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アリスの助け

「ヒカリンさん!」


 ハエ型の魔物を一撃で倒したアリスが駆け寄ってくる。


「大丈夫ですか?」


 アリスの必死な呼びかけで俺は閉じていた眼を開ける。

 あれ?何処も痛くない。

 あれほどの激痛を受けたのにもかかわらず痛みは一切残っていなかった。


「大丈夫です、それよりも魔物は」


 俺は魔物との戦闘中だったことを思い出す。


「それならさっき倒しました」

「え?一人でですか?」

「ヒカリンさんが時間を稼いでくれたのでその間に詠唱を済まして、ドカンと一発です」


 この時はまだ知らない、さっきの魔物は最強クラスではなく、最弱クラスの魔物だということを。


「強いんですねアリスは」

「いえ、そんなことないですよ、それよりほんとに大丈夫だったんですか」


 ヒカリンは知らない、さっきのモンスターはレベル5もあれば簡単に倒せることを。

 なぜなら、レベル100の自分が勝てなかったのだから。


「本当にどこも痛くないから心配しなくてもいいよ」


 俺は笑顔でアリスに言う。


「それよ――」

「確かにヒカリンさんのレベルは高くて、相手は最弱(・・)ともいわれる魔物ですが、さすがに適当にしすぎです!冗談が冗談じゃないですよ!いくら弱い(・・)と言われている魔物でもまともに一撃を食らったら死ぬことだってあるんですよ!」


 アリスは今にも泣きだしそうだ。

 それに俺は今のアリスの発言に耳を疑った。


 最弱?弱い?え?そんな魔物にみっともなくやられたのか、俺は……


 気持ちの整理がつかない。

 確かに俺は地球にいた時から運動は出来なかった。それも酷く。

 ソフトボールの授業ではいまだボールがバットに当たったことがない。サッカーの授業では蹴ろうとしてもボールと足が当たらないし、そのまま大胆に転んでクラスの男子から大笑いされたことなんて数えきれないほどある。

 体育では女子と別々なので女子がそれを見る機会は体育祭ぐらいだったのでその事実を知らない人は多いが、男子の中では常識だった。

 はじめは笑われていたのだが、時間が過ぎるにつれて笑われることも無くなり、ペアを組めと先生が言ったときはいつも辛かった。

 だが、神からチート並みのステータスを貰ったことから戦えると思っていた。

 しかし、そんなことはなかった。

 いくら人外並みの力を与えられて魔物を一撃で倒せるとしても、当たらないのだ。

 これは野球選手がバットでボールを打つ、サッカー選手が飛んできたボールを蹴り返すぐらい当たり前にこの世界の人たちが出来ることだ。この世界の人と言わず日本に暮らすほとんどの人が感覚で出来るというだろう。しかし、俺にはそれが出来ない。

 今思うとそりゃそうだ、スポーツをやったことのない女子でも打てるようなボールを打つことが出来ない。それを才能が無いと言い訳して練習してこなかったのは俺なのだ。ここにきてその付けが来たと思う。日本で笑われることが悔しいと思って家で練習していれば、さっきの戦闘の結果も大きく違っていたかも、いや、大きく違っていた。

 あのハエ型の魔物はヒカリリンの一撃を喰らっていれば確実に絶命していただろう。それほどのレベル差があったのだ。

 ヒカリンは自分の愚かさに幻滅していく。


「ヒカリンさん……すみません、さっきは言いすぎました」

「いえ、自分の不甲斐なさに気付くことが出来ました、ありがとうございます」


 この言葉は俺が心の底から思ったことだ。

 俺はこの世界で戦う以外の方法で生き残ることはできない。

 生きるために剣の練習をしなければいけないのだ。

 やはりこの世界は優しくない。


「これからどうします?」

「今の俺に、この迷宮にいる魔物を倒すことは出来ると思いますか?」

「あれは、ふざけたのではなく、本気で倒しに行きましたか?」

「はい……」

「では単刀直入に言います、無理です。あのままでは魔物に剣を当てることもできないでしょう」

「やっぱりそうですか……」


 もうこの人と迷宮で一緒に戦うことはないだろう、そう思った。


「だから一緒に剣の練習をしましょう!こう見えても私、少しは出来るんですよ」


 やはりこの人は最高だ。

 普通ならこんな足でまといと一緒に戦うなんて考えもせずに切り捨てるだろう。

 だが、この人は違った、剣を教えてくれると言った。

 この人に一生ついていこう、私が育てたと胸を張っていってもらえるような剣士を目指そう、そう心の底から思えた。


「いつか絶対恩を返しします!それまで一緒にいてください!」


 何度目だろうか恩を返すと言ったのは。だが今までの言葉の中で一番気持ちがこもった。今まではこもっていなかったのかと言われるとそれは違う。でもこの世界に来てから――いや、地球にいた時を含めても一番心が動いた、そういう瞬間だった。


「はい、待ってます」


 アリスは飛び切りの笑顔で返してくれる。


「それよりも剣、あのままでいいんですか?」


 そう言われて地面に突き刺さった剣に目を移す。

 アリスは歩いて剣の元へと向かう。


「え?」


 アリスは剣の柄を掴んで地面から引き抜こうとするが抜けない。

 次は俺が剣を掴んで勢いよく引き抜く。

 アリスは引きつったような笑顔を向けてこう言った。


「剣が当たれば敵なしですね、教え甲斐がありそうです」

「お願いします」


 俺は全力で頭を下げた。


「頑張りましょ!」


 アリスはクスクスと笑いながらそう言った。

 日本にいた時とは違うなんだかうれしかったのは気のせいではないだろう。


「でも今の腕では迷宮は厳しいですね、今日は一旦、宿にもどりましょ」

「はい」


 俺とアリスは倒した魔物の魔核と何の素材になるかは知らないが素材になるらしい部位を持って帰った。

 もちろん素材はアリスに持たせずに俺のストレージにしまった。

 それぐらいしか今の俺に出来ることはないもんね。

 帰りも魔物に出会うことはなかった。

 アリスに聞くと、一層は決まったところにしか魔物は湧かないらしい。

 便利な話だ。

 ストレージのことを【次元倉庫】という魔法と間違われたのだが、どう説明すればいいかわからなかったので、似たようなものだというと、実は魔法に才能があるかもねと言われた。

 迷宮に入るときに受付をしてくれた顔と性格にギャップがある優しいギルド職員ともあい、もう帰ってきたのか?などと絡まれたが初めての迷宮で生きて帰れただけでも良かったよと割とマジのトーンで言われてギクッとしたのは内緒だ。

 それ以降は特に特筆することもないまま宿まで戻ってきた。



「あー!わすれてました!」


 ここは公都にある宿、迷宮から帰ってきて俺もアリスもそのまま寝てしまったようだ。


「急に大声でどうしたのですか?」

「服ですよ!」

「はい?」

「だ、か、ら、服ですよ!」

「そういえば迷宮に行く前に言っていましたね」

「はい!そうですよ!」


 そう俺はこの世界に来てからずっと制服で過ごしているのだ。

 洗濯をしてないのか?汚いなー、などとは言わせない、この世界には魔法があるのだ。生活魔法で洗濯、乾燥は完ぺきだ。すべてことの数秒で終わる。


「では今から行きますよ!」

「今からですか?もう少しだけ寝ましょうよ」

「いいえ、もうお昼です。起きてください」


 俺を無理やりにでも起こそうとする。

 それを俺は必死に阻止する。

 筋力の差で俺が負けることはないのだ。

 しかし、アリスがポツリとつぶやく。


「そういえば、今日から剣の練習もするって言ってましたよね?」


 そうだった、俺は今日から心を入れ替えて剣をアリスから教えてもらうと言っていたのだ。


「もしかして、初日からさぼります?」


 アリスは痛いところを突いてくる。

 起きるしかないだろう。


 と、その前に昨日確認を忘れたスキル欄に新しいスキルがないか見とかないと……


 俺はAR表示を起動させる。

 やはり、スキル欄にびっくりマークがついている。

 何らかのスキルが解放できるようになったみたいだ。


【剣技】

【風魔法】


 この二つが増えていた。

 俺は少し悩む。


【剣技】を上げてもいいのか?


 昨日の俺だったら速攻で上げていただろう。しかし、これからアリスに剣を教えてもらうのだ。

 上げないほうがいいのではないか?

 

 そんなことを考えたが、やはり俺はさぼり癖が強いようだ。

 レベル1までとは言え上げてしまった……

 ちなみに、【風魔法】はしっかりレベル5まで上げた。


 次に魔法欄を確認する。

 風魔法のスキルが増えていたことから新しい魔法も追加されていた。


風刀(エアカッター)


 俺はこんなの魔法を見たことがない。

 だが覚えているということはどこかで詠唱を聞いたはずだ。

 俺が気絶している時か……

 

 俺のスキル様はとても優秀らしく、俺が気絶している時でもしっかり聞き取っているみたいだ。


「もう行きますよ!行かないとは言いませんよね?」

「行きます……先に下で待っといてください」

「分かりました、すぐに来て下さいよ」


俺は剣がストレージに入っていることを確認してから、すぐにアリスの元へ向かった。


「先に剣の稽古をしますか?それとも服を買いに行きますか?」

「そうですね……先に服を買いに行きましょう、疲れることを先にしたら行く気力がわきませんから」


 と言っても買い物も地味に体力を使うのでどっちもどっちなのだが。

 決して先に楽な方を選んだ訳ではない!


「分かりました。でしたら早く行きましょ」


 俺とメアリーは二人で服屋に向かった。

 服屋は宿からそれほど遠い場所ではなくすぐについた。


「あら可愛いいお客が久しぶりに来てくれたわ」


 店には筋肉隆々な、女口調のおじさん店主がいた。


「それで今日は服を買いに来てくれたの?」

「は、はい……」


 店主のボディータッチが激しい。


「あら、うれしいわ。あなたのために特別な服を用意してあげる」

 そういって店主は店の奥に入っていった。


「この店大丈夫なんですか?」


 俺はメアリーに聞く。


「だ、大丈夫よ!腕は確かなはずだから……」


 メアリーもさっきの様子を見て少しは心配そうだ。


「お待たせー、体の隅々まで図るから服を脱いでね!」




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