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1.女装の悪役令嬢

初めての投稿です。いろいろ間違えたり至らないところあると思うけど、ど素人だと思って暖かい目で楽しんでもらえたら嬉しいです

 



「あの方は私の婚約者ですわ!ちょっと馴れ馴れしくしすぎですわ!庶民なら庶民らしく弁えて下さいませ!」。

 美しい金髪縦ロールをサラリとかきあげ、白く長い指先の角度にまで気を使い、大袈裟とも言えるほど高飛車な御令嬢然とした姿を作り、ヒステリックな甲高い声をあげる俺。

うむ。我ながら完璧なまでの悪役令嬢だ。中身が男である事を除いては…。

 

 グランディス王国の政治の中枢を担う公爵家次男である、俺。レオナルド・トリスタンが一体何故こんな恰好でこんな声をあげねばならないのか。すべては2週間前に遡る。


* * * *


「旦那様大変ですっ‼︎ お…お嬢様がっ」。


 その日血相を変えて、家族の朝食の間に飛び込んできたのは双子の姉付きの侍女セシルだった。手に一枚の便箋を握りしめている。


「朝から一体何事だ。何をそんなに慌てている?」


父であるルドルフ・トリスタン公爵はその厳しそうな顔面をさらに深くしかめた。セシルはその様にさらに怯えを強めながらも、絞り出すように告げる。


「お…お嬢様がこれを残して消えてしまいました」。


怯えながらセシルが差し出したのは先ほどから震える手で握り締めていた白い便箋。

それを無言で受け取った父はその中身を改めながら、ワナワナと手を震わした。


「あんのぉバカ娘がぁッ!!!!」。


 その剣幕に何かを感じとった母は横からその手紙を奪うとその内容を声に出して読み始める。


「親愛なるお父様、お母様、お兄様、そして私の半身ともいえるレオナルドへ。私レオノーラ・トリスタンはどうしても王太子アルフレド・グランディス様との婚姻は嫌です。このままでは私の人生すべてお父様の思うままにされてしまう。そんなのは耐えれません。私には私の人生があります。このまま、私の人生を蔑ろにされて生きていくくらいなら、レオノーラ・トリスタンの名を捨て自分の思うままに生きみたいと思います。お父様、お母様、そして兄様、レオ。今までお世話になりました。これからもどうぞお身体に気をつけてお元気でお過ごし下さいませ。  レオノーラ・トリスタンより」。

 

 すべてを読み終えた母は呆れた様に頬に手をあてて呟いた。


「あらまぁ。どうしましょう」。


手紙の内容を把握しているはずなのにその声は存外呑気なものだ。


「何がどうしましょうだ!すぐにレオノーラを探すのだ!王太子との婚約を今更こちら側から破棄になど絶対出来ん!」。


 父は今にも卒倒しそうな様子で執事のバートンに怒鳴り散らした。そんな父を宥めながら母が言う。


「でもねぇ、そんな大々的に探しまわれば、王太子の婚約者でありながら、その地位を放棄して出奔した事が世間に知られてしまいますわねぇ」。


 母がため息混じりにそう言うと、兄のギルバートが「確かに」。と相槌をうつ。


 誰にも気づかれない様に探しだなさくてはならない以上、そう簡単に見つけるのは困難な気がする。何せあの姉の事だ。そうそう見つけ出される様なヘマはしないだろう。

 姉は抜け目がない。やるからにはしっかり勝算を揃えたうえで行動に出る。姉はそういう性格である。そして強情だ。一度決めたら、テコでもその決定は覆すのは難しい。嫌だと言えば何をどうしても折れない。そういうところは目の前で卒倒しかかっている父によく似ていた。

 それ故か、姉は父とは折り合いが悪い。似たもの同士反発し合う事が多かった。だが、父に似ているからこそ能力も高い。彼女ならその能力の高さで公爵令嬢という地位をすててもきっと一人で暮らしていけるだろう。


 そんな事をぼんやり考えていると、


「でも困りましたね、この婚約は半ばうちがゴリ押しでまとめた様なものですし、今更破棄したいなどとは言えませんよね。それに2週間後にはレオノーラもレオナルドも王立学園への入学が決まっています。王太子の婚約者が行方不明というのは…」。兄が神経質そうな顔立ちをさらに際立たせ、こめかみを抑えながら言った。

 

その言葉を聞いた後、少し思案したらしき母がポンと手をうって明るくこう言った。


「それならば私に良い案があるわ」と。




 目の前でこともなげに計画を話しているプリシラ・トリスタン公爵夫人は今年で40歳を迎えたというのに、年齢を感じさせぬほどに若い。その口から繰り出す声も仕草も、未だ少女のような軽やかさがある。普段からおっとり、ぼんやりしていて、頭の中にはお花畑があるんじゃないかと時々思わずにはいられない。そんな彼女が自信満々に口にした計画、


「しばらくはレオナルドがレオノーラになれば良いと思うの」。とても良い考えだと手をパチンと合わせて彼女は言った。


「こちらから婚約破棄が出来ないという事なら、王太子から破棄していただかなくてはならないし、その為にレオナルドがレオノーラのフリをして、徹底的に王太子に嫌われる悪役令嬢になれば良いのよ‼︎」。といたずらっぽい瞳を輝かせた。


「王太子からの婚約破棄といえば悪役令嬢!これしかないわ!」と

 


…そういえば母は最近王太子に婚約破棄される悪役令嬢ものの小説にハマっていたんだった…。


「馬鹿を言うな!そんな事できるわけがない」。


 父が母の案を考える間もなく一蹴すると、それまで穏やかなお花畑の少女の様な母の雰囲気がガラリと変わる。


「あら、でも元はと言えば貴方が娘の話も聞かずに権力の為にこの婚約を無理矢理押し通したことが原因ですわ。あの子の事ですし、見つけたとしても大人しく王太子に嫁ぐとも思えませんし。これ以上の騒ぎにしない為にも王太子に婚約破棄してもらうのが一番ですわ」。


 その可愛らしい顔に氷の様な微笑を貼り付けて母は言う。やばい。母のこの氷の微笑が出る時、それは母のスイッチが入った時だ。滅多な事では入る事ないこのスイッチだが、このスイッチが入った母はトリスタン公爵家で一番恐ろしい人となる。

 もともと隣国の皇女であった人である。凛とした有無をいわせぬ圧力を作り出す事がとにかくうまい。身分的にも父より上だった過去がある。結婚して数十年経ったいまでも実のところの力関係は母の方が上なのだ。


「し…しかしだなっ」。母のスイッチが入った事に気づいた父はモゴモゴと言い訳をするばかりですでに戦意を喪失している。

 あの父がこうなのだから、当然ながら俺が彼女の意見に否と言えるはずがないわけで。



 母の有無を言わさぬ悪役令嬢案が採用された結果が今のこの状況というわけである。

 俺も男だ!(こんな格好でいえることじゃないかもだけど)やると決めたからには完璧な悪役令嬢を演じて是非とも王太子に婚約破棄を言わせてみせる!

 というわけで、俺は今王太子と仲の良い庶民出身のリーナ嬢を虐め抜いている。彼女はこの貴族専門の王立学園の中で数少ない庶民出身だ。

 珍しい光の精霊の加護を受けた聖女だかなんだかで、特別枠で王立学園入学を許された変わり種である。

 グランディス王家が彼女の後見人となっていることから、当然アルフレド王太子とも仲が良く、彼も何かと彼女を気遣い側にいる事が多い。

 そこはやはり悪役令嬢として黙って見ているわけにはいかないのである。この可愛い聖女様を虐め抜いて是非とも王太子に嫌われなければ。


「聖女だかなんだか知りませんけれど、所詮は庶民の出、貴方とは住む世界が違う事を理解していただきませんと困りますわ」。口元に手をあてて高らかに笑ってみる。


 どうだすこぶる嫌なやつだろう。自らの悪役令嬢っぷりに満足しながらリーナ嬢を見下ろすと、彼女は可哀想に青ざめてプルプルと震えている。



……可愛い。可愛いがすぎるぞ。なんだこれ。


一年生のなかでも一番の小柄な体型と彼女の控えめな感じが、どうにも小動物を連想させる。

 ここだけのの話俺は小動物に弱いのだ。

だから、こうして彼女を虐めるのは本当のところ胸がとても痛む。虐めるよりもむしろ抱きしめたい衝動に駆られるくらいだ。

 これは王太子が可愛がるのも無理はない。


 

 アルビノと言われる白き外見の特徴を多く持つリーナ嬢は、美しいというよりは可愛いらしいという表現の方がしっくりと収まる。

 フワフワと緩やかにウェーブのかかった白銀のロングヘアーに白くて透き通るような肌。ぱっちり大きなつぶらな瞳に白く艶めく長いまつ毛。頬はほんのりピンク色(俺の前では大抵青ざめているのでなかなか見れないが)。唇は小ぶりながらぽってりと紅い。初めて彼女を目にした時から俺の中に強烈な印象が残った。

 あのフワフワの髪に触れてみたい。あの白い首もとに顔を埋めてみたい。そう思わずにはいられない。が、しかしだ。俺は彼女を虐めなければならない。なんだこれ。すごく苦しい。


 そして今、俺は王太子と彼女を引き裂くべく本気で彼女を虐めている。何故かって?それはたぶん王太子と彼女が笑いあっている姿が自分で思っていた以上に苛立たしかったからだ。


「震えてばかりいないでなんとか仰ったら?」。

両腕を胸の辺りで組んで、リーナ嬢を睨む。


「も…申し訳ございません。で…でも、わ…私べつにレオノーラ様と殿下の間を邪魔するつもりなどありませんから」。可哀想にリーナ嬢は消え入りそうな声で答える。


ああっ!! 出来ることなら今すぐ抱きしめて安心させてやりたいくらいなのにっ!


 

 公爵令嬢と聖女の剣呑とした雰囲気を遠巻きに他の生徒がジロジロと見ている。良いぞ!!

 俺の悪役令嬢っぷりをしっかりと目に焼き付けて、王太子に告げ口するんだ。頼んだぞ!!


「まぁ、わかっていただけてるならよろしいのですわ。貴女も婚約者のある殿方とあまり仲睦まじそうに接するのは改めた方がよくてよ。これからは気をつけて下さいませ」。

ふんっと顔を背けてその場を後にする。


 だってこれ以上は自分が耐えられそうにない。絶対に彼女を抱きしめてしまう自信がある。

 王太子もこんな可愛いのがそばにいたら…やばいんじゃないかと思う。

 

 王太子とリーナ嬢がくっつけば当然レオノーラとの婚約は破棄されるはずなので、本当ならそれを望むべきなのに、どうにもモヤモヤする。

 

 リーナ嬢が王太子のものなるなんて。いくら公爵家の今後のためだとわかっていてもどうにも納得がいかないのだ。



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