪くも人の目をひく。そして大抵の場合それは好まれない。悪魔の子だとか、不吉。不気味。中には本当に珍しくだけど、神の御使いなどと言う人もいるけれど。とにかく誰かに普通に受け入れてもらえる事はほとんどなかった。


 この見た目のせいで、誘拐されて売り飛ばされそうになった事も何度もある。幸いそのどれもが未遂に終わり、事なきを得て来たけれど、私に人に対しての恐怖心を植え付けるには充分な出来事だった。


 そんな私が、何故現在この貴族しか通う事のできない王立学園に通う羽目になったのか。それは一年前の出来事に遡る――――


 一年前のあの日、あの瞬間まで、実は私は一切魔法が使えなかった。魔法の得意不得意はあっても魔法が一切、からっきし使えない人間なんて、これまた私の見た目以上に珍しい事。魔法が少しでもつかえていたら、それなりに身を守る事だって出来たのだろうけど、それが出来なかった。


 人知れずひっそりと暮らしていても、絶対に人目に触れない生活というのは無理がある。森に迷い込んだ人や、又聞きの噂話。何かしらの方法で私の存在が知られてしまう事は当然あって、それが悪い人の耳に入る事で、私達の平穏な生活は簡単に覆されてしまう。


 基本的には自給自足生活だった祖父母だけれど、それでもある程度のお金は必要で、森で採った薬草を使って祖母が作る薬は我が家の大事な収入源だった。


 あの日も私は森の中で薬草摘みに夢中になっていた。祖母の作る薬は街では大人気だったから、薬草はいくらあっても足りないのだ。


 夢中になりすぎて家から離れ過ぎたのが良くなかった。不意に後ろから何か大きな塊を投げつけられるような衝撃を感じた瞬間、私は意識を失った。


 目覚めた時、暗くて湿った知らない場所にいて、腕も足も、きつく縛られて身動きが取れなくなっていた。口には布を咬ませられ声をあげる事も上手く出来ない。それでも初めは私はあまり焦っていなかった。

 

 実はそれまでにも何度か誘拐されかけた経験から、祖父と祖母が作ってくれた位置情報を発信する魔道具をペンダントにしてもっていたから。そのおかげでいつもはすぐに場所がわかり、祖母が助けに来てくれた。

 

 実は祖母は国でも名の知れた魔女だったので(正体を隠して生活していたので、知ってる人は少ないけれど)そんじょそこらのごろつきなど、彼女の魔力の前では石ころのようなものだったし。その時も当然祖母が助けに来てくれると思ってたから。


 だけど、あの日は運悪くペンダントをどこかに落としてしまっていた。当然、待てども祖母の助けはないわけで。


 目覚めてからしばらくして、私を誘拐した男達が部屋に入って来た。彼らは獲物を手に入れて上機嫌だった。人買いに私を売って大金を手に入れる目論見だったようだ。


 一番偉そうな奴が私にいった。もうすぐ特別な魔法陣で他国の密売人がやってくると。そうして私は他国で闇市で競りに出されるのだと。


 彼らは今まで私を拐ったどのごろつきよりも手慣れていた。プロの密売人だった。普通の人間には魔法陣なんて代物は使えない。ましてや他国と繋ぐなんて絶対にできない。


王国の魔法騎士団員クラスの魔力量と技術があっても数人がかりでようやく繋げる事ができるものだし、他国と繋ぐのは秘術中の秘術だ。他国と繋げた瞬間に魔法騎士団が国中に張り巡らせている魔法感知網に触れてそれとしれる仕組みになっているのだ。


 それなのに他国と繋がった魔法陣から密売人が来るなんて…。俄には信じられなかったけれど、数分後、部屋の床が青白く光ったかと思うと人が一人入れる程度の魔法陣が浮かび、次の瞬間には浅黒い黒髪の男がそこにたっていた。死んだ魚のような感情のない目と視線が重なった。

それまで、今回もきっと助かると信じていた自分の甘さに後悔した。ううん。違う。あれは後悔というより、絶望感と表現すべきだと思う。


 黒髪の男は私を拐った奴らに懐から大量の金貨を払うと、手足を縛られたままの私を軽々と肩に担ぎあげる。私は震えて暴れる事もできなかった。

 

嫌だ。怖い。誰か助けて。神様!私は心の中で強く願った。


 男に抱えられて男の足元に再び魔法陣が浮かんだその時、部屋中が眩いほどの光に包まれた。光は魔法陣をかき消して、部屋の中にいたすべての人の輪郭すら消した。何も見えないほどの圧倒的な光。肩に担ぎあげられて身動きが取れなかったはずの私の身体はふわりと宙に浮き、手や口を縛っていた紐が掻き消えていた。


 男達の悲鳴が僅かに聞こえた気もしたけれど、頭の中はぼんやりしていて、今でもあの時、何がどうなっていたのかよく思いだせない。覚えているのは光が少しずつ弱まって薄暗い空間に戻った時にはそこにいたはずの私以外の人間はすべて消えていたという事だけだった。


その後、なんだかすごく疲れて気を失ってしまった。

気づいた時には、祖父母と魔法騎士団の団長に囲まれていたのだった。


 後で知ったのだけど、あの眩い光はあの部屋のみならず、かなりの広範囲、それこそ町や村、領地全てを包み込むほどだったという。強力なしかもその異様な魔力を察知した団長が咄嗟に魔法陣で光の源に転移した時には光は消え失せ、そこに倒れた私がいたのだそうだ。


 実はこの団長、祖父母の古くからの友人で、たまに家に遊びに来ていた人だった。ライネル・ラドクリフさんといって、私はライネルおじさんと呼んでいたのだけど。もちろん魔法騎士団の団長だなんて、そんなド偉い人物だなんて全く知らなかった。たまにふらっと訪ねて来ては祖父母と楽しそうに酒を飲んで帰る面白いおじさんくらいにしか思ってなかった。



 あの瞬間に私を守ったのは、光の精霊による加護魔法らしく、光の精霊の加護がもらえたという事は、光魔法が使えるということ。しかもその光魔法というのは数十年に一度使い手が現れるかどうかの大変貴重で強力なものらしいのだ。

とはいえ目が覚めた時の私からは魔力を感知出来なかったようだけど。


 






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