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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

愛を知らない狼の話

作者: Alice



 わたしは人とは少しだけ違い満月の夜になると大きな爪と牙が出てくる奇病に悩まされていた。


 だから、生まれてすぐに両親に捨てられ孤児院で育った。みんなと一緒に生活するから、我慢することも多いし、ここにいる人間は全員みんなには普通にいる両親という存在に愛されたことすらない薄っぺらい人間だ。


 愛ってなに?と誰かに問いかけてみても、ただうすっぺらい笑顔しか帰ってこない。両親ってなに?と問いかけても、愛をくれる存在としか答えは帰ってこない。


 本当に、両親が愛をくれるならわたしは一体何なのだろうか?私の両親は、私を気味悪がりました。私の両親は、私を捨てました。


 わたしの両親は、わたしを愛してくれてましたか?いいえ、きっと愛してくれてなかった。だって、わたしを愛してくれているならこんな所に捨てないはず。わたしを愛しているなら、可愛がってくれたはず。


 所詮、わたしは両親に捨てられただけのあわれな人間に過ぎない。だから、愛されたくても誰も、私を愛してくれなかった。


 けど、そんなある日私に転機が訪れる。わたしを娘として引き取りたいという人が現れたのだ。その人達の名前は、カイムとルリ。この国の大統領を勤める人間と、その奥さんらしい。


 孤児院に多額の融資をするという条件でわたしを引き取るという話だったらしく、孤児院も喜んでその条件を受け入れた。ということで、二人が孤児院に来てから三日でわたしは今まですんでいた孤児院とお別れすることになった。


 少ない荷物をまとめて、今まで育ててくれたせんせーにお礼を言って、カイムとルリのいる馬車に乗り込んだ。中には、笑顔の二人がいて歓迎してくれた。


 わたしは愛想笑いで二人に笑いかけ、これからよろしくお願いしますと声をかけた。そこから二人に色々質問されて、それに答えていたらあっという間に二人の家についてしまった。


 馬車を降りてみるとびっくり、そこには大豪邸があった。そんなわたしに、カイムはこれからはここがおうちだから徐々になれていってねと言う。わたしは、驚きすぎて固まった表情のままコクりとうなずくと、二人はまた朗らかに笑ってくれた。


 そのまま、広い家の中を案内されて、一つの部屋に通された。その部屋にはおもちゃがいっぱいあって、全部自由に使っていいよと言われた。三人で中にはいると、使用人さんが外から扉をしめてくれて、部屋の中にはわたしとカイムとルリの三人だけになった。すると、少しだけ二人は険しい表情になり、突然変わった雰囲気に驚きながら首をかしげているわたしにこういった。


「ねぇ、確か君は大きな爪と牙を持っているんだよね?ちょっとそれを見せてくれないかな?」


 いきなり病気のことについて尋ねられて、わたしはおどろいた。どうして、二人がわたしの病気について知っているのかはわからなかったけど、今は満月の夜じゃないし出来ないはずだから、すぐに首をふってこう答える。


「わたしは、満月の夜にしか爪と牙は出せないの。だから、今はできないわ」


「出来るはずだよ、もしかしたら今までやったことはなかったのかもしれないけど、爪と牙がはえた自分の姿を想像してみて?」


 出来る気はしなかったけどわたしは素直に自分の姿を想像してみた。すると、そこには爪と牙がはえた自分がいつのまにかにそこにいたのだ。それをみた二人は、とても嬉しそうな顔をしていた。


「良くできました。流石、人狼の一族の血を引いているだけあるなぁ」


 人狼?一族?なにをいっているかわからない。そう思って首を傾げていると、横にいたルリが説明してくれた。


「あらぁ、知らないの?あなたは、人狼っていう人間と狼の両方の特徴をもった種族の血を引いているのよ。」


 ずっとそれを病気だと思っていたわたしはさらに訳がわからなくなって聞き返す。


「病気じゃないの?」


 すると、カイムは私にも分かりやすいように色々説明してくれた。どうやら、わたしは人狼という種族の血を引いているらしい。その人狼っていうのは人を食べる生物で、山の奥ふかくにある屋敷で人を待ち構えて食べてしまうという人間からしたら怖い生き物なんだとか。


「わかったかな?」


「うーん、よくわからないけど大体わかった。」


 小難しい話しすぎてあまり理解できなかったけど、もう一度といったらなんだか嫌われちゃいそうな気がしたから、わたしはコクンとうなずいた。すると、わたしの痩せ細った体を見て、カイムは呟く。


「そっか……それじゃあ、丁度今日から山奥の屋敷で人間を補食する日だったから君も来る?本当ならつれていかないつもりだったんだけど思った以上に君は痩せこけていたし、ちゃんとしたご飯をたべたほうがよさげだしね。」


「……わかった。一緒にいく」


 そうして、わたしはまた馬車にのせられて山奥の屋敷にまで連れてかれた。進めば進むほどに吹雪がひどくなっていってわたしは心配だったが大丈夫、心配要らないよと言われた。数時間馬車に揺られながら三人で話していると、御者の方からついたという声がかかった。


 危ないからとルリに手を引かれて降りたところには、立派な洋館が一つ立っていた。中にはいると、使用人らしき人が


「おかえりなさいませ、ご主人様。」


 といい中に入れてくれた。部屋に通されて寒かったから暖炉の近くで暖まっていると、ここでなにをするかについてまた二人が色々教えてくれた。ここでは、人狼ゲームという人間を補食するために必要なゲームをするんだという。まだ、幼女である君には理解できないかもといわれ、確かにその通りだったけど、とにかく二人と一緒にいればいいと言われてわたしは静かにうなずいた。


 結局その日は普通にご飯を食べて、三人で豪華な寝台のうえで一緒に寝た。いつもはない暖かい感覚にすこし戸惑いながらも、ここでこんなに可愛がってもらえて、もしかして、これが‘愛’というものなのかな。と思いながら幸せな気持ちで寝た。


 しかし、夜遅く。わたしは二人に起こされた。重いまぶたをこすって、うつらうつらと話を聞いていたらどうやら別の部屋に移動するらしい。三人で、あまり音をたてないようにして、隣の部屋に入った。その中には、ルリの話だとこの辺りで遭難して逃げ込んできた人間だという人物がいた。


 すると、カイムはおもむろにその牙と爪でその遭難者を切り裂いた。私はなにをしているのか一瞬わからなかったけど、一瞬にして私の意識は遠のいたことだけはわかった。


 数分後、わたしは血だらけの洋服を来て立っていた。お腹一杯になっていて、深い満足感と一体なにをしていたのかわからないという漠然とした恐怖を同時に感じていると、カイムが優しく頭を撫でてくれた。


「よくがんばったね。これで、君も人狼の仲間だ。」


 意味はよくわからなかったけど、頭を撫でてくれたこと、仲間といってくれたことが嬉しくて、少しだけ恥ずかしい気持ちになった。そして、いつのまにかに着替えを持ってきてくれた執事さんに着替えを受け取って血だらけの洋服から着替えた。


 次の日、屋敷の中で人が死んだという話を聞いた。きっと、昨日わたしたちが襲った人間のことだろう。ばれないかと少しひやひやしていたけど、ルリが大丈夫だといってくれたら私は安心した。


 そのまま、人狼ゲームという説明を聞いたけどあまり理解できなかったゲームが始まった。予言者やら、霊媒師やら訳のわからない単語が飛び出て、呆然としているうちにトールという人間が銃に撃たれて死亡した。わたしは、それを美味しそうだと思ったけど、食べちゃダメと小声で言われたから大人しくその指示を受け入れた。


 また、日が沈み夜の時間がやって来た。わたしはまた、部屋でルリとカイムに色々はなしを聞いていた。どうやら人間を食べることを人はカニバリズムと呼んでいるらしい。


 本当ならこんなことをしてはいけないけど、そうしないと生きてられないんだって。だから、仕方なくやっていることなんだといわれた。


 あとは同じように人を襲撃したり射殺したりして、さっきと全く同じように目まぐるしく時間が過ぎていった。


 ただ、ちょっとびっくりしたのは途中でルリが射殺されてしまったことだ。ルリは何かを叫んでいたけど、カイムに聞いちゃダメだと言われたから耳を塞いでいた。


 わたしはルリが死んで悲しかったけど、カイムはずっと一緒にいたはずなのに悲しまないのは少しだけおかしいと思ったけどなにも言わないことにした。


 結局、そのゲームではわたしとカイムの二人だけが生き残った。最後に、射殺された人間もわたしとカイムですべて食べてしまい、屋敷をあとにした。それが、初めて人狼ゲームに参加したときの私の記憶だ。


 そして、そこから何回も何回も人狼ゲームにわたしは参加した。ずっと、上手くやっていたから疑われることもなかったし、処刑台に上ることもない……はずだった。けど、今私は処刑台の上にいる。私がへまをしたせいで、周りの人間に人狼だということがばれてしまったからだ。


 そして私は今、カイムに銃を向けられている。その顔は、どこか悲しそうだけど、それはまちがいなく娘を失う悲しみではなく代打のきくパーツを失った顔だった。


 ああ、私の人生は一体なんだったのだろう。妻も娘も失ってもなんとも思わない狂った男に付き合わされただけの人生?それとも、欲望のままに人を殺め続けた愚かな人生?それすら、もうわからない。


 そして、最後にもう一度問います。愛って一体なんですか?

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