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挫折

「次の、こっちが開いたぞ」


 ギルド証の確認を行っているギルド職員に呼ばれる。

 俺とアリスは呼ばれたほうに向かった。


「ギルド証を出せ」


 受付嬢とは違い、ここにいるギルド職員は皆、強面だ。

 その中でも特に怖そうな職員に当たってしまった。

 全身筋肉に覆われていて相当鍛えていることがわかる。

 声は低く落ち着いていてなんだか粗相をしたら、ドカンと殴られそうな雰囲気を醸し出している。


「あ、はい」


 俺とアリスは自分のギルド証を提示する。


「どっちもアイアンの新人コンビか、お前たち、迷宮に入るのは何度目だ?」

「私が二回目でこっちの子が一回目です」


 アリスが聞かれると分かっていたかのようにさらっと答える。

 鉄の冒険者には聞くような決まりなのだろう。


「だったら、お嬢さんの方は聞いていると思うが、もう一度迷宮についての説明をさせてもらう――」


 ギルド職員の説明を要約すると大切なことは二つ。

 まず、迷宮には三日以上、連続で潜ってはいかないらしい。四日目に突入した時点で捜索隊が結成されるからだもし結成された場合、結成費用はギルドがお金を出してくれるらしいが、討伐品の半分が没収されて、買い取り額も通常の4分の1になるらしいので実質冒険者は結成費用よりも高いお金を罰金として払わないといけないらしい。

 しかし、四日目で結成されるというのは鉄の冒険者に限る。

 銅の冒険者は七日、銀の冒険者は十日、金の冒険者は二十日、ミスリルの冒険者は結成されないらしい。

 ミスリルの冒険者が帰ってこない場合でも捜索隊が結成されないのは単純にミスリルの冒険者が行く場所に誰も近づけないからである。

 逆に言うと、鉄の冒険者の創作の場合は捜索隊を結成しやすい。

 そらそうだ。鉄の冒険者が寄り付くようなところなど、銅以上の冒険者ならば攻略は目をつむってでもできるレベルなのだから。これが二つのうちの一つ、詮索制限だ。

 

 そして、もう一つが侵入禁止エリアについてだ。

 鉄の冒険者の場合、一層のそれも出口に近い六つの区画以外の場所が侵入禁止エリアに指定されている。

 これも冒険者の階級が上がれば解放されていくらしいが……

そんなの無視しちゃえ!とか思うかもしれないが、一つ大きな問題があった、進入禁止エリアで討伐した素材はギルドで買い取ってくれないのだ。

 冒険者ギルド以外では素材の取引を国が禁止している、そのため換金するには冒険者ギルドに売るか、自分で加工するしかないらしい。

 当たり前のように俺は加工系スキルを持っていない、つまり冒険者ギルドで売るしか素材の使い道がないのだ。


「――と、こんなところかな?何か質問あるか?」

「大丈夫です」


 完全に俺に向かって聞いてきた職員に愛想よく返事してやる。


「じゃあ、通ってよろしい」


 ギルド職員がゲートを開けてくれる。

 俺とアリスはそのゲートを通り中に入った。


「気をつけろよ」


強面の職員は大袈裟なくらい手を振って見送ってくれた。

顔は怖いが、心は優しい人のようだ。


迷宮の中は薄暗かった。

電気や松明があるわけではなく、鉱石自らが発光しているのだ。

この発光している鉱石を魔晄石といい、周りの魔力量が多ければ多いほど明るくなるという。


俺とアリスは鉄の冒険者が入れる区間の一つ、第三区間に向かって歩いていた。

第三区は虫系の魔物が多い。

なぜ、虫系の魔物が多いところを選んだかというと単純に弱いからだ。

ゴブリンや蜥蜴類なども他の区間に入るがゴブリンはゴリラより少し賢いくらいの知能を持っている。初心者冒険者だとまんまとゴブリンたちの罠にかかって殺されてしまうことが多いとアリスは言っていた。蜥蜴たちは防御力が高いらしい。蜥蜴の鱗は武器にも防具にも使えるので高くで売れるので、そっちのほうが効率的では?と聞いてみたものの、アリスに初めての迷宮の相手としては強すぎると断られた。

レベル100の俺が負けることなんてそうそうないと思うのだが。

という理由から、迷宮で最弱と言われている虫系の魔物を選んだのだ。

それでも、まともに一発食らえば死んでもおかしくないらしいが……


「ヒカリンさん、つきましたよ」


 アリスが目的地の到着を俺に告げる。

 前には小さな看板があり第三区間としっかり書かれている。

 俺は自分の右上にAR表示されているマップを眺める。

 そこにはまばらに赤い点が表示されていた。

 人は白色で表示されるので赤色は魔物だろう。

 本当に便利だ。


「それでは行きましょうか、ここからは魔物にほぼ確実に遭遇します気を引き締めてください」

「分かりました」


 どこに魔物がいるか全部わかるのだけど。


 俺たちの右側の壁の反対側ではほかの冒険者たちが魔物と戦っているようだ。

 ここで見に行こうなどとは提案しない。

 気になるとか思ってないからね!


「まずは突き当りまでまっすぐに進みます、道が交錯している場所ではしっかりどちらも警戒してくださいよ」

「分かりました、右見て左見てまた右を見て手を挙げて渡る、ですね」

「手は挙げなくてもいいですがそれぐらい警戒していいでしょう」


 さすがにこの世界には日本の横断歩道の渡り方ってことはわからないみたいだ。

 当たり前だが……


 俺たちはこの後も、アリスの話を聞きながら迷宮を進む。

 しかし、俺にはAR表示というチートがあるそんなことから少し気が緩んでいたかもしれない。

 右からすごい速さで飛んできたハエ型の魔物に気付いたのは俺ではなくアリスだった。


「危ない!」

 

 アリスは俺を突き飛ばす。まるで、自分が女の子を助けて死んだ時のように。

 しかし、アリスが死ぬなんていう事にはならなかった。しっかりと勢いをつけて自分も一緒にハエ型の魔物の進路から逃れたのだ。

 そんなときに、アリスのボリューミーな胸が顔に当たり少しうれしかったというのは内緒だ。

 今はそんなことを考えている場合ではないのだ、気を引き締めなくては。


 ハエ型の魔物は俺たちの避けられたと分かると、すぐに百八十度回転して戻ってきた。

 俺は慌てて剣を抜く。

 アリスは魔法使いなので後衛がメインだ。

 俺は剣を構えてしっかりとハエ型の魔物を見る。

 魔物は時速六十キロは超えているだろうスピードで飛んでくる。

 所詮は六十キロだろ?プロ野球選手が投げる球のほうが倍以上速いじゃないか、と言う人もいるかもしれない、しかし、想像してみてほしい軽自動車が六十キロで自分に向かって突進してくることを、普通に生活している人ならば足がすくみそのままひかれてしまうだろう、このハエ型の魔物は人と同じ位の大きさはあるのだ。車とそう対差はない。


 後ろでアリスが詠唱を始める。


「■■■■■■――」


 アリスが詠唱を唱え終わるまで俺が抑えないといけない。

 大丈夫、俺はレベル100だ、恐れることはない……

 どんどん近づいて来る魔物をみて剣を握る手に力が入る。


 大丈夫、俺のレベルは100、負けるはずがない、大丈夫、大丈夫、大丈夫……


 魔物との距離は3メートルを切った。

 そこで動き出す。

 俺は完ぺきに切った、と思った(・・・)――


 スカッ、あれ?


 俺の思い切って振った剣は見事に空振りし、地面に突き刺さる。

 他の冒険者に今のを見られたら、笑いながら「そんな前衛に頼らずとも俺が守ってやるよ」などというきざなセルフでアリスを引き抜こうとしたに違いない。

 それほどひどいのだ。


そんなことを思ったのも束の間だった。

おなかから全身にかけて激痛が走り壁まで吹き飛ばされた。


「――■■■、風刀(エアカッター)!」


俺が壁に激突したのと同時にアリスから数個の刃が放たれた。

風で作られた刃だ。切れ味はそれほど高くないが柔らかい皮膚を持つ虫系の魔物が相手だったら問題なく切り刻めるのだ。


ハエ型の魔物はアリスの魔法によって千切りにされる。

そう、このハエ型の魔物はただ早いだけの迷宮の中では五本の指に入る弱い魔物なのだ。

 この時の俺はハエの魔物を天文学的確率で偶々出くわしてしまった中ボス並みの魔物だと勘違いしているのは内緒だ。


 ――やっぱり、勇者になる者の元には自然に強い敵が現れてしまうのか――



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