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証明

 ――周りが騒がしい……


「見つけたぞー!とらえろ!」

「え?」


 俺は両腕をガッチリ抑えられる。


「お前を反逆罪の容疑で捕まえる!」


 ――何が何かわからないまま俺は捕まってしまった。



 捕まってから3日目、今、俺は牢屋にいる。

 しかし、捕まえた者たちに文句は言わない、お礼を言いたいくらいだ。

俺は牢屋に入ったことで生き延びることが出来た。

 牢屋に入っていれば朝と夜で、1日2食ごはんを運んできてもらえるし、安心して寝る場所で寝ることが出来る。

 不便なことと言えば、少しご飯の量が少なくて不味いことと、足が鎖でつながれていて擦れて皮が捲れてくるので痛いことぐらいだろう。


 うん、死ぬのよりはましだ!


 いつもの時間に衛兵がご飯を持ってくる。


「朝のご飯だ」

「ありがとうございます」


 衛兵は詰め所に戻ろうとしてからすぐに引き返してきた。


「言い忘れていたが、今日は領主様が直々にお前に刑を言い渡す、一応、頭に入れておけ!」

「分かりました」


俺は衛兵が詰め所に戻るのと同時に不味いめしを口に掻き込んだ。



太陽が一番高い場所に昇った頃、衛兵が牢のカギを開けた。


「出ろ!朝言ったように今から領主様に会いに行く、俺についてこい」


 衛兵は俺の足が繋がれた鎖を手に持って、俺の前を歩く。

 このままでは、どうすることもできないので、俺は指示された通りに衛兵についていく。

 50段ほどの螺旋階段を上ると地上の明かりが見えてきた。

 俺は久しぶりの外の光に耐え切れずに手で顔を覆った。


 数秒で視界は回復していき、公都の街並みのきれいさがよく分かった。

 来て見ればさほどなし富士の山ということわざを聞いたことがあるが、この街は本当にきれいだ。

 

 そんな街の光景を目に焼き付けながら領主の元へと向かう。

 判決場と呼ばれているその場所はきれいだった。

 美しい装飾品がきれいに並べられていて、派手だがどれもが主張し合わず他の品々を尊重し合っている。

 見事の一言で尽きるだろう。


「ここで止まって跪け!」


 周囲を見渡しながら歩いていると衛兵が命令してきた。

 俺はなにも言わずに止まる。


「領主様のご入場!」


 一人の槍を持った騎士が声を上げる。

 掛け声とともに部屋にいる全員が跪く。

 50代ぐらいのおじさんが袖幕から出てきた。

 多くの装飾が施されている。


 派手だ。


「面を上げよ、お前が反逆を疑われている者か?」

「はい、そうでございます、こいつは身分証明書を提示せずに公都内に入ろうとしていましたので、反逆の疑いで捕まえました」

「そうか、ならばアイツを放してやれ、奴は敵意を持っていない、無害じゃ」

「はは」

 

 ずっと隣にいた衛兵がポケットからカギを取り出し足に付けられた鎖を外してくれた。

 まさに鶴の一声だ。

 

 でも、なんで俺が敵意を持っていないって判断できたのだろう?


「なんじゃ?疑問があるようじゃな?言ってみよ」

「それでは無礼を承知でお聞きします、なぜ私と一言も話す前から敵意がないことをお察しできたのですか?」

「それは、私には真眼があるからじゃよ、私に嘘は通じん」


 多分ユニークスキルみたいなものだろう、でも異世界ものだと主人公には通じない!みたいなことも多いよね。


「聞きたいことはそれだけか?」

「あと一つだけ、身分証明書は発行することが可能なのでしょうか?」

「可能だ、そこの衛兵!」

「は、はい!」


隣の衛兵は突然の指名に慌てて返事する


「こいつを発行所まで連れて行ってやれ」

「はい」


 そう言い残して領主は袖幕に戻っていった。


「それでは行こうか」

「よろしくお願いします」


 さっきまでの口調と変わり、とても柔らかい口調だ。

 優しい人なのだろう。


「短い付き合いだけど自己紹介するね、僕はベガです」

「俺はヒカリンです」


 なんだその変な名前と思うかもしれないがこちらに来てステータスを確認するとこんな名前になっていたのだ。

 あのクズ神め!


「よろしくヒカリン」

「こちらこそよろしく」


 こんな会話の後に発行所へと向かった。



「ここが発行所だよ」

「ありがとう」

「いいよ、またいつか会う時までね」


 ベガは笑顔で手を振りながら走って行ってしまった。

 発見所はお世辞にもきれいな建物とは言えない、石造りで豆腐型の小屋は周りの建物とは違い石レンガが丸見えだ。

 俺はそんな発行所の中に入った。


「失礼します……」


 恐る恐る入ったが誰もいない。


 それよりも中は外観よりも、もっとひどかった。

 3畳ほどの空間に椅子と机が一つずつ置かれている。

 壁にはコケが生えて椅子と机も少し力を入れたら壊れそうだ。


「ごめんな!待ったか?」


奥にあった扉から40代後半に見えるおじさんが出てきた。

おじさんは水晶玉のようなものを抱えている。


「そこに座ってよ!あ、でもこの椅子座った瞬間壊れてしまいそうだな、立ったままでいいか」

「はい、大丈夫です」


 おじさんは抱えていた水晶玉を机に置く。


「代金は先払いで鉄貨5枚だ」


 その言葉を聞いて固まってしまった。

 俺はこの世界の通貨を持っていない。


「もしかして鉄貨5枚も持っていないのか?」


 おじさんは頭を抱えて黙り込んでしまった。


「ここをどうにかタダでとはいかねぇか?」

「さすがにそれは無理だな。こっちも商売なんだよ、たった、鉄貨5枚と言っても無料にしてしまうと今後の対応に困るんだよ」

「ごめんな」


 俺は諦めて外に出ようとする


「痛っ!」

「すみません!」


 不可抗力とはいえ、この世界に来てからの初めてのラッキースケベだ。

 これはテンプレ来たか?


「いいよ、気にしないで」

「あ、はい」


 異世界王道パターンを少し期待したが現実はそんなに甘くないようだ。

 そんなことよりも、どうにかお金を稼ぐ方法を考えなければ……


「ちょっと待って!」


俺はぶつかった女の人に止められる。

 この世界に来てからの不運さと言えばピカイチだから文句を言われてお金でも巻き上げられるのだろうか?


「すみません、今はお金を持っていないのです、いつかお金を持って謝りに行くので今日のところは勘弁してもらえませんか?」

「嬢ちゃん、こいつが言っていることは本当なんだ、今日は許してやってほしい俺からも頼む」


おじさんは俺と一緒に頭を下げてくれた。


「二人とも何の話をしているのですか?私は怒っていませんよ、それよりも彼の払えない身分証明書発行代を立て替えるつもりでここに来たのだけど?」

「え?」


 俺はその言葉を聞いた瞬間初めて彼女の顔を見た。

 赤髪で顔立ちは整っている、背は平均ほどだろう、ウエストは締まっているが胸はそれなりにある、正真正銘の美女だ。

 こんな人に目をつけてもらえる何て神はやっとご機嫌を直してくれたみたいだ。


「はい、銅貨1枚ね」

「どうも、鉄貨5枚のおつりだ」

「ありがと!」



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