花子と口裂け女の女子会
ここは妖怪の集まるバー。
今宵も集まった妖怪たちだがお互いに悩みがあるようだ。
そんな妖怪たちの集いを少し覗いてみよう。
「花ちゃん、おひさー!
元気にしてた?」
「クッチー久しぶり。
そのマスクどうしたの?」
オカッパ頭に白いシャツと赤いスカートを履いた少女、花子はいま店に入ってきたコートにマスクを付けた女性に話しかける。
花子の記憶では白いマスクは女性のトレードマークであり、彼女を口裂け女足らしめるマストアイテムだったはずだ。
だが、今日の口裂け女は唐草模様のハンカチに紐を通してマスク代わりにしていたのだった。
「それが何処に行ってもマスクが売ってなくって。
自分でマスクを自作する方法ってのを検索して何とかって感じよ。
でも、普段ハンカチとか持たないから何かないかって探したらこれが出できたのよ。
獅子舞がお祝いに配ってたハンカチがね」
「それさ〜あの人気漫画のファンだと誤解されない?
子供たちは寄ってきそうだけど」
「そりゃ間違われるわよ。
街を出歩けば熱心な漫画のファンだと思われて生暖かい目で見られ、子供たちは寄ってくるけど綺麗じゃなくて格好いいって言うのよ!
私、格好いい?
なんて尋ねる口裂け女が何処にいるって言うのよ!!」
段々と声が大きくなり髪を振り乱しながら叫ぶ口裂け女。
そんな彼女を冷めた目で見ながら花子は声をかける。
「まぁ、落ち着きなさいよ。
現代社会に対応できない妖怪なんてゴマンといるんだから。
あ、マスター。
とりあえず彼女に何か落ち着ける飲み物を」
「あ、ありがとう花ちゃん。
花ちゃんも何かあったの?」
「最近私のいるトイレが改装されたのよ……ウォシュレットが付いて鳥の囀りや川の流れる音もするようになったわ。
ねぇ、どう思う?
とても清潔なトイレの中から鳥の囀りと川のせせらぎをBGMに現れる妖怪。
何処に怖さがあるって言うのよ」
「ふーん、花ちゃんも大変なのね。
じゃあ赤マントさんなんかも……」
「こんな環境にいてられるかって消えてったわ。
今頃何処で何をしているのかしらね」
何となく暗い雰囲気になり黙り込む2人の前にドリンクが置かれる。
「はぁ〜やめやめ!
とりあえず乾杯しちゃおう」
「そうね、久しぶりの再会にかんぱーい!」
2人はグラスを軽くぶつけ合ってから口をつける。
一口飲んで気分が落ち着いたのか、口裂け女はテーブルに置いてある花子の私物に気付いた。
「あら、花ちゃん携帯なんて持ってたの?」
「ああ、これね。
何かカッパの連中が試作だから使ってくれって」
「え?カッパ達っていまこんな技術あるの?」
「なんか人間達の間でカッパは凄い技術を持ってるみたいに噂になったんだって。
いつまでも相撲に尻子玉抜いてる場合じゃないから、噂を本当にしてやるって勉強したみたい。
でも、売り出すつもりは無いから使ってみてくれって」
「私もスマホ持ってるけどネット通販に使ってばかりかなぁ。
それでもマスクは手に入らないんだけど」
「その内入荷するようになるわよ。
間違っても高騰してるようなマスクは買わないことね。
それよりも……ネットって調べると色んな情報が載ってるじゃない。
もちろん、私達妖怪の話も」
「そうだよね。
私の場合はポマードとかの話も載ってたっけ」
「そうやって自分たちの事を調べると色々出てくるから面白くて調べたんだけど………最近めっちゃ後悔した」
「え?なんで?
酷いことでも書いてあった?」
「むしろ逆よ。
可愛いとか愛せるとか……妖怪ってそう言うもんじゃ無いでしょうに。
果てには欲情している人間まで出てきてるのよ」
「まぁ、花ちゃん可愛いから仕方ないんじゃない?」
「なに呑気な事言ってるのよ。
クッチーにもそういう人達いっぱい居るのよ。
ほら、これ私がお金出してダウンロードした漫画読んでみ」
「ええ……どれどれ?
………これ、私犯られちゃってるじゃん。
え?なんで???
口が裂けてる女なんて嫌でしょ?」
「ところがどっこい。
そこが魅力とか、その部分含めて愛せるとかの意見もあるわよ。
どうする?
ビビらせる為にマスク取ったのに
めっちゃ美人です!結婚してください!!
って真っ直ぐな瞳で見られたら」
「ええ……こまっちゃうなぁ」
「照れてんじゃ無いわよ!
クッチーは純愛でいいわよね。
私なんておっさんの霊媒師に悪霊退散って犯られてんのよ。
しかも、この前それがアニメ化までされてるの知って………なんで日本人はトイレの花子でそこまで欲情出来るのさ!」
「私たちは比較的人間に近いからねぇ。
でも、流石に化け物姿の妖怪とかでその手の話は無いでしょ?」
「甘いわよ、クッチー。
これ見なさいよ。
最近流行りのモン娘ってやつよ」
「え?ええ??
これで欲情出来ちゃうの?
怖いわ〜人間怖いわ〜」
「私も怖くて人間の前に出られないわ。
何で私たちの方が恐怖を感じちゃってるのよ」
「もういっそのこと怖がらせるのやめてコンビ組んで愛されキャラ狙うとか」
「今ならそれもありかもね。
いっそバーチャルデビューでもしてやろうかしら」
「あれ私もたまに見てるけど妖怪モチーフ結構いるよね?
既にトイレの花子さんに口裂け女がいてもおかしく無いんだよなぁ」
「鬼とか鴉天狗とか悪魔とか何でもいるからね。
私たちどうせ部屋に引き篭もってるならそんな活動しても良い気がするんだけど」
「追加のドリンクだよ!」
「マスター……ってか、山姥も話加わりなよ。
どうせ、今日は他に誰も来ないでしょ」
「っていうか、何で街でお店やってんのよ。
山姥なのに山はどうしたの?」
「今の山ってのは所有権がどうこう言ってうるさいんだよ。
おまけに空に衛星なんて打ち上げて逐一観察してるから、怪しい小屋が山にあればすぐにバレっちまうんだよ」
「そもそも迷い込んだ旅人なんて今の時代いないでしょうしね」
「あっ、そうか。
山越えて旅する人間なんていないよね。
車でブーンって」
「そう言う事。
山の道路でヒッチハイク組はまだ頑張ってるみたいだけど今後はどうなるかねぇ」
「それで諦めて妖怪相手の飲み屋始めるってある意味先見の明があると言えばいいのかしらね」
「いいな〜そうだ!
私もここで雇ってよ」
「そんな余裕は無いよ!
短縮営業しろって言われて夜中まで開けれないんだからね」
「世知辛いわ〜妖怪酒場なのに夜9時までに閉めなきゃいけないとか」
「そこからが活動時間って言ってもいいのにね」
「分かってんならそれ飲んだらサッサと帰んな。
もうラストオーダー過ぎてんだからね」
「あ、もうそんな時間?
話してるとあっという間だわ」
「本当にね〜あ、花ちゃん。
番号交換しよう」
「そうね、また機会があったらこうやって女子会開きましょう」
「今度はまた別の誰かを連れてきてね。
じゃあ、山姥ちゃんご愛想〜」
「はいよ、また来な!」
こうして彼女達は各々の持ち場へと帰っていく。
現代社会……妖怪達の生活も変化しているようだ。