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第1話 靴紐はしっかり結びましょう

『ヒサメさん! 今、それ、どんな状態なんですか!』


挿絵(By みてみん)


『ふふふふ、自分の漫画を公衆の面前に晒されて悲しいやら腹が立つやら、けどカイルライン様本人に朗読されるなんてむしろご褒美な状況で喜怒哀楽の感情がいっぺんに高まって上手く脳が感情を処理出来ないの……』

『大丈夫ですか……涙と鼻血となんか口から漏れてますよ!』

『うふふへへへ、大丈夫じゃないみたい、もう限界だから落ちるわごめんね……』

『ヒサメさん!』


 はばぶぶ……


挿絵(By みてみん)


『はあ、暑い、なんかおかしな夢見たな……』


 本当に暑い、日本って毎年暑くなってないか?

 まだ10時前なのにビックサイトの気温は容赦なく上がっていく。

 あまりの暑さにおかしな白昼夢見たわ……

 パイプ椅子に腰掛けテーブルの上に新刊を並べながらぼやく。


『ヒサメちゃん最初に出撃するんだよね?』


 相方のよっちゃんはおつりを数えている。


『そのつもり、確実によっちゃんが欲しいのはa-11さんと東京オーバーグラウンドさんだっけ?』

『そうそう、あとは穴でも買えるからあんまり優先順位は高くないんでその二つだけはよろしく』

『あいよ、さてと設営おわりんご』


 開場前の設営を終わらせてスペース両隣にご挨拶、本を交換して準備会には本を提出したから一通りのやることは終わった。


 パチパチパチパチ


 開会のアナウンスだ、なんだかんだでこの拍手が毎回楽しみ。


『それじゃ、第一陣出撃いたしますわ』

『戦果を期待します、ビシッ』


 よっちゃんは海軍式の脇を閉めた敬礼をする。


『あいよビシッ』


挿絵(By みてみん)


 よっちゃんに見送られリュックを背負い、今日この日の舞踏会のためにアルバイトで貯めた軍資金を胸に私は出撃した。


 なんだ? もたついてるな……


挿絵(By みてみん)


 お外に出るシャッターの前には行列が出来ている、誘導があまり上手くいってないようだ。


 最後尾に並んで暫く待つ。


『走らないでくださーーい!』


 上手く人が捌けてないせいか、みんな殺気立っている。

 いかんなこれは、出撃ゲートを間違えた可能性が……

 などと考えていると自分の後ろにもかなり行列が出来てきた。


『押さないでくださーーい!』


 シャッターの故障か?

 スタッフの動きをみるとどうも故障してシャッターが動かないようだ。

 一分一秒を争うこの時間に出ようと思ったシャッターが故障とは、今更ゲートを変えるわけにもいかない、しかし人がえらいことになってきた。

 しばらくするとシャッターが動きだした、だがお預けを食らった辺りのオタクの目はかなり血走っている。


 どん!


 ぐわ?


 なんか押されて、あっこら! 押すなー!


 例の物売るってレベルじゃねーーぞ状態だ!


『走らないでくださーい!』


 スタッフの叫び声が虚しく響く。

 みんな、落ち着け! 推しは推しても、ここで人は押すなーー!

 あっ!

 なっ! くっ、靴紐が、しまった! しかも誰か踏んでる!

 バランスが崩れて! あーー!

 どっ!

 ぐえっ!

 ぐわっ! チョット! ま、待て!

 どっ!

 あーー、チョット!

 ドタ! ドタ! ドタ! ドタ!

 あーーー

 す、すまん、よっちゃん、新刊、無理かもーー


 薄れゆく意識の中、浮かぶのは敬礼し見送ってくれる相方だった。


挿絵(By みてみん)


 落ちてゆく

 クライ、暗い、なんだろう?

 気持ちいいような

 なんだ?

 暗い底、泥が見える

 眠っている

 暗い海の底

 泥が眠っている……


挿絵(By みてみん)


『はっ! 新刊!』


 ガバっ!


 あっ、あれ?

 ここは……

 クラクラする頭で辺りを見渡す。

 そこは一面の草原。

 なっ! なんだ! これ?

 新刊は? ビックサイトは?

 あかん、あたまがまだおかしい。

 何度か頭をふる。


『ハアーー、失敗したあ』


 突然後ろから声が!


『うわっ!』


 振り返るとそこには髭を伸ばした背の低いお爺さんが立っていた。


挿絵(By みてみん)


 な? な? な? な?

 なんだ?

 お爺さんは私を見ながらため息をつく。


『ハアーー、失敗したあーー、チッパイ』


 チッパイ? なんだ?

 お爺さんは私の胸の辺りを見ている。

 チッパイ? なんだ胸のことか?

 確かに私は胸が無いが、なんだ急に?


『あのーー、もしもし?』


 私はお爺さんに声を掛けるが、お爺さんはそのまま何かブツブツ言っている。


『しかも、パラメータかなり間違えたーー』


 お爺さんはそう言いながら天を仰ぐ。

 パラメータ?


『仕方ない』


 お爺さんはそう言うと何やら服のようなものを手渡してきた。


『は、はあどうも』


 なんだこれ? 袖もないカーテンみたいな。

 あ、これ、もしかしてマントか?


『お爺さんこれ……』


 しかし既にお爺さんの姿はそこには無かった。


 辺りを見渡すがお爺さんの姿は無い。

 しかし一体ここは何処なんだろ?

 お爺さんに貰ったマント? を抱えて私は途方に暮れるのだった。


挿絵(By みてみん)


 一月後

 私はとある酒場の用心棒に落ち着いていた。

 いやまあ大変だった。

 なんか知らんが言葉は通じるし、気候なども元いた世界とあまり変わらない、まさにJRPGのような世界なのだがお金は無いし家もアテも無い。

 とりあえず持っていたナイロンのリュックを売り飛ばし路銀を得た。

 後から分かったんだが道具屋のおっちゃん、かなりの金額でリュックを買ってくれた。

 まあナイロン製リュックなんてこの世界には無いから珍しいんだろう。

 その後色々野盗に襲われたりして偶然自分が魔法を使えることを知った、しかもかなり強力に。

 こんなことになったのは草原の爺さんがかなり怪しいので探さなければならない。

 などと考えているが手掛かりも無いし、仕方なく酒場の用心棒をしているわけだ。


挿絵(By みてみん)


『ヒサメさん何を描いてるんですか?』


 酒場の若女将リィズちゃんが覗きこんで聞いてくる。


『ああ、これ? 漫画っていうのよ』

『漫画?』

『ほら、この口から出てる枠の中の文字が喋ってることになるのよ』

『へえ〜、面白いですね初めて見ました』


 こちらの世界にはフキダシなんて表現は無い、まあ珍しいわな。

 しかしこの紙、正確には羊皮紙なんだがくそ高い!

 感覚的には日本円で一枚5000円くらいだ、つまり何食分かの食事代くらいする。

 こちらの世界にも紙すきで作った紙もあるのだが洋紙のように綺麗に平らな紙は無い。

 仕方ないので羊皮紙のような皮を引き伸ばしたものを使っている。

 木枠に皮を張り、釘で周りを打ち、余分な部分をナイフで切ってようやく一枚出来上がる。

 裏と表があり毛の生えていた方がインクをはじくので、漫画を描くなら肉側の方が描きやすい。

 まあ勿体ないのでもちろん両面使うが。

 インクは現実世界とあまり変わらないものがあった、岩を砕いたり生き物のスミを使ったものだ。

 ペンは羽ペンを使う。

 この羽ペンをゲットするのも大変だった、私は右利きなので大型の鳥の左側の羽がいる。

 こちらの世界で最上級の羽ペンになる鳥はでかいハシビロコウみたいなモンスターだった。


挿絵(By みてみん)


 お金もあまり無いし、取りに行ったんだが山奥に生息しとるし、強力な呪文を3種類くらい使うしで危うく道案内のオッちゃんが死にかけた。

 なんとか数十本羽をムシッて帰ってきたわけだ。


挿絵(By みてみん)


『少し読ませてくださいよ』


 興味出てきたのかリィズちゃん。


『いいよん』


 描きかけの羊皮紙を木枠に付けたまま渡す。


『えーーと、こちらの男性はカイルライン様なんですか?』

『そう、そう、で、反対側のがザクナール様』


 カイルライン様はこの都の東側を守護する騎士団長だ、西側がザクナール様、2人ともかなりのイケメンで若くして騎士団長になったらしい。

 なんでも前任の騎士団長に孤児として拾われたそうだ。


 急にリィズちゃんは頬を赤らめる。


『あ、あれ? ヒサメさんなんかここの絵、2人で手を繋いでません?』

『ええ、繋いでるわね』

『繋ぎますかね? お二人』

『繋ぐわよ、騎士団長だもの』

『あ、あ、れ? なんか服着てませんよこの次の絵』

『服ぐらい脱ぐわよ、騎士団長だもの』

『あ、あれ、なんか、その、抱き合ってませんこれ?』

『抱き合うわよ、騎士団長だもの』

『ヒサメさん! なんか変ですよ!』


 リィズちゃんは混乱しているようだ。


『私がいた元の国では男性2人でそういうことするのは普通だったの』

『そうなんですかぁ、ヒサメさん別の国から来たとか以前言ってましたけど冗談だと思ってました』


 ごめんリィズちゃん、普通は少し盛ったわ。


『けど、ヒサメさんこの国ではこういうのはかなり問題なんですよ』

『なんで?』

『この国はかなり厳格な宗教国家なんで同性愛とか見つかったら広場でムチ打ちされたりするんですよ』

『こわ』

『だから、こういった書物も見つかるとかなりの罰を受けると思いますよ』

『そうなんだ』

『同性愛の絵を描いて処罰を受けた話は聞いたこと無いからハッキリとは言えないんですが、たぶんダメだと思います』

『で、どうだった?』

『は?』

『だから、読んでみてどうだったの?』

『イケナイ物を読んでいるなという緊張感みたいな興奮はありますね』

『ふむふむ、才能あるわね』

『なんの才能ですか』

『読む才能よ』

『読む才能ですかあ』

『物語には書く才能と読む才能があるの』

『はあ』

『とりあえず、ほら、コッソリ描くだけだし酒場の用心棒ってのもヒマなのよね、別にここで描いてもいいわよね』

『まあ、コッソリなら』


 などと言いながらリィズちゃんが羊皮紙をカウンターに置いた瞬間だった。


『なんだと! このヤロウ!』


 ガタイの良い兄ちゃんがカウンターに突っ込んでくる。


『おわっ! あっ!』


挿絵(By みてみん)


 私の飲んでいたお茶とか兄ちゃんの持っていた酒が羊皮紙にゴッソリとかかってしまった!


『姉ちゃんすまねえな、ちょっと端に避けといてくれってぐわっ!』


 私は兄ちゃんの胸ぐらを掴む。


『な、な、な、なんだ姉ちゃん』

『あんたね、これ一枚いくらすると思ってるのよ!』

『あ? 羊皮紙か? すまねえこのケンカが済んだら弁償する』

『あのねえ紙は弁償出来ても中身はまた描かないといけないでしょうが! あとこの店は当たり前だけどケンカ禁止!』

『すまねえ姉ちゃん、すぐ終わらせるから』

『ダメだってるでしょ!』


 仕方ないので魔法で店外に吹き飛ばす。

 兄ちゃんは派手な音を立てて店外に飛んでいった。


『ヒサメさん、穏便に』

『分かってるわよ』


 店外の通りに出ると兄ちゃんのケンカ相手も含めて5、6人通りに出てきた。


『いてて、姉ちゃん魔法使いか』

『まあね、あんたら今日は帰んなさいな』

『相手が魔法使いといえど女に舐められる訳にはいかねえ』

『古い頭。しかもあんた、あんまり見ない顔ね』

『ああ、ここのもんじゃねえ』


 常連客の罵声が響く、兄ちゃんやめとけーーと。


挿絵(By みてみん)


 まあ、軽めに焼いとくかあ。

 こうして1日は終わるのだった。


挿絵(By みてみん)


『あのう、ヒサメさんお願いがあるんですけど……』


 いつものように酒場のカウンターで用心棒をしながら漫画を描いているとリィズちゃんが話しかけてきた。


『なに、急に改まって』

『ヒサメさんが描いている漫画あるじゃないですか、それを貸して欲しいんです……』

『貸す? 何で』


 どうした? リィズちゃん興味出てきたのか?


『実は私の幼なじみが集まって軽い社交をする場があるんです、毎回文化的な話題をするんですよ』

『ふむふむ』

『幼なじみも色々な人がいて、庶民もいれば、半分貴族の様な人もいて、毎回ネタを考えるのが結構大変で』

『ふむふむ』

『それで最近はこんな面白いものありますよ〜なんて話題に出来たらなあと』

『つまりリィズちゃんは私の漫画を紹介してくれるってこと?』

『そうなりますね』


 なんと! ありがたい! こちらに来てそろそろページ数も上がってきたし、どうにか発表したかったとこだ!


『もちのロンでOKよ! でも大丈夫なの? なんかこの国では内容がまずいとか言ってなかったっけ?』

『まあ、私的なお茶会みたいなものなんで、たぶん大丈夫かなぁと』

『じゃあページ番号振って羊皮紙を鞄に詰めて渡すから、ヨロしくね、あと、なんなら貸し出してもいいから』

『こちらこそ無理言ってすみません、よろしくお願いします』


 なんか知らんが急にこちらの世界で人様に漫画を見せる流れになった。


 リィズちゃんに漫画を貸して数日、どうやらリィズちゃんの話ではかなり好評で何人か貸出を待っているらしい、なんでも描いた本人に会いたいとかで近場の喫茶店みたいな所にお呼ばれすることとなった。


『リィズちゃん、このお店でいいの?』

『はい、奥の部屋で待ってますよ』


 店の奥、個室に案内される、中にはテーブルを囲んで女性が5人程座っていた。


挿絵(By みてみん)


『貴方がヒサメさん?』

『あっ、は、はい、どうも』

『漫画、大変感動しましたわ』


 そこからはワイワイ漫画の感想や元いた国(日本)の質問など様々な話題を話した。

 話を聞いてみると、こちらの世界ではフキダシの表現が新しく感じるようだ、我々日本人はフキダシに慣れ親しんでいるが、慣れていないと文字と絵を両方見てコマを追うというのがなかなか難しいらしい、初めは上手く読めないそうだ、幼い頃から漫画表現にドップリな自分は自然に頭が処理していることになる。


『慣れてきたら普通に文章を読むよりも漫画の方が読み易いくらいですわ』


 だが最終的にはこうなるらしい。


『しかし本当に新鮮でしたわ、まさか男性同士の友情をあのような形で表現するなんて、ヒサメ様の国ではああいった表現は普通なのですか?』

『え? なんというか……戦国武将も嗜んでとか』

『戦国武将?』

『え、あ、その、地方領主みたいなもんです』

『そうですか、確かにこの国でも宗教関係者や領主の間でそういった遊びがあるなんて噂話もありますわ、ヒサメ様の国はこの国よりもずっと開かれているのですね』

『さ、最近は昔よりオープンになったかなあ……』


 などなど話ながら時間は過ぎていった。


挿絵(By みてみん)


 あれから何日か経ったのだが漫画はまだ返ってこない、なんでも色々な人に又貸しされているらしい、ちゃんと管理されてページが欠けたりしていないかかなり不安だが仕方ないか。

 最悪バラバラになっても追跡出来るように各ページには魔力で印を付けてあるので魔力を辿れば探せるようになってはいるが。

 今日はまた喫茶店にお呼ばれされたので向かう、この国のことをまだあまり知らないので皆に色々と聞いてみようかな? 日本や漫画の話も良いがよくよく考えたらこんなに情報集めに向いている場所はない、リィズちゃんだけの知識ではいくらなんでも限界がある。

 運が良ければ草原爺さんの話も拾えるかもしれないしカイルライン様やザクナール様の情報も仕入れたり出来るかもしれない。

 むほほ。

 意気揚々と喫茶店に入るとすでに何人か部屋で待っていた。


『ヒサメ様、こんにちは』

『こんにちは、あれ? どうかしました?』


挿絵(By みてみん)


 挨拶して気が付いたんだが、なんだかみんな顔が暗い。


『それが実は少々困ったことになりまして』

『困ったこと?』

『はい、ヒサメさんの漫画なんですけど、どうやら借りていたご婦人が何処かで紛失してしまったらしいんですよ』

『あ、ががが、な、なんと!』


 あーーっ、やっぱりちゃんと管理出来て無いかーー、羊皮紙は高いのでもう少しちゃんとして欲しい。


『大丈夫! 大丈夫! こんなこともあろうかと実は魔力でページに印付けてましたから! やるねヒサメちゃん』


 あ、あれ? なんだかご婦人達まだ浮かぬ顔だ。


『ただ落としただけなら良かったのですが、運悪く落とし物が憲兵に見つかってしまい、どうやらその件で、今日、街の広場にて何やら集まりがあるとのこと』

『憲兵? 集まりって、何を?』


 いやもう訳分からんのだけど?


『恐らくですが内容に問題があるので公開して犯人探しか、司教によるお説教などが考えられます』


 おおおお、公開? あれを?

 チョット待ってくれ! BL漫画数日前に貸し出しただけだぞ? いきなり展開が急過ぎんか?


『あばばばばば、ま、マジか、一体どうすれば』

『とりあえず広場に行って確認しましょう』

『は、はいっ』


 これは現実なのか? ふらつく頭を抱えて広場に向かうことになった。


 どうやら広場というのはカイルライン様のお屋敷の手前にあるらしい。

 リィズちゃんにカイルライン様の屋敷を教えてもらう、話をしたらリィズちゃんも一緒に来てくれることになった。

 カイルライン様のお屋敷には人集りが出来ていた、お屋敷に上がる階段の踊り場辺りに人が立っている。


挿絵(By みてみん)


『ひ! ヒサメさん! あれは』

『!』


 なんと踊り場の人はカイルライン様だった。

 しかも何かを群衆に見せながら説明している。


『あ、あ、ああ、あれは』


 カイルライン様が群衆に見せつけている羊皮紙はどうみてもなんか見覚えのある私の漫画だった。

 カイルライン様は群衆を前に吠える。


挿絵(By みてみん)


『本日、布令を出し、皆に集まってもらったのは他でもない、私は今! 邪教の教えを手にしているのだ!』

『おおおお』

『何て恐ろしい』


 町の人達は本気で怯えている。


『先日、憲兵から私の元に届いたこの書物! 今まで見た事もないような書式で何やら私のことが書かれている! しかも内容はこの国にはあってはならない禁断の交わり! まさに我が国の教えにとって禁忌と言えるもの!』


 はわわ、ヤバい。


『恐らくは異国の形式で書かれたもののようだが、文字は我が国のものだ! つまりこの異国の邪教を我が国に広めようとしている輩がこの町にいるのだ!』

『おおおおおお』


 異国の邪教て。


『内容はとても口に出来るようなモノでは無いが、あえて私はこの国のため皆に知ってもらおうと思う! 似たような形式や内容の書物を知っている者や見た事がある者は、私、もしくは憲兵に知らせて欲しい!』


 は? え? まさか?


『えーー、それでは、今から内容を朗読させてもらう!』


 はあ?ーーー!!!!!

 え、え、ち、チョットまて!

 まさかここで内容をカイルライン様が読むの?


『えーー、まずは一行目から……』


 はわはわわをわわ!!!!

 そこから私の漫画の朗読が始まった……


 群衆se


 ザワ、ザワ、ザワ、ざわ


『ヒサメさん? え? ヒサメさん、大丈夫ですか?』

『はぶっ、はばぶ……』


『ヒサメさん! 今、それ、どんな状態なんですか!』


挿絵(By みてみん)


『ふふふふ、自分の漫画を公衆の面前に晒されて悲しいやら腹が立つやら、けどカイルライン様本人に朗読されるなんてむしろご褒美な状況で喜怒哀楽の感情がいっぺんに高まって上手く脳が感情を処理出来ないの……』

『大丈夫ですか……涙と鼻血となんか口から漏れてますよ!』

『うふふへへへ、大丈夫じゃないみたい、もう限界だから落ちるわごめんね……』

『ヒサメさん!』


 はばぶぶ……


挿絵(By みてみん)


『う、うーーん』


 ハッ! 私の漫画!

 あ、あれ? ここは? あらら月が綺麗……

 確かこの世界は月が二つあるから、サキの月か、アトの月か? あれはどっちだろう?

 それになんかこの柔らかい感触……


『ヒサメさん、大丈夫ですか?』


 頭がようやく冴えてきた、どうやら自分は広場で気絶してしまったようだ。

 最後にもう限界なんで落ちますねみたいみたいな、オンラインゲームの寝落ちみたいなこと言ったのは覚えているんだが……

 そこから先の記憶が無い無い。


『ごめんねリィズちゃん』


 現状の私は酒場のお外でリィズちゃんに膝枕されている状態みたい。

 ああ、リィズちゃんかわいいね、お月様がよう映える。


『ヒサメさん、漫画の内容をカイルライン様に朗読されて、いろいろ顔から噴き出して倒れたんですよ、ああ、お顔は拭いておきましたから、今のヒサメさんはお綺麗ですよ』

『ううう、ありがとう』

『いえいえ、元はといえば私がヒサメさんの漫画をお借りしたのが原因ですから』

『ううう、ありがとう』


 冷静に考えればそうなるか……けど漫画落としたのはリィズちゃんじゃないからなんとも言えんなこりゃ。

 リィズちゃんほんまええ子や、ワイが男の子ならほっとかへんでホンマ。


『ところでリィズちゃん、あのあと漫画どうなったの?』


 ちと聞くのが怖いが聞いておかねば。


『あの後ですか? 確かカイルライン様が朗読を終えてそのまま持って帰られたような』


 ふむふむ、良かった、最悪公衆の面前で焼却されるかと思ってた。


『じゃあ行かなくちゃね』

『ヒサメさん? 今から何処か出かけられるんですか? さっき倒れたばかりなのに』

『うん、一応漫画の場所が分かるように魔法で印を付けといたから取返しに行くわ』


 リィズちゃんかなり驚いてる。


『本気ですか? 相手は騎士団ですよ? いくらヒサメさんの魔力が強いといっても……』

『そうね、無茶なのは分っているんだけどね、こればっかりはケジメなんで行かないと』

『また描くとかじゃダメなんですか?』


 私は深いため息を吐く。


『めんどくさいのよ結構』

『は、はあ』


 リィズちゃんは絵を描かないから分からないのは仕方ないが、同じ絵を何回も描くのは私にはかなーーり苦痛なのだ。


 まあ人によるかも知れんが……


『それにね漫画の原稿というのはね作者のものなの、他の誰のものでもないわ』


 元の世界でも出版社の編集が勝手に原稿を処分したりとか、紛失したりとかあったが、ああゆうのは絶対にゆるせんタチなのだ私は。


『い、行くんですね、命をかけて不純な羊皮紙を取返しに』


 なんか言い方気になるなリィズちゃん。


『あはは、まあ、大魔導士ヒサメちゃんならちょちょいのちょいよ!』


 というわけで私は原稿を取返しに向かうのだった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 台本形式?
[良い点] サクサク読めるギャグで面白かったです!やっぱりナカシマさんの文章は良い意味で軽くて読みやすい♪でもキャラの内面は濃くて、短いながらもとても満足出来ました!次の話も楽しみだな~。期待してます…
[良い点] 背景がうまい。 [気になる点] 主人公が描いているBL本がどんなジャンルなのか知りたい。 [一言] 今後、カッコいい男性キャラが増えて、主人公達とどう絡むのか期待しています。
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