買い物
俺とアリスは武具屋に来ていた。
「ヒカリンさん!それがいいですよ!」
「そうですか?」
俺はフルアーマーの鎧を着ている。
「ご主人、これの値段は?」
「銀貨10枚だ」
銀貨10枚だと……
俺は来ていた鎧を脱ぐ。
さすがに銀貨10枚は高すぎる。
「ヒカリンさん!なんで脱いじゃうんですか?」
「さすがに銀貨10枚は高すぎますよ」
「確かにそうですね……、銀貨1枚とかならないですか?」
アリスは無謀としか言えない値切り方を始めた。
「――仕方ない、剣をつけて銀貨3枚でどうだ?」
「やったー、それでお願いします」
本当にやり切ってしまった……
鎧が銀貨10枚、剣が銀貨5枚だったのだが、結局それの5分の1まで落としてしまった。
「よかったですね!安くで買えて!」
そう言って笑いながら剣と鎧を差し出してくる。
「まさか、あそこまで値切れるとは思いませんでした」
「駄目ですよ!ここの商売人は高値で言ってくるんですから値切るのが基本なんですよ」
これから何か買うときは値切らないといけないな。
「それよりヒカリンさんは宿とか取っていますか?」
「ご存知の通り一文無しなので……」
「分かりました、それでは私の取ってる宿に行きましょ!」
こんなにも恩を買っていいのかとも思うが、今はそれしかどうしようもないのでアリスに甘えるとしよう。
「ありがとうございます……」
「いいんですよ!私たちは迷宮で一緒に戦うパートナーなんですから」
「はい!」
本当にいい人に出会った、転移してからの初日は正直なところ不安になる出来事しかなかったが今ではそんな不安もどっかに行ってこれから先が楽しみだ。
◆
俺とアリスはアリスが部屋をとっている宿屋の受付まで来ていた。
「え?昨日までは開いてるって言っていたじゃないですか!」
「そうなんですけど急に団体のお客様が入ってしまって……」
アリスは一緒の部屋でいいかと聞いてくる。
俺としては、こんなに美人のお姉さんと一晩同じ部屋っていうのはうれしいことだ。
ちがうぞ!俺はやましいことなんて考えてないからな!
「俺は大丈夫ですけど……」
「分かったならいいわ!一緒の部屋で寝ましょ」
ちょっとその言い方は……
周りにいる客もヒューヒューと煽ってくる。
アリスは自分の言ったことが勘違いされていると気づいたようで顔を真っ赤にしている。
「行きましょ!」
そう言って、アリスは足早に部屋へと向かった。
◆
ごはん時になり、アリスと俺は宿の1階にある酒場の席へとついた。
注文をしてから30分後やっと食事が運ばれてきた。
「やっと来ましたね」
「そうですね、でも、今日は料理人も大変そうです」
頼んだものは、火蜥蜴の燻製肉だ。見た目は何の変哲もない美味しそうな見た目だが、名前を知らないまま食べたかった。
「どうしたのですか?早くいただきましょ!」
「はい」
アリスが小皿に俺の分を取り分けてくれる。
「ありがとうございます」
なんだかアリスが楽しそうだ。
あまり人と食事をする機会がないのかもしれない。
「いただきます」
「変わったことを言うのですね?」
アリスが不思議そうな顔で尋ねる。
「俺の故郷の伝統的なものですよ、この食事にかかわったすべての人や物に感謝するんです」
「そんなか文化があるんですね」
アリスも俺の真似をして合唱しながら小さな声でつぶやいた
「いただきます」
火蜥蜴の燻製はそれなりに美味しかった。
しかし、何かインパクトに欠ける、香辛料などが少ないのかもしれない。
俺は冷静に料理を分析する。
「おいしかったですね」
「そうですね」
「そろそろ寝ますか?」
「そうしましょ」
こういうときはお酒に誘われたりするのが異世界もののテンプレだがそういう事でもないようだ。
俺とアリスは部屋へと戻ってきた。
「――俺は下でいいのですけど……」
「そんなの私が許しません!」
「でも、お金を払っているのはアリスであって俺ではないわけですし……」
「それはそれ、これはこれです、明日はヒカリンさんにとって初めての迷宮ですよ?しっかり体力を回復してもらわないと困ります!」
俺とアリスは部屋に戻ってからどこで寝るかについての口論をしているのだ。
さすがにお金を払っているアリスにベッドを俺が使ってアリスが下で寝るなんてことを許せるはずもなく口論が終わらない。
「だったら二人で寝ましょ!」
アリスはこれですべて解決!みたいな清々しい顔をしているが何も解決になっていない。
「さすがにそれは……」
「大丈夫ですって、このベッド広いですし」
だから、そういう問題じゃ……
俺もアリスも太っているわけではない。
どちらかと言えばアリスなんて細いほうだ。
一部を除いて……
「大丈夫って……、そういう、もんだ――」
「分かりました、これは宿代を払っている私の命令です、聞けないとは言わせませんよ?」
そう言われたら何も言い返せない。
俺は小さくうなずいた。
「よろしい!私は今から体をきれいにしますけどヒカリンさんも一緒にします?」
「え?」
お姉さんと一緒にお風呂イベント――ってことにはならなかった。
この世界で、お風呂に入ることはほとんどしないらしく、そもそもこの宿にそういう設備は備わっていなかった。
俺とアリスはアリスが使う生活魔法「洗浄」で体を洗った。
今思うと、俺はこの世界に来てから一度も体を洗っていなかった。
そんな状態でアリスといたなんて恥ずかしい。
「その服どうします?洗いましょうか?」
服も忘れていたが、牢屋に入れられたときに大分汚れてしまっていたようだ。
「お願いします」
「それよりにそんなしんどそうな恰好で寝るのですか?」
今着ている服は死んだときと同じ制服だ。
確かにこの格好で寝るのはしんどい。
「はい、今はこの服しか持ち合わせがないので」
「それならそうと早く言ってくださいよ!明日の迷宮からの帰りに衣類店に寄りましょ!」
「ありがとうございます」
「それでは寝ましょうか」
「はい」
女の人と寝ることなんて緊張で寝られないかと思ったが、意外とすぐに寝付くことが出来た。
異世界生活なんて楽勝だと思っていたが、こっちでの生活はそれほど楽ではないようだ。
大きく生活が変わっているにもかかわらず、いとも当たり前に生活しているラノベ主人公、おそるべし。