第4話 鍬持った女の子には気をつけましょう
翌日、郊外の城に向かうため城壁の外で待ち合わせをする。
当たり前だが王都は外周を塀が囲み入口と出口には門番が立っている。
あまり人に見られたくないのかカイルライン様は街を出て1キロ程の街道標識を待ち合わせ場所に指定した。
時間通りに標識に腰掛けていると二人の馬の足音。
あ、ほんとにザクナール様だ
私は腕を顔の高さまで上げて軽くお辞儀の様な動作をする、なんか知らんがこちらの世界ではこの動作が偉い人に会ったときにする作法らしい。
『あ、ああ、別にいいぜ、そういうの』
おおお、初めてザクナール様に声を掛けられたわ。
『ヒサメ殿、今回の討伐は私が民間人の貴方に無理を言ってお願いするのです、堅苦しい挨拶は無しですよ』
そう言いながらカイルライン様は馬から降りて地図を見ている。
『全く、久しぶりの休暇なのに、カイルの尻拭いをしなきゃならんとはな』
『すまんな、この借りはいつか返すよ』
二人は馬から降りて談笑している、これはまたシャッターチャンスかもも。
少し離れた所からカメラのフレームを手で作って撮影する。
『ヒサメ殿? なんですか? それ?』
『これは光の妖精さんを使って記録を残しているのです』
『光の妖精で記録?』
『ほら、こんな感じですよ』
指で作ったカメラのフレームに今撮った画像を映す。
『す、凄いですねこの魔法は』
『ああ、こんなの初めて見たぜ』
二人はかなり驚いている。
このカメラ魔法、光の妖精さんも初めてお願いする時かなり困惑してたからなあ、こんなことやったことねーーよみたいな。
『ええと、ナカジマヒサメだっけか名前?』
『え、あ、はい』
『俺は今後お前をヒサメって呼ぶから、お前も俺のことはザクでよろしくな!』
ザクナール様はそう言いながら私の肩をパンパン叩く。
え? ええのん?
うーーん、けどイキナリ、ザク! は何だか恥ずかしいよね。
『いや、私は今後もザクナール様とお呼びします』
『な、なんでだよ……』
ザクナール様は戸惑っている。
『いや、なんかアイドルは少し距離が遠い方が良いので』
『アイドル?』
『はあ、まあ私の気持ちの問題ですわ』
そんなたわい無い話をしながら討伐はスタートした。
道中、二人は馬で移動、もちろん私は馬なんて乗れないので飛んで移動となる。
馬はあまり早く移動出来ないらしい、普通に歩くだけなら人間が歩く速度と変わらんみたい。
『ヒサメ殿、ずっと飛行してますが魔力は大丈夫なんですか?』
飛行と言うか浮遊に近い速度なんだが、ずっとフヨフヨ浮きながら移動するのは普通ありえないわな。
並の魔導士なら魔力がすぐ切れる。
『あはは、私は特別製なんで大丈夫なんですよ』
『そうなんですか、いつも地面から浮いて移動してるんですか?』
『いや、街中では普通に歩きます……』
『ですよね』
流石に目立つので普段は普通に歩くわいな。
2時間程浮くと城が見えてきた。
なかなか立派なお城やな。
『昔はこの辺りが国境線だったのですが、国が広がり用済みとなったので軍隊の資材置き場にしていたのです、今では怪しい魔導士の住処に……』
『怪しい魔導士、まだなんの反応もないですね』
まだ結界も敷かれていない、凄腕魔導士ならもう警告とか何か反応があってもよい距離だ。
『もう少し近くに行ってみましょう』
暫く進むと畑が見えてきた。
畑には女の子が二人、鍬を持って土をいじっている。
歳の頃は二人とも10歳くらいだろうか?
『あの子達に話を聞いてみましょう』
『大丈夫ですか?』
『モンスターやアンデッドには見えませんし、もしかして囚われているのかも』
カイルライン様達は馬を降りて二人に話かける。
『あの、そこのお嬢さん達、話を聞いてもよろしいでしょうか?』
『はいどなたでしょうか?』
『私はこの国の騎士団長を務めるカイルラインと申します』
『騎士団長!』
『ええ、それであそこの城の魔道士をって、うわ!?』
女の子はイキナリ鍬をカイルライン様に振り下ろした。
『な、な、な』
流石カイルライン様、鍬をすかさずキャッチ。
『な、な、なんの真似ですか?』
『あんたら、タッくんの敵ね!』
『タッくん?』
『そうよ! あんなに沢山の兵隊を返り討ちにしたのに、まだ懲りないみたいね!』
『くっ! 城の魔道士の手下か!』
『手下? とんでもない! 私達はタッくんの妻よ!』
『私達? 妻?』
カイルライン様は鍬を振り払い女の子と距離をとる。
『女の子に襲われたなどと、戻ってきた兵士の報告には無かったが……』
うーーん、返り討ちの兵士達、記憶操作されてるかもなあ。
『私達はタッくんと静かに暮らしたいだけなのに、なんで貴方達は邪魔するの?』
なんだ? 今流行りのスローライフやりたいやつか?
『いや、あの城は国のものですから』
カイルライン様はロジハラで対抗する。
『何よ! タッくんが本気出せばこの国なんてすぐに征服出来るんだから、むしろ城一つで許して貰ってる事が分かってないみたいね!』
うーーむ、確かに、そのタッくんがこの国の軍事力よりも強大な魔力を持っているならありえる話か……
しかしこのタッくんてなんか元の世界のあだ名感あるなあ……
『ヒサメ殿、どうですか? あの二人から何か感じますか?』
『実は先ほどから色々探っているんですけど、なんか魔力で洗脳されてる感じはしないですね、けど……』
『けど?』
『ほら、カイルライン様、あちらを』
『え?』
女の子二人は呪文を唱えている。
『たぶん魔力はだいぶ与えられてるみたいなんで、気を付けて下さい』
『はっ?』
『炎の雨!!!』
女の子達は炎の呪文を放つ。
カイルライン様とザクナール様は素早く対抗炎の呪文を唱えてそれを躱した。
『騎士団長やるわね!』
女の子が吠える。
『これは手加減出来る相手ではないようだな』
カイルライン様は剣を抜く。
『カイル!』
突然ザクナール様が叫んだ。
『なんだ? ザクナール!』
なんだなんだ?
『相手の魔力は相当のもんだが、流石に騎士団長二人が剣を抜いて女の子と戦うとあっちゃあ末代までの恥よ!』
『??????』
『ここは素手でいこうじゃねえか!』
『は、はあ?』
カイルライン様はかなり戸惑っている。
『しかしザクナール! あの子達かなり強いぞ!』
『うるせい! 俺は抜かねえ! さっきお前言ったよな? 借りは返すってその借りでいいからお前も付き合え!』
『わ、分かった(くっ! ザクナール連れてくるんじゃなかった!)』
『あとヒサメ! お前は手出しすんなよ!』
こうして鍬持った女の子二人と素手の騎士団長二人という異種格闘技戦が始まった。