表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

5/5

第5話 もう帰りましょう

挿絵(By みてみん)


 長かった、かれこれ30分はやり合っていたような気がする。

 戦いは騎士団長二人の勝利に終わった。

 ぶっちゃけ、いい年こいた男性が素手で女の子を殴り倒す絵面はかなり印象が悪かった。

 やはりアイドルは少し遠い存在の方がよいようだ……


『はあ、はあ、かなり手こずったな』

『ああ、そうだな、だがな、カイル……』

『?????』

『いい汗かいただろ?』


挿絵(By みてみん)


 ザクナール様はカイルライン様に爽やかな笑顔を見せる。


『いや、昔から言ってるけど、ホントそういうのいらないから……』


 カイルライン様は疲れ果てた様子だ。


『グググぐ、あんたらね、よくもか弱い女の子を痛めつけてくれたわよね』


 女の子達はヨレヨレしながら距離をとる。


『あんた達なんてタッくんにかかればイチコロなんだから! 覚えてなさいよ!』


 そんなありきたりな捨て台詞を吐き女の子達は城の方へと逃がれて行った。

 それを見届けると騎士団長二人は倒れ込む。


『はあ、はあ、かなりキツい、あの二人相当のもんだぞ』

『すみませんヒサメ殿、回復魔法をお願いします』

『了解っと』

『はあ、助かったぜ』

『ヒサメ殿が居なかったら引き返していましたね』


 確かにあの二人の女の子相当の魔力だった、こりゃタッくんもかなりの腕前とみるべきだろう。


『それでは回復も終わったので先に進みましょう』


挿絵(By みてみん)


 私達は城へと向かう。

 あの畑からさらに歩くこと10分程、城の門前へと辿り着いた。

 あれからなんの反応も無いがさてどうするか……


『鍵も掛かっていないぜ』


 ザクナール様が大仰な貫木を鞘で突きながら辺りを見渡す。

 そうこうしていると内側から門が開いた。


挿絵(By みてみん)


 ワラワラ

 !!!!!!!


 女の子。


 また女の子。


 ゾロゾロと何十人か女の子が出てくる。

 あ、さっきの畑の女の子もいる、しかも見るからに先程のダメージが無くなっている。


『さっきはよくも痛めつけてくれたわね、言っとくけどここにいる全員、私並に魔力があるから今度は覚悟しなさいよ!』

『流石に今度は抜かねばならぬようだな』

『ああ』


 二人が剣に手をかけたその時だった―――


『やめろ! 君達! その人達の相手は俺がする!』


 誰だ? 広範囲に魔力で拡声した声が響く。


『タッくん!』


 ―――ザワザワ―――


 女の子達が色めき立つ。


『いいの! タッくんの露払いは私達にさせて!』

『いや、君達の目の前にいる女性』


 一斉に女の子達の視線が私に向く。


『彼女は君達の手に負える相手では無さそうだ』


 女の子達の奥、城の怪しげな魔道士はついに姿を現した。


挿絵(By みてみん)


 なんだ?

 歳の頃はハタチ前と言ったところか、男性にしてはかなり背が低い、私とあまり変わらない。

 髪は短くスポーツ刈りのような髪型をしている、しかしなによりその格好が異様だった。

 そう、この世界では異様なTシャツに短パンそしてスニーカー。

 見るからに元の世界の格好をしている。


『お前もか、見るからに安そうなそのメガネ、赤〇堂かメガネ〇場と言ったところか……』


 タッくんはそう呟いた。


『あんたもその如何にもなユ〇クロ装備』


『『あちらから来た者!』』


 二人の声がハモった。


『ヒサメ殿! あちらから来た者とは……』

『私の故郷から来たという意味ですわ』


 かなり掻い摘んで説明をする。

 さてと、色々とコイツには聞きたいことがてんこ盛りだ、さて何から質問しようか? 普通に会話出来る相手だといいなあ。


挿絵(By みてみん)


『つまりアンタあの日、あの場所に居たってこと?』

『そうだ、あの日、俺はビックサイトに居た、お前もどうやらそのようだな』

『サークル参加?』

『ああ、東のH6ジャンルは創作成人向けって、その情報今いる?』


 あ、こいつ18歳は超えてるみたいだな、しかもなかなかノリもいい。


『ところでアンタなんで城なんか占拠してるのよ?』

『いや、なんか流れで……』


 流れってなんだよ……


『なんかこっちの世界に来たら、女の子に好かれまくるスキルを与えられたみたいで、あれよあれよと言う間に今の状況になってしまったんだ』

『は? スキル?』

『そうだ、ビックサイトからこっちの世界に来て、気が付いたら草原に……』


 私と同じだ!!!


『そしたら、すぐ傍にお爺さんが立っていて、なんか成功じゃーーって叫び出して……』


 は? 成功?

 あれ? 私の時は確か失敗したーーって涙流してたような……


『爺さんが言うには俺の願いを叶えてやったから、こちらの世界で好きに生きろと、正直俺、あんまり女の子にモテたこと無かったから、女の子にモテたい願いを叶えてくれたんだと思う』

『タッくんが女の子にモテ無いなんて信じられない! ねーー!』


 畑の女の子の呼びかけに一斉に他の女の子が頷く、そうか魔法じゃなくてスキルなのかこれは、どうりで魔力を探っても何も解らない訳か。


『お前は何の願いを叶えて貰ったんだ?』

『あ、え? その、何も……』


 タッくんは驚いている。


『は? 何も?』

『そう、何も、お爺さん失敗したって……』


 タッくんは腹を抱えて笑っている。

 くそう! あのジジイ! あの時もしかして私の願いを叶えるのを失敗してたのか!

 確かにチッパイとか言ってたし、私のささやかな、せめてCまで成長したいという願いを!


挿絵(By みてみん)


『ヒサメ殿どうしたんですか? まだ戦ってもいないのに涙を流して』

『いいえ、カイルライン様、この涙は気にしないで下さい、世が世なら私がナイスバディに……』

『アハハハ、これはご愁傷様』


 タッくんは結構本気の憐れみを含んだ眼差しを私に向ける。


『ま、まあ、いいわ、それでアンタこれからどうするの? あっちの世界に戻るつもりなの?』

『そうだな、帰りたいのはやまやまだが正直帰る方法も分からんし、女の子達の面倒も見なくてはならないから暫くここでスローライフでも送ろうと考えている』

『アンタ、この城は国の物だからそれは駄目でしょ』

『そんなこと言われても他に行く場所も無いし、それにこの子達も元は孤児で食べるにも苦労してたんだよ、だから俺が面倒を見ないと』


 タッくんは女の子達に視線を移す。


『何なのよあの女! タッくんと何やら親しげに話して許せないわ!』


 女の子達の視線が痛い。

 いや、全然趣味じゃないから君らからタッくん取らないから。


『えーーと、じゃあ結論としては』

『ああ、この城は明け渡すつもりは無いな』


 交渉決裂。

 異世界転移してスローライフ送りたい魔道士と戦うことになるとは!


『ヒサメ殿!』

『カイルライン様、交渉決裂、戦闘開始です』


 タッくんは私達と距離をとる。


『君達も離れていろ!』

『タッくん頑張って!』

『ああ、任せてくれ! 君達の為にも負けはしない!』


 タッくんは女の子達に微笑む。


『きゃーーーーー!!! タッくん!!!』


 女の子達はタッくんにメロメロメロンパンだ。

 ああ、なんか疲れるなこのやりとり眺めるの……


『長話は終わったよな?』


 ザクナール様とカイルライン様は素早くタッくんとの間合いを詰める―――

 タッくんは呪文すら唱えないで二人を凝視した。


 どん!!!!


挿絵(By みてみん)


 走っていた二人は地面に叩きつけられる。


『ぐ、ぐお、こ、れは……』

『今、お前達の体重を10倍程にした』

『く、これは動け……』


 どうやらタッくんは重力系の魔法が使えるらしい。


『ふっ、俺は爺さんに、女の子にドチャクソモテるスキルと重力系魔法を極める魔力を与えられたのだ、体重10倍はかなりキツいだろ? 全身にダメージがあるはずだからもう降参しろ』

『きゃーーーーっ!!! タッくん凄い!!!』


 女の子達の黄色い声援がとぶ。


『そこの女、お前もかなりの魔力を貰ってるんだろうが重力系魔法を極めた俺には勝てない、俺は女を痛めつける趣味は無い、見逃してやるから帰るんだな』


 はあ、やれやれ。


 私は右手の平をちょうどタッくんが重力を向けている方向と反対に向ける。


 どん!!!!


『??????』


 そして左手の平を這いつくばる騎士団長二人へと向ける。


『か、体が、痛みが引いていく』


 カイルライン様とザクナール様はすくりと立ち上がった。


挿絵(By みてみん)


『馬鹿な!?』

『ゴメンね、さっきの話、まだタッくんに話してない部分があるんだわ』

『何だと?』

『あの爺さん、失敗したーーって言った後に、パラメータ間違えたーーって言ったのよね』

『なっ!?』

『アンタの話聞きながら色々考えたのよ、たぶん私はアンタと違って、願いを叶えてもらえなかったのよね、残念だけど……』


 私は両手をタッくんに向ける。


『その代わり、どうもその願いの分、私はアンタより強力な魔力を貰ったみたいね』


 私はあえて重力魔法をタッくんに放つ。


 ドッ!!!


挿絵(By みてみん)


『ぐぐぐ! やるな! 俺の最大魔力をぶつける!』


 タッくんが呪文を唱えると同時にカイルライン様とザクナール様が派手に吹き飛んだ、しまったカバーし忘れたわ、ごめんちょ。

 タッくんから向かってくる魔力はかなりのもんだが……


『うーーん、タッくんこれ最大値?』

『最大だ!』


 私は何故か少し悲しくなった……


『そうかーーじゃあ終わりにするわね』


 片手でタッくんの呪文を受け止め、もう片手で雷の呪文を唱える。


『ば、馬鹿な! 同時に二つの呪文を!?』


 そして私がタッくんに雷を落とそうとしたその時だった―――


『タッくん!』


 畑の女の子がタッくんを庇うために飛びこんでくる。


『ミリィ!』


挿絵(By みてみん)


 タッくんは女の子を庇って覆い被さる。


『ふう』


 私は雷の呪文を止めた。

 突然呪文を止めた私にタッくんは戸惑っている。

 暫くの沈黙――――


挿絵(By みてみん)


『――――何故だ?』

『いや、流石に女の子庇う奴は雷で撃てないでしょ』

『いいのか? オマエも理由があってここに来たのだろう?』 


 うーーん、いいのかしらん?


『カイルライン様ーーザクナール様ーー、大丈夫ですかあ?』


 私の呼びかけに二人とも手を振って答える。

 二人ともかなり派手に吹っ飛んだが大丈夫みたい。

 二人に駆け寄りすぐさま回復呪文を唱える。


『ふう、ところでヒサメ殿、戦いは……』

『戦いは私の勝利です、ところでカイルライン様、お願いがあるんですけど……』

『何ですか唐突に』

『このお城私に下さい』

『は?』


 カイルライン様は動揺している。


『いや、ヒサメ殿の頼みでもいくらなんでも無理ですよ、それに一体どうしたんですか?』

『なんかあの魔道士悪い奴じゃないみたいですし、なんでもここで孤児の面倒を見てるらしいんですよ』

『はあ……』

『と言うわけで、いっそここを孤児院にしてしまおうかと、こんなに孤児が溢れるなんて国の責任もあると思いますよ』

『いや、流石に私の一存では決めかねることかと』


 カイルライン様煮え切らんな、まあ無理ないか。

 私はタッくんに駆け寄り横に立ち肩組みをする。


挿絵(By みてみん)


『おっ、おい』

『いいから、いいから肩貸して』


 なんか恥ずかしがっとるなコイツ、本当に女慣れしとらんな、まあ私も男慣れしとらんが。


『私の願いが叶えられないなら、このタッくんと組んで国を攻めますがよろしいでしょうか?』

『えーーーーー!』

『ハハハハ、こいつはヤバいな!』


 ザクナール様が高笑いをする。


『ほらカイルライン様もリィズちゃんの酒場で言ってたじゃないですか、割りが合わないって、損得で考えて下さい』

『カイル! 俺も一緒に上に掛けあってみるから、なんとかやってみようや』


 ザクナール様は了承してくれそうだ。


『城を孤児院にですか、戦時は攻められるかもしれませんよ?』

『それはタッくんがなんとかするでしょ?』


 私はタッくんの腹を軽くこつく。


『イテッ、ああ、ここを守るくらいなら』

『はい、じゃあ決定、私達は帰るから』


 あっさり帰る宣言した私にタッくんは戸惑っている。


『おい、なんでそんなに肩入れしてくれるんだよ』

『まあ、同郷のよしみよ、アンタの力は今後何かと使えそうだしね、それに同じ趣味を持つ者同士仲良くしましょ』

『いや、俺はオマエの趣味知らんが』

『あーーその成人向け同人誌をこよなく愛すというか』

『ああ、もしかしてオマエもサークル参加して成人向け本作ってたのか?』

『ま、まあね』

『どうせ同性愛の本でも描いてたんだろう』

『………まあ、内容は置いといて、帰る方法の手がかりとか分かったら連絡ちょうだい』

『ああ、まあ暫くはのんびりするけどな』

『そう、あんまり悪さしちゃ駄目よ、じゃあね、バイバイ』


 私達は城を後にした。


『あのオタク女、元の世界にもあんな性格の良い女いるんだなあ……』

『あっ、タッくんもしかしてあの女魔道士のこと!』

『え! 違うってそんなんじゃ無いって!』

『怪しいーーきいーー』


 行きと同じように、ふよふよ浮きながら私は帰る。


挿絵(By みてみん)


『はあーーっ、結局城は取り戻せず、いや一応ヒサメ殿のチカラで取り戻せたのか?』


 カイルライン様はため息を吐く。


『しかし孤児院って何処に話を持っていけばいいのか、民生課なのかなザクナール?』

『ああ、多分民生課か地域課かどっちだろうなあ』

『本当にこれで良かったんだろうか?』

『カイル、あの城の魔道士とこのヒサメ、二人ともとんでもないチカラを持った魔道士だ、城一ついや、国一つの価値があるかもしれん、我が国は大きな力を得たのだ』

『まあ確かに』

『ヒサメ、多少は国のために働く気はあるんだろ?』

『ういーーす』


 今回の件でかなりワガママ言ってしまったのであと何回かは国の言うこと聞かないかんなこりゃ。


『はあ、流れで城一つ貰ってしまったし流石に図書館に入る権利は貰えないかなあ……』


 チラチラと、カイルライン様に目線を送る。


『いえ、ヒサメ殿が今後も国の為に働いていただけるなら図書館の件は考えましょう』

『え? いいんですか?』

『その代わり国の魔道士として登録させて頂きます』


 うっ、なんかめんどくさそうだなあ……

 しかしやっぱり元の世界に帰る為にはあの草原の爺さんを探さないと、とりあえず今回の件で分かったのはあの爺さんは私以外にもビックサイトからこちらの世界に人を召喚していることか……

 それが分かっただけでも今回戦った意味はあったのかな?

 城の方からはなにやら楽しそうな声がここまで響く。


『タッくん! 私たち妻以外の女にうつつを抜かすのは許さないからねーーー』


 なんのこっちゃ……

 まあ、孤児の集まりだと言っていたし、タッくんと一緒の方が酷い目に遭うことはないだろう。

 さてと私は図書館に入れそうだし、暫くは本の虫となりネタを集めようか。


『むふふふふ』


挿絵(By みてみん)


 私はこれからの読書三昧を想像し悦に入るのであった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ